略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
出だしからよくあるパターンながら、前半はそれなりに見られた。だが、最後の30分ほどはお決まりすぎ。とりわけ最後の最後はあまりに都合が良すぎだ。とは言っても所詮、無害なロマンチックコメディだし、目くじらを立てることもないと思い、3つ星にしておいた。出会いの場所をスペイン料理屋のクッキングクラスに設定し、美味しそうな料理やその作り方を出してくることで、ストーリーの凡庸さから多少気を散らせる。だが、フードやワイン、調理過程をリアルに見せる映画はもう十分にあるし、それを売りにするには弱い。主役のふたりはチャーミングで、このジャンルに最も必要な部分はクリアしている。
自分の親にも、自分と同じ年齢の時があった。当然そんなことはわかっていても、実際にその頃の親について深く考えてみることはあまりないのでは。この映画のはじめで主人公の少女は、子供の頃はどうだったのかと父に聞くが、父は適当にしか答えてくれない。話すほどのことではないと思うからか、それとも忘れたからか。だが、少女は、森の奥で、8歳だった頃の母と出会う。そして、その頃の母を本当に知っていく。愛に満ちたこの映画を見終わると、親についての気持ちが変わる。そして、もっと大切にしないとと思う。この映画の会話にあるように、最後の「さようなら」がいつ来るのか、誰にもわからないのだから。美しいフェアリーテール。
ジョーダン・ピールの監督としてのキャリアで最も野心的な作品。構成自体が独特で、見ながら「これはどういう関係が?」と思わせるのが、なんともうまい。ピールが「本気で怖いUFO映画を作りたかった」と語っているとおり、それらのシーンの迫力は相当なもの。しかし、もっと怖いのはそれとは別のシーンだ。キャラクターは全員しっかりと構築されているが、中でもとりわけ興味深いのは子役時代に得た名声を今も利用しているスティーブン・ユァン演じるキャラクター。いろいろなところにさまざまな意味が込められているのは明らかで、思いきり圧倒され、興奮がひと段落すると、細かいことに思いをめぐらせてしまう。さすがピール!
90分の間に予想しなかったことが次々に起こる、終始緊張感に満ちたスリラー。家に悪者が侵略してくるパターンは過去にもあるものの、主人公ソフィーが悪いことをする可愛げのない女性であることが、今作を違ったものにしている。こんな主人公を応援できないと感じる人もいるかもしれないが、思わぬ展開はそのおかげで起きるのだ。主演のスカイラー・ダヴェンポートは、映画の主演が初めてとはとても思えないパワフルな演技を見せる。ソフィー同様、大人になってから視覚障害者になった彼女がパーソナルなものを持ち込んだことで、この娯楽作にリアルさがプラスされたのは間違いない。
始まりは、ツイッターの投稿。140個以上の投稿が語る状況に興味を持ったジャーナリストが記事を書き、そこから映画化となった。そんな背景を受けて、映画はソーシャルメディアを見ているような雰囲気が出るようなスタイルになっている。物語はまさに「事実は小説より奇なり」を地で行くようなクレイジーさ。現実には相当に恐ろしかったであろうことも、歯切れの良い脚本とキャストの演技で終始ユーモアをもって描かれる。大胆なシーンにも堂々と挑んだ主演女優ふたりには拍手。「メディア王~華麗なる一族~」の役にもちょっと重なる要素のあるキャラクターを演じるニコラス・ブラウンも笑わせてくれる。