あなたの気分は?効能別・韓国映画のススメ
今週のクローズアップ
4月17日に公開された『海にかかる霧』、5月1日に公開された『私の少女』に続き、16日には『国際市場で逢いましょう』と話題の韓国映画が続々と公開されます。今週はいわゆる“韓流”のイメージに収まらない! 韓国映画の魅力を効能別に紹介します。(文・構成:編集部 吉田唯)
笑ってストレス発散!
『ハロー!?ゴースト』は、自殺することばかりを考えていた主人公の前に突然幽霊たちが現われ、願いをかなえてほしいと迫る姿を描いたコメディー。チャ・テヒョンのさえない青年ぶりと、奔放すぎる幽霊たちのやりとりにクスリとさせられること間違いなし。意外な結末にも注目です。
日本で幅広い層から好評を得た『サニー 永遠の仲間たち』は、青春時代を謳歌(おうか)した女子高生仲良し7人組のメンバーが、25年ぶりの再会を果たす様子を活写した、笑いと涙と甘酸っぱさが交錯する人間ドラマ。おばさんになった主人公たちがかつての友との再会で力強さを取り戻し、娘をいじめる不良少女たちを襲撃するシーンは笑いなくしては観られません!
同じく女同士の友情を描いた、韓国版『セックス・アンド・ザ・シティ』ともいわれる『マイ・ブラック・ミニドレス』も笑いどころ満載。男は中敷きまでが身長、女はアイラインまでが目だと主張するセリフなど、外見第一主義な韓国の一面をのぞかせる内容にクスリとさせられる場面もあり、平凡な日々の大切さを思い知らされる作品です。
泣いてスッキリ
韓国史上歴代2位の興行成績で大ヒットを記録した『国際市場で逢いましょう』は、ある一人の男が、家族のために懸命に尽くして生きていくさまを、激動の歴史を交えて描いた感動作。『新しき世界』で犯罪組織の幹部を演じていたファン・ジョンミンが、温かな父親を演じているのにも驚かされます。友情、恋愛、笑いを交えながら描かれる、歴史に翻弄(ほんろう)された男がたどり着く本当の「家族の絆」に涙すること必至の一本。
→東方神起ユンホはおばさん!? ユン・ジェギュン監督インタビュー
南北朝鮮分断の地を舞台に、国境を挟んで友情を育む兵士の姿を活写した『JSA』は、社会性を含みつつ、見事に友情の物語へと収束させたパク・チャヌク監督の手腕に脱帽させられます。『JSA』では北朝鮮側の兵を演じたソン・ガンホが韓国の国家情報員役を務めた『義兄弟 SECRET REUNION』も、カン・ドンウォン演じる北朝鮮のスパイとの友情を描いた作品。韓国と北朝鮮の関係はそのほかの韓国映画でもよく扱われており、映画を通して社会の実情を垣間見ることができます。
人生に絶望した死刑囚と、3度目の自殺に失敗した女性の間に生まれた愛を温かく描いた『私たちの幸せな時間』。日本でも大ヒットした『私の頭の中の消しゴム』と同じく、待ち受ける結末がわかっていても泣ける! 「死」に向かっていた二人が出会うことで起きる奇跡、少しの間の満ち足りた幸せな時間に、本当の意味で「許す」とは何なのかを考えさせられます。
実際にあった性的虐待事件が基になった『トガニ 幼き瞳の告発』は、あまりにもむごい真実と、子供たちのいたいけな瞳に胸が締め付けられます。聴覚障害のある子供たちに暴行や性的虐待を行い、それを隠ぺいしようとした教育者たちの残酷さがリアルに描かれている。韓国では公開後に不条理な司法制度の変革を求め、障害者や児童に対する性的犯罪への懲罰を強化する通称「トガニ法」が国会を通過するなど、実際に社会を動かした、力を持った作品です。
じんわり温かい気持ち
『おばあちゃんの家』は、母親の仕事の都合で口の利けない一人暮らしの祖母に預けられた7歳の孫と祖母との交流を、リアルに描写した作品。都会から来た孫は、思い通りにならない田舎の生活にいら立ち、祖母に無理難題を吹っ掛けるも、祖母は無条件に孫を包み込みます。祖母から注がれる無償の愛と、物語が進むにつれ精神的に成長する孫の姿にほっこりさせられること間違いなしです。
自殺に失敗して無人島で暮らす男と、偶然彼を見つけた引きこもりの女性の恋愛を描いた『彼とわたしの漂流日記』は、一風変わったラブストーリー。ジャージャー麺食べたさに無人島で試行錯誤する男など笑いの要素もあり、社会に居場所をなくした二人の奇妙な関係に心温まること請け合いです。引きこもりの女がラストで見せる選択に勇気をもらえる一本となっています。
緊張感マックス!
