略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
自民党公認候補のどぶ板選挙を内側から描いた想田和弘監督『選挙』、泡沫候補が出馬する理由に目を向けた藤岡利充監督『立候補』に続き、我々の選挙リテラシーを高めてくれる選挙映画の傑作だ。衆議院選挙の激戦区だった香川一区の立候補者の選挙活動を追っているが、注目すべきは有権者の心理。結果はすでに分かっている。しかしその票はどのように動いたのか。前作『なぜ君は総理大臣になれないのか』の影響、不祥事、地方ならではのしがらみetc…粘り強い取材で地元の方々の本音を聞き出す。候補者は、その一票のために右往左往しているワケで。”一票の重味が分からない”という人は、本作を見るべし。
物事をジェンダーで判断するのは憚れるが、しかし哲学者の「ホンマかいな?」の理論を実践するあたり、集団になると途端に学生に戻ってしまう男子ならでは。まして酒飲みなら尚更、酒は何も解決してくれないことを知っているはず。そうとは分かっていてもやめられないのが酒の魔力であり、ミッドクライシスを抱えた彼らの切実さを推し量らずにはいられない。図らずしもコロナ禍において飲酒は社会の敵となってしまった。本作は決して酒を肯定も否定もしていないだけに、余計に人間の営みにおいて酒の存在意義とは?と考える良い機会。自戒を込めて。
アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートを筆頭に、アジアの映画賞を総ナメにした力作だ。世界的な問題になっているイジメの実態を容赦なく描きつつ、どん底の世界で芽生えた2人の愛を言葉や直接的な描写に頼ることなく表現。岩井俊二監督を敬愛し、前作『七月と安生』ですでに才能を見せつけたD・ツァン監督の演出もさることながら、要望に応えた主演2人の素晴らしさよ。特にアラサーながら高校生役を難なくこなしたチョウ・ドンユイのコケティッシュな魅力と腹の座り具合は、安藤サクラを彷彿。ただし本作、エンディングに不自然な注釈が入る。行政からのお達しか。検閲が芸術をいかに損なわせるか。参考例としても見るべし。
'19年末にNHK BS版が放映されているが、映画版はさらに深くサントス強制退去事件の真実に迫り、さらに日系移民社会にある分断や偏見を露にしていく。それは同様の移民問題をテーマにしたドラマなどでは触れられてこなかった、今も根強く残る遺恨。この暗部を、相手の懐に飛び込み、しれっと聞き出してしまうところは、”人たらし”たる松林要樹監督の成せる技。それもまた監督の才能だ。何より本作は、強制退去者名簿の発見という偉業も成し遂げている。その強運を引き寄せたのも、国内外でその土地に根付いた人と街の歴史を丹念に追い続けてきた活動あってこそ。松林監督の功績を讃えたい。
『パシフィック・リム』(2013)、『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)に続いて決戦の場は香港。中国資本が入ったハリウッド大作のお決まりのパターンになりつつある。単に香港がフォトジェニックな街だから……という理由だけではあるまい。先ごろデジタル・リマスターされた台湾のSF映画『関公VS.エイリアン』(1976)は、当初は台湾の西門が舞台となる予定だったが行政側が難色を示して香港となった経緯がある。当時の台湾は厳戒令下。フィクションとはいえ街の破壊は反逆行為と受け取られかねないと回避したのだろう。今も昔も香港は、何をしても許される街なのか。バトルの向こうに現実を見る。