略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
L.A.警察の腐敗を暴く衝撃的な映画。自分が住む街でこんなことが起きていたとは信じられない。まずは、作り手の勇気に拍手。ブラッド・ファーマン監督は、長年連絡を取っていない警察関係の友人に「作るのはやめておいたほうがいい」と警告されたという。公開が遅れたのも、ジョニー・デップがクルーに訴訟されたからだと言われてはいるが、おそらくそれだけではない。そのデップは、真実の追求に取り憑かれた男が次第に蝕まれていく様子を信憑性たっぷりに演じている(真実、という言葉が最近の裁判とつい重なるのはさておき)。スリラーとしては全体的にやや迫力に欠けるが、デップとフォレスト・ウィテカーの演技に引き込まれた。
タイトルがまさにぴったり。ある忙しい夜、次々にトラブルが起こり、どんどん手のつけられない状況になっていって、沸点が高まっていくのだ。主人公はオーナーシェフだが、従業員や客のキャラクターもしっかり考えられている。役者もリアルで、まるでドキュメンタリーを見ているかのよう。好き嫌いは分かれるかもしれないが、あの衝撃的なラストも、個人的にはとても良いと思った。ただ、アメリカで先月配信開始になったレストランの舞台裏ドラマ「The Bear」を先に見ていなかったら、もっとインパクトがあったかも。このドラマもすばらしいので、この映画を気に入った人には断然おすすめしたい。
この個性的なインディーズ映画は、ここ10年、B級映画に連続で出演し、アメリカではほぼ忘れられた存在になっていたニコラス・ケイジの復帰作。今作で彼は久々に評価され、オスカー候補入りは逃したものの、放送映画批評家協会賞(CCA )の主演男優部門にノミネートされた。静かで抑えめ、しかし必要な時にはすごい迫力を見せる彼は、やはり超実力派俳優だったのだとあらためて納得。一見シンプルなリベンジ物語に奥の深さと感情、ミステリーをもたせ、独特のトーンを作り上げたマイケル・サルノスキ監督の力量も評価したい。今作で長編映画監督デビューを果たした彼は、「クワイエット・プレイス3」の監督に決まっている。今後、要注目。
2018年の「フリーソロ」も優れたドキュメンタリーだったが、今作にはあの映画のテーマだったアレックス・オノルドも出てきて、この23歳のクライマーを称賛。彼の強い情熱と自由な精神、命がけのこのスポーツを怖いとも思わない勇気に、思いきり魅了される。有名になるためでなく、自分自身が最も落ち着き、幸せな気持ちになれるために登り続ける彼の素直な言葉の数々には、人生のメタファーと感じられるものも。自身もクライマーの監督コンビは、大きな理解と敬意をもって彼の世界を捉える。誰も知らなかったこの人物は、映画を見終わった後、忘れられない人としてずっと心の中に残るはずだ。大自然の美しさにも感動。
確信犯で作ったB級映画。この手の古い映画へのオマージュも見て取れる。成人向け映画を意味する「X」をタイトルに選んだことが示すように、前半はかなりポルノの要素が強い。その安っぽい感じがホラーとほどよく馴染んでいる。後半には強烈なバイオレンスが待ち構えており、スラッシャー映画っぽくなっていくのだが、そこまでじわじわと緊張感を高めていくやり方もうまい。静かなオープニングシーン、時々差し込まれる潜在意識に迫るような短いショットなど、ビジュアルもスタイリッシュ。しかし、びっくりして飛び上がりそうになるシーンはあっても、あまり怖くはない。