第86回アカデミー賞の押さえドコはココ! 今週のクローズアップ 2014年1月31日 1月16日(日本時間)に発表された第86回アカデミー賞ノミネーション。今年はどこに注目していいのかわからない! というあなたのために今年の押さえドコを紹介。3月3日(日本時間)のアカデミー賞授賞式当日を迎える前にまずは6項目をチェック! 賞レース以外にさまざまな楽しみ方ができるのが、アカデミー賞授賞式の醍醐味(だいごみ)。例えば第84回アカデミー賞授賞式ではシルク・ドゥ・ソレイユによるライブパフォーマンス、昨年の第85回アカデミー賞授賞式では『レ・ミゼラブル』『ドリームガールズ』『シカゴ』のキャスト陣によるパフォーマンスや、歌手のシャーリー・バッシーによる『007/ゴールドフィンガー』の主題歌や、アデルによる「スカイフォール」などが披露された。 気になる今年のテーマは「映画のヒーロー」。今回は「面白く、かつ感動的なテーマ」でまとめたいというプロデューサーの意向から、「スーパーマン」をはじめとしたスーパーヒーローが登場するという。それだけでなく、例えば「ガンジー」などヒーローと呼ばれる人物、そして「Mr.インクレディブル」といったアニメのヒーローも含まれるそう。また、そんなヒーローたちの映画化にリスクを承知で挑んだ監督や俳優も併せてたたえることになるという。 今年『アメリカン・ハッスル』で主演男優賞にノミネートされたクリスチャン・ベイルは、再びバットマンとして舞台に登場するのか(もしくは次回作でバットマンを演じるベン・アフレック!?)、そしてクリストファー・リーヴなど歴代スーパーマンも登場するのか、当日のパフォーマンスに期待したい。 今年のテーマは「映画のヒーロー」 ABC Photo Archives / ABC via Getty Images 映画ファンとして見逃せないのが、外国語映画賞。これまで映画史に残る名作がたくさん受賞しており、過去には第62回のジュゼッペ・トルナトーレ監督作『ニュー・シネマ・パラダイス』、第71回の『ライフ・イズ・ビューティフル』、第72回のペドロ・アルモドバル監督作『オール・アバウト・マイ・マザー』、第73回のアン・リー監督作『グリーン・デスティニー』などがある。 近年を振り返ると、昨年は『ファニーゲーム』など鬼才ミヒャエル・ハネケ監督作『愛、アムール』が受賞。キネマ旬報ベスト・テンの外国映画ベスト・テン第1位に輝くなど日本でも注目された。第83回に映画『未来を生きる君たちへ』で受賞したスサンネ・ビア監督はハリウッドデビューも果たしており、これまでハル・ベリー主演の『悲しみが乾くまで』や、ピアース・ブロスナンが出演した映画『愛さえあれば』、ジェニファー・ローレンス出演の映画『セレナ(原題) / Serena』などのメガホンを取っている。 そんなハリウッド進出も目覚ましい外国語映画賞。今年は惜しくも日本代表の『舟を編む』が落選したが、ベルギーから『オーバー・ザ・ブルースカイ』、イタリアの『追憶のローマ』、デンマーク映画『偽りなき者』、カンボジアの『ザ・ミッシング・ピクチャー(英題)/ The Missing Picture』、そしてパレスチナから『オマール(原題)/ Omar』の5作品が選出。 特に注目が『偽りなき者』と『追憶のローマ』。前者は、離婚・失業を経て幼稚園教師の職を得た中年男が、いわれのない疑惑を持たれてしまう衝撃のヒューマンドラマ。何もかも失い世間から迫害されてしまう主人公を「デンマークの役所広司」ことマッツ・ミケルセンが熱演。『007/カジノ・ロワイヤル』の悪役とは百八十度異なり、尊厳と誇りのために闘う男の姿は胸に迫り、第65回カンヌ国際映画祭男優賞も納得の秀作だ。 後者は優雅で退廃的に暮らしていた60代の作家が、誕生日を機に自分の生き方を考え直すストーリー。監督のパオロ・ソレンティーノは「ミケランジェロ・アントニオーニ監督の再来」と絶賛されたイタリア映画界期待のホープとして知られ、映画『イル・ディーヴォ -魔王と呼ばれた男-』はカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、ショーン・ペンが主演を務めた映画『きっと ここが帰る場所』も同映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞した経験を持つ。本作はゴールデン・グローブ賞で同じくノミネートされていた『偽りなき者』をおさえて受賞していることもあり、アカデミー賞でも同じ結果が出るのか注目だ。 「デンマークの役所広司」ことマッツ・ミケルセンが熱演した『偽りなき者』 Courtesy of Magnolia Pictures/Charlotte Bruus-Christensen 有力候補『追憶のローマ』は2014秋日本公開 Courtesy of Janus Films 今回の賞レースで注目されているのが、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で実在の株式ブローカーを演じたレオナルド・ディカプリオと、映画『ダラス・バイヤーズクラブ』でHIV感染者のカウボーイを演じたマシュー・マコノヒーという、主演男優賞争い。