『グエムル -漢江の怪物-』などのポン・ジュノ監督が脚本と製作を務め、『殺人の追憶』の脚本を担当したシム・ソンボが初監督した『海にかかる霧』は、金銭的に維持すら難しくなった船の乗組員たちが、中国からの密航者を乗船させたことで運命が狂っていくサスペンス。次々と展開する事件と、次第に正気を失っていく乗組員たちが一瞬たりとも観客を飽きさせず、船とそこに残った人たちが迎える濃密なラストにしびれます。
朝鮮戦争の中でもし烈を極めた激戦地を舞台にした『高地戦』は、停戦成立決定後の最後の戦いに焦点を合わせた戦争アクション。『JSA』の原作者パク・サンヨンが手掛けた脚本とあって、複雑に絡み合った人間ドラマとしても一級品です。戦場を駆け抜ける兵士たちの緊張感、銃弾が飛び交い死体が散乱する戦場など、リアルな描写に手に汗を握ります。
犯罪組織に潜入した警察官が、組織のナンバー2との絆と職務の間で葛藤するさまを描いた『新しき世界』は、男たちの友情と複雑な人間関係が胸を熱くさせるクライムストーリー。陰謀が渦巻く血にまみれた世界で、主人公が選択する答えにドキドキさせられる極上の一本です。
“殺人機械”といわれた連続殺人鬼の実話をベースにした『チェイサー』は、狂気の犯人をたった一人で追う元刑事を描いた衝撃のクライムサスペンス。ド肝を抜くストーリーがハイスピードで展開し、一切の中だるみなしで観客を引き付けます。連続殺人鬼役のハ・ジョンウが魅せる狂気に背筋が凍る名作です。
複雑…後味がズッシリ
『シークレット・サンシャイン』などのイ・チャンドン監督がプロデューサーを務めた『私の少女』は、ぺ・ドゥナとキム・セロンという2人の実力派女優が共演した社会派ドラマ。元エリートの女性警察官と一人の少女との交流を、家庭内暴力や性的マイノリティー、外国人の不法就労といった社会問題を織り交ぜて描いている。生き抜くために社会に立ち向かう主人公たちが出した答えを、鑑賞後に何度もかみしめること必至です。
一方、プロデューサーのイ・チャンドン監督が前科3犯の男と重度脳性まひの女性の恋愛を描いたのが『オアシス』。本作でベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)に輝いた名女優ムン・ソリの鬼気迫る演技は必見です。劇中で彼女が普通にしゃべるシーンに至るまで、何も知らない人は本当にムン・ソリが重度脳性まひなのではと思ってしまうほどの名演技。ファンタジー要素を加えつつ、現実の過酷さを切り取る鋭いまなざしが光る傑作です。
数多くのドラマで母親を演じてきて、“韓国の母”と称される国民的人気女優キム・ヘジャを母親役に迎えたポン・ジュノ監督作『母なる証明』は、殺人事件の容疑者となった息子と、息子の無実を信じて真犯人を追う母の姿を追ったサスペンス。もの静かな息子をアジアスターのウォンビンが好演しており、『アジョシ』の主人公と同一人物とは思えない変わりように驚かされます。母親が息子に向ける愛の大きさ、そして愛が大きければ大きいほどコントロールできないものとして暴走していくさまに、思わず息をのむ一作です。
→『母なる証明』キム・ヘジャ、ウォンビン単独インタビュー
近年は日本映画でもその存在感を放つ俳優のヤン・イクチュンが監督デビューを果たした『息もできない』は、冷徹で粗暴な借金取りの男と、運命的に出会った女子高生の純愛ストーリー。暴力から抜け出せない男の不器用さが、荒々しいカメラワークと重なって抑圧された衝動を観客に伝えている。互いの存在によって過去のトラウマから解放されていく二人の姿に希望を感じさせられると同時に、タイトル通り息もできない厳しい現実に打ちのめされます。