略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
最初は嫌い合っていたが、とか、打算でカップルのふりをしていたが、という設定は恋愛映画の定番。この手の映画では結末が見えているだけに、そこにたどりつくまで応援できるか、過程に納得いくかが重要。今作の場合、主人公がとげとげしくてやたらと喧嘩腰、さらに自分のことばかり考えていて、「こんな人と一緒になったら大変だよ」と相手役の男を諭してしまいたくなる。移民や人種の問題などを散りばめてモダンにしたかと思えばエンドロールがあまりにベタ、歌手のソフィア・カーソンに合わせて「スター誕生」のような要素もプラスされていて、トーンにまとまりがない。映画にありがちな都合良すぎる展開もいくつか目につく。
夫婦関係の崩壊という一般的なテーマを、複数の視点から奥深く見つめる卓越した人間ドラマ。夫の不倫告白から始まった家族の不幸を長いスパンにわたって追っていく中で、夫、妻、それぞれの性格が、よりよくわかっていく。子供たちも同様。それはつまり、それほどしっかりとした、層のあるキャラクターが築かれているということ。時間を行ったり来たりさせながら語る手法もスマートで効果的。その間に何が起こったのか観る者に想像させてどんどんミステリーを高め、意外なエンディングへとつなげるのだ。大人同士の醜い諍いが罪のない子供たちにどんな影響を与えるのかについても考えさせられる。
「レッド・ノーティス」と並び、Netflixオリジナル映画で最もお金がかけられた作品。それは見ていて明らか。銃撃戦、爆発、衝突、高いところからのジャンプなどが休みなく続き、とにかくど派手なのだ。いったい何台車を壊して何軒の建物を壊したのか。だが、やらせてもらえるからやっちゃえ的な感じは否めない。豪華キャストは良い演技をしている。究極の正義の男キャプテン・アメリカを演じてきたクリス・エヴァンスは正反対の悪役を楽しんでいるのが伝わってくるし、アナ・デ・アルマスも「007」よりずっと見せ場を与えられた。娯楽性は十分あるが、すでに数ある大型アクション映画の中でとくに思い出に残るかというと疑問。
教養があることを自覚し、しばしばひけらかすのに、それをまるで利用できない配達の職業に従事する主人公。そんな人物設定も面白いが、彼が偶然にも犯罪現場に出くわし、大金を手にしてしまう展開には大いに引きつけられた。だが、ドゥニ・アルカン監督はもっと野心的で、話は世界経済という大きなことに広がっていく。そうやって”マネー哲学”がシャープに語られていくのだ。それらはタイムリーで的を得ているが、ロマンスの要素が水を差す。それ自体余計だし、お相手が典型的なプリティウーマン(売春婦だけれども心はピュア)で、いかにも嘘っぽいのである。この女優は魅力的だが、結果的に映画にとってプラスにならなかった。
最近よく見られるカラー・ブラインド(本来は白人であるはずの役に多様な人種の役者を起用する)や、主人公がカメラに向かって直接話しかけるやり方を使い、ジェーン・オースティンの古典小説をモダンにアップデート。正統派には好まれないかもしれないが、リズムも良く、コミカルなニュアンスもあって、現代の一般観客には身近に感じられるバージョンになった。相手の男性にお金がないからと周囲に結婚を反対されて従うも、久々に再会した彼はリッチになっていたという状況は、時代や国境を超えて理解できること。いろいろな愛が交錯し、最後には胸を熱くさせてくれる、恋愛映画好きな人におすすめのロマンチックな作品。