略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
渡航先で脊髄損傷となる事故に遭い、人生が一変する。間違いなくタイトル通り”大混乱”だったであろうが、映画は極めて冷静かつ分かりやすく、当時の状況や車椅子生活になった21年の日々と心情を綴る。制作に約5年半かけたという本作。ナレーションも監督自身が手掛けており、自身の心と対峙し、混沌とした胸の内を表現するに相応しい言葉を探して推敲を重ねたであろう端的な語りに圧倒される。昨今、日常を赤裸々に晒すセルフドキュメンタリーが多いが、それとは一線を画す本作。当時の映像素材がない中、写真、絵、文章など多彩な資材で構成された本作はまさにアートである
戦略なのか? タイトルからは分かりづらく、宣伝的にも東日本大震災にはあまり触れていない。それがなんとも勿体無い。だから、あえて言いたい。震災ドラマの傑作だと。
いまだ両親が行方不明で、震災から時が止まってしまったかのような兄弟の暮らしに、他者が強引に住み着いたことで開かれる彼らの心の扉。あの日以降、海産物が食べられなくなったことも、離島での閉塞的な人間関係も、ドキュメンタリーだったら角が立ちそうな当事者たちの鬱屈した感情を、脚本に見事に落とし込んでいる。これぞフィクションの力。それをリアルな物語として響かせたキャスティングがまた素晴らしい。
おにぎり2個とおかず一品+沢庵。一般的には取り立てて珍しくない朝食だ。だがこの弁当が撮影現場で愛され続けている理由を深掘りした結果、低予算・短期間撮影が常識の日本映画界の歴史と現状、さらに課題までをも浮き彫りにする重要なドキュメンタリーとなった。現在、映画界は日本映画制作適正化機構(通称”映適)を設立し、働き方改革に着手中。いかにそれが必須か。本作に登場する弁当店ポパイのような撮影を支える業者にも影響を及ぼしていることも映し出す。翌朝の弁当を深夜に発注するスタッフの無茶振りにも対応。これを美談と取るか?仕方ないと取るか?ここに映画界の未来がかかっているように思える。
ナチスの蛮行を描いた作品はやまないが、フィンランドもか!と、北欧の歴史に疎い我々に暗黒史を突きつけ、今や”世界一幸福な国”と称されるにまでに至った戦後復興の道のりまでをも慮るを得ないアクション大作だ。ナチスに対する積年の怒りと恨みを老兵に託し、強かにしぶとく生き抜き、反撃の狼煙を上げる。想起させるは、”やりすぎ”と言われたQ・タランティーノ監督『イングロリアス・バスターズ』。しかし現実を見てもわかるように戦争はやり過ぎのオンパレード。特に、泣き寝入りするしかなかった女性たちにも言及しているところに監督の思いを感じて泣けた。
日記初出版から75年に合わせ、アンネ・フランク基金の依頼を受けて制作された。”現在と過去をつなぐ”という要望に、見事に応えた脚本が秀逸だ。主軸は空想の友キティー。彼女は”創造のキャラ”から飛躍して、時空を飛び越えながらアンネのその後を旅し、現代のアムステルダムで難民と共鳴する。彼女の躍動と今日的な問題が、もはや遠い過去となっていたアンネと日記の存在をも鮮やかに甦らせることに成功している。だからこそ、考えずにはいられない。アンネは今の世界をどのように見ているのだろうかーーと。ホロコーストの生存者の息子である監督の想いも込めて制作された本作が、この時期に世に放たれた意義を噛み締めたい。