略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
古典『シラノ・ド・ベルジュラック』のミュージカル翻案ということで、約30年前のジェラール・ドパルデュー主演版を思い出しつつ楽しんだ。
巨体のドパルデューとは逆に、主演のピーター・ディンクレイジは超小柄。ルックスへのコンプレックスという原作のエッセンスを真逆のキャラクターで表現しつつ、切ない恋心もそのままに、音楽的に美しく再現する。ジョー・ライト監督の野心的な演出は、それを見事に映像に刻み込んだ。
原典を知っていれば物語的にはとくに大きな驚きはない。裏を返せば、知らない方ほど、彼らが歌うナンバーか痛切に響くだろう。俳優陣の情熱的な歌のパフォーマンスともども、じっくり味わいたい。
トップテニス選手ウィリアムズ姉妹の父親は、どんな人物か? そこにドラマの面白さを見出した本作。
娘たちのテニスの才能を信じ、独学でテニスを学んで指導に当たり、一流のコーチを探し出す。劣悪な環境下で娘たちを育てたくない、そんな動機に説得力が宿る。家族全員がそれを後押しするという設定も感動を盛り立てる要素だ。
一方で、安直な感動に走らないのも面白さ。社会性の欠如や、妻との対立などの主人公の不安定な部分はともすれば異常な父性愛に思えなくもない。女系一家での仲間はずれ感へのションボリも見え隠れ。そんな欠点をチャームに変えてしまうのはW・スミスの好演があってこそ。
ポップスターが映画監督業に進出するケースはこれまでにもあったが、シーアが演出を務めた本作はその最新版。
ラスト20分でバタバタと風呂敷をたたむ慌ただしい展開は脚本面の難点。それが前半の丁寧な日常描写を崩してしまうのが、もったいない。
とはいえ音楽や映像には見るべきものがある。ハンディカムでとらえた現実の不安定な揺れと、ミュージカルシークエンスにおける幻想の流麗さとの対比が巧い。人生はままならないが、自分のビジョンを信じて前に進むことを謳った劇中歌の力強さも心に残る。シーアのメッセージととるか、ひとつの娯楽映画ととるか? それ次第で評価はわかれる。
人気ゲームを『ゾンビランド』のR・フライシャーが映画化。なるほど、これはとんでもなくアップテンポだ。
絵もセリフもとてつもない情報量、それでいて整然と観客に理解させるフライシャーの流儀が、ここでも生きる。絶好調のトムホにジョークや皮肉、まっとうな主張など多彩なセリフを言わせつつ、しっかりキャラを魅力的に見せるのが巧い。
ストーリー展開の高速度ゆえ、ドラマがほとんど頭に残らないという欠点はある。が、何も考えずに楽しめるという点では娯楽映画の鑑。“フツー、死んでるって!”というツッコミも許さない漫画的なアプローチも、この速度では俄然、生きる。
ノルウェーを舞台にしたロックバンドの映画というと『ロード・オブ・カオス』が記憶に新しいが、あの映画のダークなトーンとは対極にある陽性の青春劇。
ミドルティーンの男の子ふたりと9歳の少女というバンド編成。そこに彼らの運転手となった青年が加わるが、年齢層が低いという設定が、まず微笑ましい。それぞれが抱える家庭の事情や、ボーカリストに“お前の歌はヒドい”と言えない仲間内の葛藤など、細部のエピソードも効いている。
旅の過程の描写に強引な部分はあるものの、コメディ色が付けられていることを踏まえれば許容範囲。ともかく、見ているうちに、どんどん若い彼らを応援したくなってくる。巧い。