轟 夕起夫

轟 夕起夫

略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「月刊スカパー!」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。

近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。

サイト: https://todorokiyukio.net

轟 夕起夫 さんの映画短評

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  • アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン
    “神”が創られてゆく現場に立ち会う!
    ★★★★★

    1972年、当時29才のAretha の「伝説のチャーチ・コンサート」だ。貴重な映像を目の当たりにすると色々な発見が。“クイーン・オヴ・ソウル”と謳われたそのパフォーマンスは実際にそうなのだが、明らかに彼女は合間合間で極度に緊張&動揺している。それは(なぜコンサート2日目に父親が現れたのかも含め)、ルーツであるこの教会録音企画をめぐるバックグラウンドを知ると臨場感が増す。

    撮影を兼任していた監督シドニー・ポラックのカメラは“音楽の歴史的瞬間”に振り回されているのがリアル。倒錯的な言い方だが我々は、歌の、そして信仰の力によって、あたかも神が創られてゆく現場に立ち会っているような気になるだろう。

  • 騙し絵の牙
    松岡茉優の存在が、映画に楕円の曲線を描いてゆく快感
    ★★★★★

    まず、攻めた脚色に拍手を。激しく摩擦しあうことで互いに止揚され、なおも言葉で撃ちあう各キャラクターの造形が際立っている。そして演出にも。ドライな肌触りと、しかしジワリと体温を滲ませる二段構え。単なる“騙し合いバトル”ではなく、「椅子取りゲーム」の中に(時代を)サバイヴする者たちの矜持と業とが浮かびあがってくるのだ。

    大泉洋演ずるピカレスクな編集長が定点Aとなり、定点Bを担った新人編集者役、松岡茉優の存在が映画に楕円の曲線を描いてゆく快感もたまらない。特に屋上での“風景”に関するヴィヴィッドな対話に唸った。終盤の怒涛の繋ぎ、時間軸が複雑に交錯していく編集の妙もまた「吉田大八ワークス」の真髄だ。

  • すばらしき世界
    俗世にまみれて格闘する「下町のジーザス」の物語
    ★★★★★

    こんなにも「役所広司が泣き顔を見せる」映画があったであろうか。そう、彼が体現した、出所し娑婆でリスタートする三上は劇中、涙を流す場面が3回ある(もしかしたら画面上、あえて映されていないが風呂場のシーンも含めて4回かも……)。

    その「下町のジーザス」(by西川美和監督)、三上の“感情の振れ”の軌跡に引き込まれていき、そして観客もまた落涙してしまう。だんだんと他人事が“自分事”となって近づいてくるのだ。安易に白黒つけない作劇は今まで通りなのだが、いやあ、これほどまでに「泣いた」という感想が広がった西川映画はあったであろうか。“嘘”や“なりすまし”など主要テーマの爛熟と共に、この変化は見逃せない。

  • ノマドランド
    「The America」映画にして、NEW「ニューシネマ」
    ★★★★★

    まるで「70年代のヴィム・ヴェンダースが旅をしながら『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)を撮った」ような。いや、それではクロエ・ジャオ監督に失礼か。越境の連続であった自らの経験をベースに、映画を通して“ノマド的思考”を大胆に実践しているのだから。

    開幕してすぐ、「路上に生きること」を決めた主人公が車を走らせつつクリスマスキャロル「御使いうたいて」を口ずさむ。これはもしかして、かつて同じ旋律の「グリーンスリーブス」を歌った『西部開拓史』(62)のデビー・レイノルズの役柄、すなわち“フロンティアスピリット”の持ち主の末裔でもあるのでは……な~んて、色んな連想妄想も止めどなく広がる豊かな映画!

  • ミセス・ノイズィ
    不寛容さが広がるこの社会に灯された“希望”の映画
    ★★★★

    不寛容さが広がるこの社会に灯された“希望”の映画。「角度によって物事の見え方が変わる」作劇自体はスタンダードだが、邪悪な自己を複製、増幅、感染させてゆく、人間のウイルス的側面にリーチした「仕掛け」が巧み。要所要所に虚を突く展開を用意し、終盤にはしっかりと観る者の心の琴線を震わせる。

    「ヤバい騒音おばさんvs.スランプ気味の作家」というアングルを変容せしめる、大高洋子と篠原ゆき子のマッチアップの裏で、殊勲賞モノなのが新津ちせ。 他にも『喜劇 愛妻物語』『アンダードッグ 前後編』と今年の重要作で娘役としてヘヴィーな身の上を体現! 何と「清野とおるの漫画が好き」な彼女の本格インタビューが読みたい。

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