略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
きわめて独創的な映画。不気味で恐ろしく、同時にばかばかしくもあって、妙に居心地の悪い気持ちにさせる。全体像をしばらく見せないやり方もうまい。人里離れたアイスランドの大自然という風景も、民話のような雰囲気を与えている。意外なラストは、解釈や意見が分かれるはず。この奇妙な話の奥にあるのは、夫婦の間にある深い悲しみ。その部分を、国際的女優の代表であるノオミ・ラパスが(子供の頃アイスランドに住んだという彼女は、今作にアイスランド語で出演)が、繊細に表現する。今作で長編監督と脚本家としてデビューを果たしたヴァルディマル・ヨハンソンが、今後どんな作品を生み出していくのか非常に楽しみ。
ディズニーが、古典アニメーションをまたもや実写化。だが、残念ながら今作は「美女と野獣」「アラジン」のような感動に乏しい。いつものことながらトム・ハンクスはすばらしく、とりわけ「エルヴィス」で非常に暗い役をやった直後だけに、こんな温かくて優しい彼を見られるのは素敵。しかし、彼とピノキオの父子愛がストーリーの中心なのに、彼らが一緒のシーンが短いこともあって、どうもその部分がいまひとつ弱いのだ。とは言え、チャーミングさはあり、それなりに楽しんで見られる。次に公開を控えるギレルモ・デル・トロ監督のバージョンは原作にもとづいたダークな作品ということで、そちらも興味が持たれる。
2019年の映画同様、今作もテレビシリーズのファンのために作られたもの。大勢の登場人物にはそれぞれに歴史があり、それをずっと見つめてきたからこその感動があるのだ。大好きなキャラクターたちが、いろいろあった末に愛し合って幸せそうにしている様子を見るだけで微笑んでしまう。今回は屋敷が映画のロケに使われることになるという設定で、トーキーへの過渡期の撮影現場の様子が見られるのも興味深い。舞台には南仏も加わって、ビジュアル面でこれまでと変化がついた。ストーリーはミステリーもあり、悲しみもあり。でも最後はちゃんと温かい気持ちにさせてくれる。このシリーズにはまだまだ続いてほしい。
権力を持つ男は悪いことをしてもうまく逃れられる。逆に有色人種や移民は常に不利で弱い立場に置かれている。そういった醜い現実や、さらに親と子の関係といったことにも触れるスリラー。悪役を演じる俳優に「ダウントン・アビー」の紳士的で優しい人のイメージが強いヒュー・ボネヴィルを起用したことで、よりインパクトのある形でメッセージが伝わる。真の悪者は、社会のシステムなのだ。話は速いペースで進み、途中主人公が違う人に変わっていき、先の予想がつかない。ツッコミどころはあるものの、勢いで最後まで引っ張る。役者はみんな良いが、特にニューフェイスのパーセル・アスコットは今後注目したい。
「ぼくのエリ 200歳の少女」「裏切りのサーカス」のトマス・アルフレッドソンがコメディを撮るというのは意外な感じもするが、実は彼の父はスウェーデンで有名なコメディアンで監督。彼自身も若い頃からコメディにかかわってきたので、むしろ、今やっと、というところか。今作の元ネタは、40年も愛されてきた、スウェーデンでは知らない人はいない人気シリーズ。そこに敬意を払い、盗みのテクニックは完全にオールドファッションだ。コンテンポラリーな犯罪映画の洗練がないところがチャーミングだし、アナログなので何が起こっているのかよくわかる。ちょっと「ピンクパンサー」も思わせるドタバタコメディ。