清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • アデル、ブルーは熱い色
    指先は画面をこするためじゃなく、愛を確かめるためにある。
    ★★★★★

     レズビアン映画ではない。これは恋愛映画だ。アイデンティティの定まらぬ少女にとって、自らを受け容れてくれる突然の他者が、女性だった。思いも寄らぬ出会い。隔たりのある立場。何も珍しい物語ではない。劇映画もまたドキュメンタリーよろしく、その瞬間にしか撮り得ないものを写し取ってしまう。監督の執拗なる強要の下、ふたりの女優は身体で表現する域に達していった。視線は絡まり、肢体が混ざり、存在をまさぐり合う。
     
     磁力は長く続かない。永遠不滅なき儚さ。ふたつの肉体に人生が凝縮され、奇跡的な不意の煌めきを目撃した至福感に満たされる。指先は画面をこするためにあるんじゃない。他者に触れ、愛を確かめるためにある。

  • 白ゆき姫殺人事件
    マスメディアが物語を捏造し、ツイッターが悪意を増幅する
    ★★★★

     現代人のはらわたを描かせれば当代一の湊かなえの原作を、中村義洋監督は鮮やかに映像に仕立て上げた。20~30代の俳優陣の演技力が見事に引き出されている。同時代的テーマへ斬り込みつつも娯楽性豊かで、今年の邦画ベストテンに食い込むべき一品だ。
     
     殺人事件に群がる興味本位の人々と、苛まれた当事者たちの想いが積み重ねられる。マスメディアが物語を捏造し、ツイッターが悪意を増幅する。後半に行くにしたがい、メディアによって醸成される悲劇の連鎖が極まっていく。『赤毛のアン』のエピソードと、容疑者とTVクルーの出会いのエピソードは、人間本来のコミュニケーションとは何かを訴える情感溢れる場面として、胸を打つ。

  • ウォルト・ディズニーの約束
    極上のエンタメの底に眠る、悲しみに満ちた作家の極私的テーマ
    ★★★★

     表向きは『メリー・ポピンズ』誕生までの舞台裏の長き確執。ウォルトの映画化への熱き願いを、なぜ原作者トラヴァースは頑なに拒み続けたのか。60年代初頭の時代再現と軽妙なバトルで眼を楽しませつつ、もうひとつの物語を見せる。それは、悲しみに満ちたトラヴァースの生い立ち。表層的には幸せそうな彼女の作品の根底には、非ディズニー的世界観が横たわっている。やがてウォルトは気づき、腹を割って話すのだ。
     
     メタ化という意味では『魔法にかけられて』に匹敵する。と同時に、極私的テーマを如何に普遍化してプロデュースするかという創作論にもなっている。笑って泣けて夢をみながら真実を知る。ディズニーの神髄ここにあり。

  • アナと雪の女王
    名作ディズニー映画には必ず名曲の存在がある。吹替版も必聴!
    ★★★★

     心を閉ざした姉と愛を希求する妹の葛藤をテーマに据え、アンデルセン童話を換骨奪胎。姉が魂を解放させる渾身の歌と氷のビジュアルが素晴らしい。ディズニー復活が謳われた90年前後を思い起こさせるほど、音楽とドラマが一体化している。
     
     ロマンスと躍動感に満ちているが、プロット運びは決して巧くない。善悪バトルの構図を否定したためカタルシスは弱く、ヒロインの貫通行動は見えにくい。しかしキャラを際立たせ、本格的ミュージカルに挑み、コメディリリーフで牽引する力がすこぶる強い。名作の誉れ高いディズニー映画には、必ず耳に残る名曲の存在がある。原語版のみならず日本語吹替版の松たか子&神田沙也加の歌声も必聴だ。

  • それでも夜は明ける
    理不尽な暴力を執拗に見せられ、目撃はやがて激痛に変わる
    ★★★★

     客観視できない。被差別を追体験することになる映画だ。白人と変わらぬ生活を送っていた黒人が突如として自由を奪われ、屈辱を味わう。理不尽な暴力を受ける地獄の日々を、スティーヴ・マックィーン監督は長回しで執拗に見せる。目撃はやがて激痛に変わっていく。
     
     19世紀半ばの実話だが、無関心と排外性が高まる現在に向けられたメッセージでもあるだろう。脚本は終盤に大きな瑕疵がある。しかし重要なのは、アメリカでは国の成り立ちの暗部を新たな視点で見つめる映画が恒常的に生まれ、それを業界団体の最高峰である芸術科学アカデミーが評価して世界に知らしめることだ。翻って、わが国はどうだろう。

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