略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
ロックバンドがいかにイビツな“生き物”であるか? 本作を見て考えたのは、そんなことだった。
バンドは個人の集合体であり、個々の生き方や考え方の違いで揺れ動く。キム・ゴードンは“病んだ熊”と、そして本作の主人公Jは“機能不全の家族”とバンドについて語るが、ダイナソーJr.が病んだり壊れたりしながら進んできた、その過程をたどることにドラマがあり、それが本作の妙味でもある。
興味深いのは“演奏が楽しいという発想はない”と、Jが言い切ること。バンド活動は苦しい。でも大切なことだから、やる――イビツであっても“生き物”である以上、生きていく。人生の本質にも通じるテーマが、そこに見えた。
小さな自分が大きな世界とどう対峙するか?――前作が内包していたテーマを、さらに推し進めている点に好感を覚える。
前作で自分の殻を打ち破った市井の名シンガーたちが、より大きな世界に立ち向かう。新キャラも加わって、群像ドラマは多彩に。その群像のきめ細やかな描写にシリーズの進化が見て取れる。
もちろん、そんな小難しいことを考えなくてサクセスストーリーを楽しめる。今回も主役は歌なのだから、それは大きなアドバンテージだし、この監督らしいブラックユーモアも健在。声優出演しているU2のボノが、あの曲を歌うのは、ちょっとズルい!?
『オオカミは嘘をつく』の巧妙なストーリーテリングで注目されたN・パプシャド監督。この新作ではヒロインの死闘を描きながらアクション愛を謳う。
黒澤やレオーネのスタイルを消化しつつ、様式美にスピード感を加えたアクション演出。ドラマ面での苦難克服のエピソードと相まって、キャラクターたちを肉体的にも精神的にも逞しく見せる。
殺し屋への武器供給用の場が図書館という設定は、いかにも無国籍アクション風。タランティーノ以後というよりは『ジョン・ウィック』以後という方がピッタリくる劇画的エンタテインメント。ヒロインの活躍はもちろん、先輩殺し屋たちの、それぞれのタフネスにも見惚れる。
『悪魔のいけにえ』直系であることは狂気のカニバリズム一家や、彼らの人面マスク姿からも一目瞭然。イギリスで、こんな映画が作られたことが新鮮。
冒頭の殺りく描写からして容赦ないし、スプラッター指数は恐ろしく高い。奔放な都会の若者に対する田舎の住人のヘイトをベースにしているのは、むしろリメイク『テキサス・チェーンソー』的。同作のリー・アーメイを彷彿させる、ニセ警官の毒舌言葉攻めも緊張感を煽る。
『ザ・マーメイド セイレーンの呪い』をはじめホラーを量産し続けている女性監督L・ウォーレン監督の演出には今回も勢いがあり、脚本の粗さも血のりの量でカバー。ハリウッド的な予定調和を拒否する結末もイイ。
バイオレンスとセックス。ビジュアル的に強烈なインパクトがあるが、ダリオ・アルジェント作品に影響を受けたという前者は血のりの量もハンパなく、その手の描写が苦手な向きは閲覧注意。
とはいえ、これは単なるジャンル映画ではない。ひとりの人間に宿るふたつの人格。SF的な設定だが、人にはこのような狂い方もあると納得させるだけの凄みが宿る。クローネンバーグJr.の才腕の深化。
父デビッドの作品を例に出すと、『戦慄の絆』と『イースタン・プロミス』の融合のよう。クローネンバーグ遺伝子が狂い咲く逸品。感情がどんどん死んでいくヒロインの表情も鮮烈で、その内なる崩壊に、見ているこちらも打ちのめされる。