略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
小林聡美の主演、海のビジュアルから『かもめ食堂』『めがね』の線を想像したが、軽やかさはそのままに、地に足のついた物語が展開。
海辺の街の心地よい風景に、監督が「チッチとサリー」をイメージしたという小柄なヒロインと長身の男性のラブストーリーが溶け込む。女性同士の井戸端会議などの描写からにじむユーモアや、ヒロインと少年の交流の温かさも効いた。
キャラが魅力的に見えるのは、彼らに生活感が宿っているからこそ。隕石墜落というファンタジーをとっかかりにしながらも、リアルで、それでいて風通しがよい人間ドラマ。役者の味を最大限に引き出した、平山監督の丁寧な演出にも唸らされる。
セレブ女性と一般人男性の、ありえないロマンス。そんな設定の説得力はもちろん、立場を超えた心温まる交流や、分不相応の意識など、多くの点で『ノッティングヒルの恋人』を連想させる。
地道なシングルファーザーの男性は平穏から一歩踏み出そうとし、ひとりで生活できないセレブ女性は自立へ踏み出す。それが歩み寄りとなって表現される点が、ロマコメとしての高い完成度につながる。
この手の映画はどうしても男性目線で見てしまうのでO・ウィルソンに肩入れしたが、セレブイメージの強いJ・ロペスの柔軟キャラもツボ。過去ラブコメに挑戦してはビミョーだった彼女だが、躍動的なライブパフォーマンスを含めて魅力が映えた。
映画史的に巨匠であるベルイマンは、人としては尊敬すべき人物か? そんな葛藤を抱く映画監督のヒロインの心模様に肉迫しつつ、個人の進むべき道を観客に問いかける。
設定的に面白いのが、ヒロインの恋人に“格上”の映画監督を据えたこと。“格下”意識を抱き、パートナーに相手にされていないと感じる主人公の心理を、新作として構想している劇中劇に重ねた構造が巧い。
この島にはベルイマンを崇拝する人、好きでいたい人がいる一方で、唾を吐く人もいる。アートに生きる人もいれば、それ以外のものに人生の価値を見出す者もいる。価値観のせめぎ合いの中で、真の愛とは何? 本作には考えさせるものが多い。
ヒロインの背骨が浮き出るレオタード姿をとらえた冒頭に異様さを感じたと思いきや、すぐに一見平和な家庭のイビツさが浮き彫りに。ただならぬ映画であることが察せられる、見事なオープニング。
つくり自体はホラーで、孵化した怪物はヒロインのストレスの象徴のよう。『ザ・ブルード/怒りのメタファー』を連想させつつも、主人公がまだ反抗期にもいたらない12歳の少女であることを思うと、痛ましさが先立つ。
母親による精神的ネグレクトはもちろん、怪物の容姿がどんどんヒロインに接近していくビジュアル的な不気味さも心をかき乱す。北欧のヒンヤリした空気も生きた、最後まで目が離せない高濃度スリラー。
このところ音楽ドキュメンタリーの秀作が続き、ロック好きとしては嬉しい限りだが、本作も見るべき逸品。
ザッパの名はカリスマとして多くのロックファンの脳裏に刷り込まれているが、前衛的な音楽性ゆえにヒット曲と呼べるものは少なく、なじみは薄い。売れ線に走らない頑固さがザッパを特別な存在としており、本作はその哲学に焦点を絞る。
生演奏が困難な曲を創作する一方で、政府の音楽検閲に反対するザッパ。それらを地続きのものとしてとらえているのが巧い。The GTOsつながりで『スパークス・ブラザーズ』を連想したが、同作の哲学の軽やかさと見比べるのも一興だ。