ミルクマン斉藤

ミルクマン斉藤

略歴: 映画評論家。1963年京都生まれ。デザイン集団「groovisions」の、唯一デザインしないメンバー。現在、京都・東洞院蛸薬師下ルの「三三屋」でほぼ月イチ・トークライヴ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。雑誌「テレビブロス」「ミーツ・リージョナル」「キネマ旬報」等で映画コラムを連載中。

ミルクマン斉藤 さんの映画短評

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  • ヒッチコックの映画術
    「たかが映画じゃないか」の本質論。
    ★★★★

    ヒッチコックほど様々な解釈的作品が作られてきた作家は稀じゃないか。これは彼の映画に現れる要素…逃避・欲望・孤独・時間・充足感・高さといった章ごとに各々の具体例を豊富に示しながら、作者自身が分析していくという手法を取る。曰く「ドアを開けることが自分の映画世界に入り込ませる手法」「私の頭の中にあるものを実現するのが映画作り」「物語や社会・心理を表現するためにカメラを高い場所に置く」等々々…。正直、これほど勉強になる映画ドキュメンタリは数少ないといえるかも知れないけれど、語りの時制は現在そのもので死者の視点からなのであり、極めて胡散臭い(笑)。まあ待て。映画とはすなわちペテンなのであるから。

  • 熊は、いない
    映画作りを禁じられた監督を理不尽な受難が襲うメタフィクション
    ★★★★★

    映画製作を政府から禁じられながらもゲリラ的に撮り続け、映画愛とある種の楽天性を持っていたJ.パナヒだが…ここまで絶望感に苛まれ、切羽詰まった息苦しさに覆われた映画は初めてではないか。彼は新作をライヴストリーミングで演出指示しているのだけれど、辺境にある借家はドイツ表現主義のセットのように窓も柱も壁も不安定に傾いていて、精神面でも不安定さがありあり。しかもその村はトルコ国境にあって、あと一歩踏み出せば密出国できるのだ。しかしそこに立つや彼は恐れるように引き下がる。あくまで国内で闘い続けるつもりなのだろうか。ところで本作、「熊」は一切出てこない。その真意はラストのパナヒの表情に痛いほど現れている。

  • 私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター
    ラストのスーパーマーケットには泣ける。
    ★★★★★

    人間に巣くうネガティヴな感情をさらけ出しながらも深刻になりすぎることなく、おかしみと慈しみをもって描ききるのがデプレシャンの美点である。家族の相克についても何度か描いてきた彼だが、今回も姉と弟の近づくことさえ拒否反応の働くどうにも説明の付かない憎しみを追い詰めていく。そんな感情が何故この二人に巣食うことになったのか監督は説明しようとしない。ヒントは所々あったりするが、決して限定しないのだ。時に生の感情を剥き出しにして魅せるマリオンは勿論、メルヴィルが今回とても素晴らしい。父母の葬儀の場でさえ会いたがらない姉弟の間に敢然と割って入り意思を示す、彼の妻G.ファラハニの確固とした眼差しがまた美しい。

  • 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊
    こういう小品を選ぶのもセンスってものだけど。
    ★★★★★

    K.ブラナー監督自身が演じるポアロ3作目。全2作に比べるとずいぶんスケールが小さいが、それもまた一興。戦後、探偵を引退しベネチアで隠棲する、亡霊というものなど信じないポアロが降霊会に招待されるところから物語は始まる。ミシェル・ヨーが演じる主賓の降霊術師は、どう見ても西洋人に見えないのだが、お膳立て自体が芝居がかっていることもあり、その怪演でなんとなく成立しているのが面白い。ただ個人的に、誰それが犯人で終結するというフーダニットものにひどく非映画的なものを感じる僕としては、いくら趣を 凝らそうが多少鼻白む。ま、本作にはちょっとした理性越えの要素もあるのであって、そのあたりがブラナーの悪戯心か。

  • 緑のざわめき
    遅ればせながらかもだが、何も知らずに観るべき!
    ★★★★★

    正直言って常軌を逸した傑作(あるいは怪作)だ。とにかく話の行方がまるで予想できない。想像を絶する展開の嵐、僕が今年の大阪アジアン映画祭で予備知識もなく観たときには唖然茫然。舞台挨拶で「ちょっと盛り込みすぎたかも」との監督の言があったが、当ったり前やろ(笑)。僕は観ながら大江健三郎「同時代ゲーム」や中上健次「千年の愉楽」を思い浮かべていたのだが、案の定、両作家にかなりの影響を受けたらしく、日本流マジック・リアリズムの混沌さに満ちまくっている。夏都愛未の前作『浜辺のゲーム』はオフビートながらも、ある意味まだウェルメイドなコメディだったが、このぶっ飛びようは明らかに彼女の進歩と観る。

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