略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
個人的にはジョー・カーナハンの作品の中で一番面白かった作品。途中からはいかにも彼らしい過激なバイオレンスがたっぷり出てくるものの、密室でふたりの主人公が言葉のやり取りで緊張感を高めていく前半がなかなかスリリングなのだ。このジャンルにありがちな、ちょっと都合良すぎるかなという展開もあっても、許せてしまう。アクション映画を数多くこなしてきたジェラルド・バトラーにとっても、これは美味しいキャラクターだったはず。今作の彼は違っていて、とても味がある。だが、最も光るのはアレクシス・ラウダーだ。クラシックな雰囲気を持つ今作は、彼女のおかげでモダンになった。そのキャスティングに拍手。
数々の名曲をバックグラウンドにスタイリッシュな映像がつなぎ合わされていくのは、いかにもミュージックビデオ出身の監督らしい。時間を行ったり来たりさせ、詩的な雰囲気で語っていくやり方はユニーク。しかし、ミュージックビデオ同様、奥行きがないとも感じる。主人公の若い黒人女性ビューティは、家では強い父親にコントロールされ、外では白人に受ける音楽をやれと言われる。さらに同性愛者であることをおおっぴらにできずに抑圧されてもいるが、それらの興味深い要素は深く掘り下げられないし、彼女がすごく強い感情表現をすることもない。意図的なのだろうけれども、すべてが夢の中のような描かれ方で物足りなさが残る。
「007/カジノ・ロワイヤル」「マスク・オブ・ゾロ」のマーティン・キャンベルが監督し、「イコライザー」のリチャード・ウェンクが脚本を手がけた今作は、ベテランの腕前を感じさせるアクション映画。容赦ない残酷なアクションシーンがたっぷりあり、早いテンポで話が進んで無駄がない。個人的にはロマンスの部分が余計かなと思ったが、そこも王道エンタメには欠かせないのか。主演のマギー・Qがとびきりかっこいい。彼女の起用が今作にモダンさを与えたのは確か。マイケル・キートンの存在感もさすがで、あまり期待しすぎずに見れば十分楽しませてくれる映画だ。
「アルゴ」のようなスリルと「戦場のアリア」のようなヒューマニティを持った、オリジナリティあふれるアクションスリラー。ハリウッドに負けないビッグなスケールで、韓国にここまでの映画が作れるのかと感心させられる。クライマックスのカーチェイスのシーンを見て、この監督に声をかけるハリウッドのプロデューサーが出てきたりするのでは。よく考えられたカメラの動きや編集が、さらに緊迫感を与える。ソマリア内戦の恐ろしさの描き方は容赦ないが、とくに前半、所々にドライなユーモアを入れているのもうまい。ラストの感動と切なさも、やりすぎず良い感じに抑えていて、それがさらに効果的。
今ではヴィクトリアズ・シークレットの下着ショーもなくなったが、ほんの少し前まで、世の中は平気で美人コンテストなるものをやっていた。女性をルックスだけで評価するそれらの番組を見た少女たちは、その価値観(そして劣等感)を植え付けられていたのだ。でも、今から50年前に、異議を唱えた女性たちがいたのである。その歴史の一片を見られるのは感動。今作はまた白い肌が美しいとされてきた偏見にも触れるが、それらの事柄は娯楽作であることを意識しつつ伝えられていく。ここで描かれる母娘の関係にも共感。優れたキャストの中で、ジェシー・バックリーが最も美味しい役を演じているかも。