両者とも先日発表の第71回ゴールデン・グローブ賞で男優賞を受賞しており、激戦を繰り広げている。マコノヒーは『マジック・マイク』で全米映画批評家協会賞やインディペンデント・スピリット賞を受賞するなど、近年の活躍は高く評価されており、本作でも役づくりのために約22キロも減量するという熱演ぶり。対するレオは、金に糸目を付けない破天荒ぶりで船上からドル札をばらまいたり、赤ちゃん言葉で妻のスカートの中をのぞこうとする失笑覚悟の演技まで披露。今回を最後に休業宣言しているだけに、アカデミー賞会員はこの二人にどのような評価を下すのか、期待が高まる。 しかし、映画『それでも夜は明ける』のキウェテル・イジョフォーや、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』のブルース・ダーン、そして『アメリカン・ハッスル』のクリスチャン・ベイルの存在も忘れてはならない。自由の身でありながら拉致され、南部の綿花農園で12年間も奴隷生活を強いられた黒人男性を熱演したキウェテルは、すでに数多くの映画祭で主演男優賞を受賞しており、ブルースは第66回カンヌ国際映画祭で男優賞に輝いたベテラン俳優だ。さらに『ザ・ファイター』でオスカー受賞経験のあるクリスチャンは、役づくりのために体重を約20キロ増やし、一九分けという衝撃ヘアで実在した詐欺師を熱演。演技派俳優と称される彼らが受賞する可能性も十分にあり得る。 近年の評価が非常に高いマシュー・マコノヒー Courtesy of Focus Features/Anne Marie Fox 休業前に受賞なるか!? レオナルド・ディカプリオ Courtesy of Paramount Pictures/Mary Cybulski 主演女優賞で注目は、『アメリカン・ハッスル』のエイミー・アダムス。彼女といえば『魔法にかけられて』のディズニーヒロインも懐かしいが、今では実力派女優として高い評価を得ている。しかし、第78回の『ジューンバッグ(原題)/ Junebug』から、『ダウト ~あるカトリック学校で~』(第81回)、『ザ・ファイター』(第83回)、『ザ・マスター』第85回)と、計4回もアカデミー賞にノミネートされていたにもかかわらず、これまで一度も受賞していない。しかし今回の『アメリカン・ハッスル』は、ゴールデン・グローブ賞で女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞しており、また俳優の演技力を引き出すのがうまいデヴィッド・O・ラッセル監督作だけあって、悲願のオスカー獲得も時間の問題といった状況だ。 そんな彼女の前に立ちはだかるのは、『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットと、『あなたを抱きしめる日まで』のイギリスの名女優ジュディ・デンチ、『ゼロ・グラビティ』のサンドラ・ブロック、そして『8月の家族たち』のメリル・ストリープという、アカデミー賞受賞経験を持つ超大物女優ばかり。 最有力とされているケイトは、ウディ・アレン監督の『ブルージャスミン』で転落人生の中でもがき、精神を病んでいく女性を圧巻の演技で見せ、すでにゴールデン・グローブ賞で女優賞(ドラマ部門)のほか、全米映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞も受賞済み。映画『アビエイター』でアカデミー賞助演女優賞も受賞した。ジュディも、過去に『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞助演女優賞を受賞。加齢黄斑変性で視力が低下したため、台本はほぼ読めず、本作では作品のシチュエーションを耳で聞きながら演技に臨んだという。『ゼロ・グラビティ』のサンドラはスペースシャトルの大破により宇宙空間に放り出され、決死のサバイバルを強いられる科学者を迫真の演技で表現しており、3度のオスカーを受賞しているメリルは『8月の家族たち』で病を患うも一癖ある個性的な母親を、持ち前の演技力で好演している。 これまでエイミーはことごとくベテラン女優にオスカーを奪われていることもあり、有力候補とはいえ、また受賞を逃すなんてこともあり得るかも……!? エイミー・アダムス、悲願の受賞か? Courtesy of Sony Pictures Releasing/Francois Duhamel それともケイト・ブランシェット? Courtesy of Sony Pictures Classics/Merrick Morton 今年のアカデミー賞でうれしい知らせとなったのが、長編アニメ賞の『風立ちぬ』と短編アニメ賞の『九十九』のノミネート。 