平沢 薫

平沢 薫

略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中

近況: 全米音楽スーパーバイザー組合賞2025のTV部門の最優秀作曲/録音曲賞(Best Song Written and/or Recorded for Television )を、ドラマ「アガサ・オール・アロング」の挿入歌「魔女の道のバラッド」が受賞してめでたい。古楽風の名曲ですよね~

平沢 薫 さんの映画短評

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  • SKINAMARINK/スキナマリンク
    悪夢のようなどこかに放り込まれる
    ★★★★

     ストーリー紹介は読まずに、前知識のない状態で見るのがおすすめ。タイトルが意味のない造語なのも先入観を避けるためだろう。何も知らない状態で見ると、映画の登場人物と同じ状況に放り込まれ、悪夢のようなどこかを彷徨うことになる。

     そこはどこかの家の内部らしいが暗く、そこにいるのは誰なのか、他にも誰かがいるのかも分からない。映画を見ながらずっと、ここで何が起きているのかを考え続けるしかなく、次第に時間の感覚が失われていく。

     監督は、これまでウェブで短編を発表、本作が初長編となるカナダ出身のカイル・エドワード・ボール。すでに次回作『The Land of Nod』はA24での製作が決定している。

  • コメント部隊
    今、ネットで起きていること
    ★★★★★

     ネットの動向を操作するのを面白がる人たちと、それを利用しようとする人たち、そしてその被害を受ける人たちという、まさに今、起きていることを描きつつ、それをいわゆる社会派映画ではなく、スリリングなエンターテインメント映画にしたところが魅力。この頃、いろんな場所で起きていることを連想させ、なるほどこういうことも起きているのだろうと思わせる恐怖映画でもある。

     さまざまなメディアには偏りもありそうで、さらにネットには膨大なフェイク情報が流通する現在、加害と被害の両面で、誰にとっても他人ごとではない物語。映画のラストに「本編はすべてフィクションです」というテロップが出るのが、逆に恐ろしい。

  • セプテンバー5
    不安と緊張、そして興奮が高まっていく
    ★★★★

     緊迫感が持続する。描く時間は1日、舞台は一室。密度は高く、記録映像のような手触りで描かれ、最後まで切迫し続ける。元は、1972年、ミュンヘンオリンピックでのテロ事件を中継した米TV局現場スタッフの実話。異国の不慣れな環境下、予想外の事態に直面した人々は実状が見えず、情報は錯綜、刻々と変わる事態に瞬時の判断が求められ、不安と緊張、そして興奮が高まっていく。

     政治劇の側面もあり、スタッフ間の政治的意見の対立はごく片鱗しか描かれないのに、一瞬即発の危うさが瞬時に出現する。その一方で"仕事"とは何かを描く仕事映画でもある。極限状況の中、各自のプロ意識、仕事観が問われていくさまも胸に響く。

  • ヒプノシス レコードジャケットの美学
    音楽シーンの移り変わりも見えてくる
    ★★★★★

     ピンク・フロイドの『原子心母』のジャケットで知られるデザイン集団"ヒプノシス"の歴史を、創設当時24歳と22歳だった創設者コンビ、故ストーム・トーガソンとオーブリー・パウエルを中心に描く。現在のパウエルが登場、各時代を振り返る発言も多数。
     そういう映画が、2人の人間の物語を描きつつ、68年から現在に至る音楽シーンの変化を描く歴史物にもなっているのは、監督がミュージシャンを撮る写真家出身で、ジョイ・ディヴィジョンを描く映画『コントロール』の監督でもあるアントン・コービンだからだろう。ジャケットが変わり、音楽のタイプが変わり、ポップミュージックの持つ意味が変わっていくさまが浮かび上がってくる。

  • リアル・ペイン~心の旅~
    脚本がさまざまな痛みを浮かび上がらせる
    ★★★★

     ジェシー・アイゼンバーグの脚本は、人間心理の複雑さ微妙さの描写が上手い。『僕らの世界が交わるまで』でも思春期の男子と母親の、本人も気づかない本心が言葉や行動に滲み出る脚本に唸らされたが、今回も絶妙。従兄弟同士の大人の男2人がそれぞれ抱く、さまざまなペイン=痛みを浮かび上がらせる。ホロコーストという民族的な痛み。相手を好きだと思いながらもそればかりではないゆえに生じるごく個人的な痛み。規模も種類も異なる多様な痛みが、どれも生々しい。

     単純ないいヤツでもイヤなヤツでもない複雑な人物像を自然に体現するキーラン・カルキンの演技も巧みだが、彼と、彼を見る男、双方の心理を細やかに描く脚本が光る。

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