略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
軍人の妻の特異性にドラマを見出す――愛する者の死の不安は、これまで多くの映画で描かれてきたが、ベタなメロドラマに走らないのがいい。
それを可能にしたのは、家族と生きる普通の人妻の部分に重きを置いた作り手の視点。子どもの世話に追われるだけでなく、ママ友同士の関係には性格の不一致もあれば、気楽にエロ話をかわせる間柄もある。そんな一般性と、特異性の微妙なバランスが取れているから、本作は素直に夢中になれるのだろう。
彼女たちのストレスのはけ口は言うまでもなく歌だが、そのカタルシスが名曲とともに観る者の心にもしっかり浸透する。庶民派カッタネオ監督のイイ仕事。
アニメに愛情のない筆者だが、それでも前のめりになったのは、ヒロインの成長のドラマがリアルな現代性に根差していたからか。
まずヒロインの性格が内向きでオタクである点はこちらにも理解できた。そういう人間が大役を務めることになったときの不器用さ。理解者と思った人がそうでなかったり、またその逆であったりなどのパワーバランスと人間関係の生々しさ。それらの"あるある!"をとらえつつ、ユーモアとカタルシスに昇華した展開が巧い。
トボケたセリフで笑いをとりつつ、ここぞという場面で的確な言葉を打ち出す脚本も見事。『水曜日が消えた』でおッ!?と思わせた吉野耕平監督はエンタメに寄りつつ、またバケた。
スリルの濃度が高い88分のサスペンスで、一気に見てしまった。
ソウルロケの効果は絶大で、ストリートや中華街の猥雑な空気がリアル。監督が『チェイサー』を参考にしたという地下室の描き方も緊張感を盛り立てるうえで機能している。
心臓をめぐる話への展開は唐突だが、そこからドラマの速度が上がり、俄然目が離せなくなる。異邦人の命よりも金……という冷酷な拝金主義の現実を描きつつ、それに立ち向かうキャラの人間味が伝わるのがいい。マジックの得意な刑事にふんしたユ・ヨンソクも、過去を抱える医学博士にふんしたキュリレンコも、それぞれに味がある。
虐待された子どもは自尊心に欠けたまま成長してしまう傾向にある……そんな現実に目配せしつつ、サイコな恐怖談を構築したスリラー。
阿部サダヲふんする獄中の連続殺人鬼がレクター博士級のキーパーソンになっており、彼の撒いた種がどこまで広がっているのかわからないのがミソ。DVの生々しい傷跡を含め、明かされる事実は衝撃的だ。
人を操ろうとする邪悪な人間は、確かに存在する。そんな事実を俯瞰させるという点でも、本作は恐ろしく、かつスリリング。最初にインパクトをあたえ、その後はただ映るだけでゾクゾクさせる“爪”の描写を含め、白石監督の洗練されたバイオレンス演出に唸った。
シリアス派の監督からライミにバトンが継がれたのだから、最初の『ドクター・スレンジ』とテイストが異なるのは必然。
冒頭から対クリーチャー戦が展開。戦闘のダイナミズムもさることながら、中盤以降のサイキックバトルもキャラの形相込みで凄まじく、ストレンジのゾンビ化やワンダのゴースト化など、特殊メイクによるバケモノ顔はライミ作品ならではの味で、“怖い”と“笑える"の境界線を行く。
前作に比べるとグロ度やユーモアが格段に上がった。カンバーバッチもオルセンも、これまで以上に生き生きと演じているのがイイ。マルチバース設定の強化でMCUは何でもアリになり、少々不安もあったが、ライミが撮るなら願ったり!