『九十九』は、『AKIRA』の大友克洋を中心に、4人の気鋭のアニメーション作家が競作したオムニバス劇場アニメ『SHORT PEACE』の一編として昨年日本で公開され、全国25スクリーンという小規模公開ながら初登場12位と健闘している。監督は、日清カップヌードルのCMと連動したアニメ作品「FREEDOM」で注目を浴びた森田修平。18世紀の日本を舞台に、古い道具に宿ったモノノケたちと人間の男の交流を描く和風テイスト全開の力作だ。『九十九』は第16回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品となったほか、アヌシー国際アニメーション映画祭の公式コンペにも選出された。国内外のクリエイターから絶賛される監督だけに、受賞も夢ではない。 そして長編アニメ賞部門にノミネートされた『風立ちぬ』。日本では昨年7月20日より公開され、同12月23日までに興行収入120億円(興行通信社調べ・推定概算)を記録。2013年最大のヒット作となった。海外ではベネチア国際映画祭、トロント国際映画祭に出品されており、アカデミー賞の前哨戦として知られるニューヨーク映画批評家協会賞やナショナル・ボード・オブ・レビュー賞2013をアニメーション映画部門で受賞。さらに宮崎駿監督最後の長編作品ということも重なり、世界中から注目の的となっている。 しかし、過去5年のアカデミー賞長編アニメ部門の受賞を振り返ると、『カールじいさんの空飛ぶ家』『トイ・ストーリー3』などCGアニメ作品が並ぶ。さらに今年のゴールデン・グローブ賞では、同じくアカデミー賞でもノミネートされている『アナと雪の女王』が受賞しており、ディズニー勢が強い印象だ。さらに、同じく本賞にノミネートされている『怪盗グルーのミニオン危機一発』はアメリカで爆発的ヒットを記録している。 作品のキャッチコピー「生きねば。」に、SE(サウンドエフェクト)と呼ばれる効果音を人の声で表現するこだわりなど、監督渾身(こんしん)のメッセージが詰まった本作。アカデミー賞会員のハートを射止めるのか、目が離せない。 国内外のクリエイターが注目する森田修平監督作『九十九』 ©SHORT PEACE COMMITTEE ©KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE 映画『SHORT PEACE』ブルーレイ・DVD発売中 販売元:バンダイビジュアル 宮崎駿監督最後の作品『風立ちぬ』 Courtesy of Walt Disney Studios アカデミー賞の最後を飾る作品賞。今年は『それでも夜は明ける』『ゼロ・グラビティ』『アメリカン・ハッスル』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などと、どれが受賞してもおかしくない強豪づくし。ちなみに前哨戦では、『それでも夜は明ける』(放送映画批評家協会賞、ゴールデン・グローブ賞(ドラマ)作品賞、ボストン映画批評家協会賞)『アメリカン・ハッスル』(ゴールデン・グローブ賞(コメディ/ミュージカル部門)作品賞、ニューヨーク映画批評家協会賞)という結果で、『それでも~』が頭一つリードしている形だ。 しかし、昨年は『リンカーン』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が有力とされながら作品賞を受賞したのは『アルゴ』。そこで注目したいのが、編集賞の存在。実はこれまで編集賞を受賞した作品は、作品賞を受賞するケースが多く、過去10年を振り返っても、昨年の『アルゴ』のほか『ハート・ロッカー』(第82回)『スラムドッグ$ミリオネア』(第81回)『ディパーテッド』(第79回)『クラッシュ』(第78回)『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(第76回)が受賞している。 今年編集賞にノミネートされているのは、『それでも夜は明ける』『ゼロ・グラビティ』『アメリカン・ハッスル』『キャプテン・フィリップス』『ダラス・バイヤーズクラブ』。作品賞が最後に発表される前に、まずは編集賞の存在も押さえておきたい。 第86回アカデミー賞授賞式は、3月3日(月)午前9時よりWOWOWプライムにて生中継 (夜9時よりリピート放送) やはり『それでも夜は明ける』が受賞か? Courtesy of Fox Searchlight/Francois Duhamel 10部門ノミネートの『ゼロ・グラビティ』は? Courtesy of Warner Bros. Picture 編集部:山本優実 ADVERTISEMENT