略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「月刊スカパー!」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。
近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。
結末を決めてカメラを回すドキュメンタリーはつまらない。その意味では本作は、成り行き具合が激しく、(不謹慎な言い方だが)とても面白い。'11年より台湾にて撮影を開始、被写体のメインは'14年に国民的デモを巻き起こした「ひまわり運動」の学生リーダーと、それに賛同した中国人留学生ブロガーだ。
作り手に邪気がない分、明け透けと色んなことが見えてくる。「ひまわり運動」の裏側、ナショナリズムの問題、そして青春の熱狂と苦い挫折(創作の袋小路に嵌ってゆく監督も!)。'17年、顔つきの変わった2人との直接対話がエモい。「英雄のいない国が不幸なのではない。英雄を必要とする国が不幸なのだ」という言葉を思い出した。
主演の蒼井優は、黒沢清監督とは3度目のタッグ。最初はWOWOWのドラマ『贖罪』(12)の第1話「フランス人形」で、私見によればこれ、蒼井優=ノラ、黒沢清版『人形の家』だった(そう、あのイプセンの!)。で、次がワンポイント出演ながら強烈な爪痕を残した映画『岸辺の旅』(15)。既婚者同士の不倫がバレても、何ら悪びれない役柄。
そして今回も人妻役なのだが、従来の黒沢作品のヒロイン像を担いつつ、(濱口竜介と野原位の脚本の力もあって)まさかの増村保造テイスト、すなわち若尾文子的な盲獣/猛獣キャラへと進化。ホップ、ステップ、ジャンプ! 蒼井優“人妻”三部作の頂点として括って眺めると、面白さ倍増である。
浅田政志の写真集『浅田家』は、セットアップ写真と呼ばれる「演出の施されたスタイル」だ。つまり家族4人があえて作為的に演じあうことで、互いに共有した時空間=特異なファミリーヒストリーのドキュメント性をかえって顕在化させているのである。
で、それは、この映画『浅田家!』の中で家族4人を担った俳優たちのフィクショナルな関係にもオーバーラップしてくる。冒頭で醸し出すミョ~な違和感が最後に氷解する瞬間、「家族とは、家族を演じあう人々の集合体」であることが明白になるのだ。被災地に舞台を移し、作品のトーンが大きく変わる後半部、菅田将暉の巧演が触媒となり、二宮和也にも新たなスイッチが入るところがスリリング!
心が馴染み、なついてしまう映画。いや、細部に目を通せば我々もよく知る、人生の理不尽さ、残酷さが見え隠れする。が、それを鞣(なめ)してゆくのが“手紙”という装置なのだ。不特定多数への即時的なつぶやきではなく、特定の相手への思い(あるいは念!)の込もった言葉が時を超えて、思わず人と人とを繋ぐ。改めて岩井俊二監督のストーリーテラーぶりに唸った。
日本版は『ラストレター』、中国版の原題は『你好,之華』。前者には登場しない或る人物のエピソードが映画の肝だ。現在無料配信中(10/2まで)、本作の原型となったペ・ドゥナ主演、ラストに手紙が物語を活性化させる短編『チャンオクの手紙』(17)も合わせて観たい。
多くの才能集う「夢の音楽工場」が、一つ一つの製品に魔法をかけていく(例えば、ジェームス・ジェマーソンの最高のベースプレイ!)。観ながら何度か感極まった。きっと、本来の意味でのショービジネス、そして“芸能”の輝きが横溢していたからだ。
この工場史は重要な、米国文化史でもある(創立者ベリー・ゴーディの自伝『モータウン、わが愛と夢』には、ダイアナ・ロスとの関係等がより詳しく)。特にマーヴィン・ゲイの今に通ずるメッセージソング、ニューソウルの名曲「What's Going On」発売に当時反対したゴーディの自己批判と、相棒スモーキー・ロビンソンの誠実なコメントは、陽気な証言集の中で尖った感触を残す。