略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
L・ニーソンの主演アクションというと“また最強の親父かよ……”という声も聞こえてきそうだが、そんな予想を裏切る本作。今回のリーアムの存在感は重量級だ。
『二十日鼠と人間』を丁寧になぞりながらアクションを成立させる試みはもちろん、意外な裏切り者の正体を明かすサスペンスにも夢中にさせられた。
時限しばりに少々の矛盾を覚えるものの、それがまったく気にならないのは人間ドラマの熱はもちろん、『恐怖の報酬』にも似たトラックの豪速バトルがあるから。本作でのニーソンの最大の共演者は大型トラックだ。そういう意味でも重量級アクションなのである。
『インシディアス』から『死霊館』へと向かう時期のJ・ワンのホラー路線は、オカルト一直線だった。で、久々にワンが撮ったホラーはどうかというと、これが一筋縄では収まらない。
まずヒロインのA・ウォーリス。『アナベル 死霊館の人形』に主演した際の、赤子を生んだばかりの陽性キャラとはまるで別人。ゴスメイクで流産の影を背負う陰性の主人公像に驚かされる。
主人公の秘密が明かされるドラマに、さらに仰天。アルジェントの影響を公言してきたワンだけにスプラッターの要素は想定内だったが、そこにクローネンバーグの要素が加わる新味。これは明らかにオカルトを超越している。ワンのホラーが好きな方は、とにかく必見。
『ハンガーゲーム』のヒット以降、YA小説の映画化は流行したが、この流れの映画を久しぶりに見た気がする。
男の感情だけがダダ漏れする世界という設定がまず面白く、そのような世界では感情を隠せる女性が脅威になる……という部分も納得がいった。“キスしたい”という声も漏らす主人公を演じたトムホの十代感全開のキャラは、YAモノらしいジュブナイル感。
“男はもっと汚いことを考えてるんじゃねえの?”という大人の目線が一切ないのはYA映画の限界か。しかし、男が女を恐れる構図は社会的にも意味があり、そういうことを考えさせるうえで寓話的な面白さが宿る。
前半で南北戦争時の黒人奴隷の惨状をイヤというほど見せつける。この映画は観客をどこに連れていこうとしているのか? そう思わせる不思議な構造こそが本作の面白さ。
物語はこの時代の薄幸のヒロインとよく似た、現代の成功した黒人女性の物語へと唐突に飛び、スリラーへと突進しながら、過去の物語とシンクロしていく。
メビウスの輪のようなストーリーだが、見終えると主張はキチッと伝わっている。『ゲット・アウト』以降、スリラーの分野では人種問題を扱った作品が増えているが、これは工夫が活きた、これまでに見たことのないタイプの社会派作品。ディテールの検証を含めて、要注目。
アレサの伝記本『リスペクト』を読んで興味深かったのは彼女が幼くして出産を体験し、それを自身も親類も語りたがらなかったこと。彼女と家族にとってタブーだったのだ。
本作では、そのタブーをうまく機能させながら、アレサという女性が男性上位社会でいかに格闘してきたかを見据える。父親からの折檻もあれば夫からのDVもある。そして性的虐待も……。
話だけを追うとかなり重いが、それを解放するのはアレサの名曲の数々だ。時に怒り、時に愛を語り、時に神に感謝する。歌うことこそ彼女にはカタルシス。アレサが乗り移ったかのように熱唱するJ・ハドソンの熱演も素晴らしい。