略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
“車とセックス”という題材はクローネンバーグ『クラッシュ』の変奏曲。そこに肉体と異物の融合、血なまぐさいバイオレンスなどの『ザ・フライ』的な要素が絡む。
交通事故に始まる物語は最初から不穏な空気を漂わせ、最後まで観客を落ち着かせない。ヒロインの官能、彼女の凶行の鮮烈、無機質物との性行為の異様……衝撃性にはホラーのような恐怖感が宿る。
デュクルノー監督は前作『RAW 少女のめざめ』と同様に、そこには留まらず、先を見据える。異形の愛、しかし強い愛――古典的なテーマだが、本作にはめ込むと肉体的な哲学や、ジェンダーなどの社会性がにじみ出る。着地点には唖然とするしかない!
まず驚いたのは、カラックスが本作を愛娘に捧げていること。悪い父親の物語を、よくもまあ……と最初は思ったが、カラックス作品に息づく少年性を思えば腑に落ちる。
ボーイミーツガールから始まる男目線の恋物語は愛憎劇へと変化し、悪意に彩られていく。親になるも心に余裕を持てなくなる父親。そこに愛と狂気、死のイメージが絡み付くのがカラックスらしい。
ドラマ自体はヘビーだが、軽やかでユーモアさえ感じさせるのは、原案を提供したスパークスによる音楽のおかげ。彼らが送って来た劇中曲を娘が気に入ったことで、カラックスは製作を決意したという。大人になれない大人の話にアートを見出した意欲作。
オーストラリア史上最悪の銃乱射事件を起こした青年の物語。とはいえバイオレンスではなく、本作は心理のドラマに舵を切る。
メンタル面の問題を抱える主人公は周囲に疎まれ、時には“のろま”とバカにされる。その点では同情すべきだが、一方で運転手の握るハンドルに助手席から手を伸ばしていたずらする火遊び的な危険行為も。観ていて“気持ちはわかる”と“やめておけ”が並走し、どちらに転ぶかわからない危うさがスリルとして機能する。
大人のプライドと子どもっぽい邪心が混在する主人公像に血を通わせた、C・L・ジョーンズに、ただただ目を奪われる。世のマウンティングの構図も浮かび上がる、今見るべき力作。
デル・トロ作品には珍しいハードボイルド。同時代の原作ということもあるが、『郵便配達は2度ベルを鳴らす』にも似た1930年代の猥雑な空気を感じる。
見世物小屋の描写をはじめ映像こそファンタジーの要素は宿るも、基本的には現実に起こり得る話。暗い情熱を抱いて突っ走る主人公の危うさがサスペンスとして機能し、ノワール風の映像と相まって緊迫感を高める。
『キャロル』組の女優陣も素晴らしいが、やはり主演のクーパーの好演が光る。飽くなき野心によって人間性を見失う主人公。デル・トロ作品にモンスターの登場は不可欠だが、本作のそれはまぎれもなく、人間だ。
『トランスフォーマー』シリーズなどの型破りなSFアクションの印象が強いベイ監督だが、現実味のあるライブアクションもこなすのは『13時間 ベンガジの秘密の兵士』でも明らか。本作はそれをさらに推し進めた感がある。
まず主要キャラの気持ちやこだわりをしっかりとらえているので、観ていて共感を抱きやすい。救急車内の彼らが窮地に陥る度にスリルは加速し、ハラハラしながら見守ることになる。
そしてやはりアクションだ。今回はハンディカムだけでなくドローンを駆使して、アクロバティックな空撮を敢行。ロサンゼルス市街ロケの効果も手伝い、カーチェイスは生々しい迫力を醸し出す。緊張感が途切れない136分。巧い。