その男、トム・ハーディ~七つの顔~
今週のクローズアップ
犯罪者、怪人といった強烈な悪役や、そんな悪に立ち向かうヒーロー、セクシーな英国紳士に平凡な中年男など、幅広い演技力で知られる「トムハ」ことトム・ハーディ。今年日本では出演作の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』『チャイルド44 森に消えた子供たち』が立て続けに公開されるなど、いまハリウッドで最もホットな俳優の一人だ。次期ジェームズ・ボンドの呼び声も高い彼の素顔や幅広い演技力・七つの顔をクローズアップした。(編集部:山本優実)
2分でわかる!トムハの経歴
イギリス出身の37歳。ロンドン芸術大学で名優アンソニー・ホプキンスの指導を受ける。第2次世界大戦を描いたテレビシリーズ「バンド・オブ・ブラザース」で抜てきされ、リドリー・スコット監督の『ブラックホーク・ダウン』で映画に初出演する。その後、『ネメシス / S.T.X」やソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』、ガイ・リッチー監督の『ロックンローラ』などに出演し、ベネディクト・カンバーバッチと共演したテレビ映画『スチュアート:ア・ライフ・バックワーズ(原題) / Stuart: A Life Backwards』では実在したホームレスを強烈に演じ、BAFTAテレビ・アワード2008の男優賞にノミネートされる。『ブロンソン』では、英国インディペンデント映画賞最優秀男優賞を受賞。
2010年のクリストファー・ノーラン監督作『インセプション』で注目され、2012年の『ダークナイト ライジング』でバットマンの宿敵ベインを演じてからは、ハリウッドスターへの道を一気に突き進む。
今年日本公開の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』『チャイルド44 森に消えた子供たち』のほか、公開待機作にレオナルド・ディカプリオと共演する映画『ザ・レバナント(原題) / The Revenant』、悪名高き双子マフィアにふんし、一人二役に挑戦した『レジェンド(原題) / Legend』などがある。
超ストイック:仕事がやりづらい!?
演じる役にとことんストイックに取り組むことで知られるトム。『ダークナイト ライジング』ではベインを演じるにあたり、撮影前に体重を約15キロ増やして毎日トレーニングを積み、実在の囚人にふんした映画『ブロンソン』では、服役中の本人と電話で会話&対面し、さらに高脂肪摂取&トレーニングによってうり二つのビジュアルになるまで役づくりを徹底した。
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の最新作『ザ・レバナント(原題)』では、レオナルド・ディカプリオと殴り合うシーンで、互いにスタントマンをつけずにガチでパンチしたところ、なんと鼻に命中してしまったそうで、レオはその後、5分ほど出血が止まらなかったという。
そんなストイックな面が原因かは不明だが「仕事がやりづらい」という評判があるそうで、本人も「俺は難しい人間だっていう評判があるんだけど、確かに俺は難しいよ。でも理不尽ではないよ」とイギリス版「Esquire」誌に語っている。
実はバイセクシャル!:SNSに投稿された写真が話題に
以前、開設していた「Myspace(マイスペース)」での投稿写真が一部のユーザーによって拡散されたことによって、話題になっているトム。それはキャップをかぶり片手をブリーフに突っ込み、流し目で自撮りするというセクシーなカット。この挑発するような写真に女性ファンでなく男性ファンも大興奮!
実は彼、過去のインタビューでバイセクシャルであることをカミングアウトしており、「男性とセックスしたことがあるかって? もちろん、あるよ。若いときに、実験的にね。僕は役者なんだぜ。全てのことを経験しているのさ」と公言している。そんなさまざまな経験が演技に生かされているのかもしれない。
狂人:マイケル・ピーターソン『ブロンソン』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<1>
刑務所の独房で約30年過ごした囚人。看守に何かにつけてケンカを売り続け、ほれた女のために宝石強盗して逮捕。刑務所で暴れまくり、120回以上も移転を繰り返す。
独房で全裸になりバターを塗りたくる!
舞台劇、歌、格闘技など『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督のユニークな演出が光る本作。見どころは何といってもトムのヌードシーン。独房で看守の一人を人質にとってフルヌードになると、全身にバターを塗るという意味不明の行動に出る。アナーキーな狂人っぷりにあぜんとする。
知的な男前:イームス『インセプション』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<2>
人の夢(潜在意識)に入り込むことで「アイディアを盗み取る」企業スパイの一人。コブ(レオナルド・ディカプリオ)と智に危険なミッションを遂行する。役割は、他人に成り済ましターゲットの思考を誘導する「偽装師」。
ブレイクのきっかけとなった作品
「トム・ハーディ」という名前が世界中に知れ渡った一作。ノーラン監督はこの頃からトムにカメレオン的な資質があることを見抜いていたようで「トムは、どんなキャラクターにでも飛び込んで、その役に成り切ることができる俳優で、今回もそれがイームスを演じる上でとても効果的だった。彼は、イームスという人物がどんな可能性を秘めているかをすぐにつかみ、いやらしいほどの厚かましさを演技に盛り込んでくれた。それが表現される様子を見ていて、僕はとてもうれしかったよ」と語っている。
怪人:ベイン『ダークナイト ライジング』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<3>
強じんな体でバットマンを追い込む怪人。自身の軍団を率い、大量破壊兵器を用いて、ゴッサム・シティーを破壊しようと画策する。特殊なガスを常に吸うためのマスクが外れると、全身が激しい痛みに襲われる。
ノーラン監督もほれた見事なラスボスっぷり!
本作で、『ダークナイト』の悪役ジョーカーに劣らぬラスボスっぷりを見せつけたトム。出演はノーラン監督からの一本の電話で決まったそうだ。「『君がやりたいと思うかもしれない役があるんだ。数か月間マスクをしなければならないんだけど』と。それ以上のことは何も教えてくれなかった。その役が思い切り悪いヤツだということ以外はね。それで『もちろんやります!』と答えたんだ。クリスのためなら紙袋だって喜んでかぶるよ!」。ノーラン監督は「『インセプション』での彼を見て、怪物を肉体的にも、精神的にも体現することのできる俳優だと思っていたよ」「顔のほとんどはマスクで覆われているにもかかわらず、目の表情でベインを見せることができる。本当に素晴らしい」とトムの演技にベタボレだったという。
ヒーロー:マックス『マッドマックス 怒りのデス・ロード』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<4>
妻子を守れなかったトラウマを抱えるアウトロー。亡きまな娘の悪夢から逃れるかのように荒野を渡り歩く。独裁者ジョーの元部下の女戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)と共にジョーへの復讐(しゅう)を誓う。
スタントにも果敢に挑戦!
撮影前、「旧マックス」のメル・ギブソンに「新生マックス」として演じることを話し、「いいじゃないか、頑張れよ」と後押しされたというトム。本作では前シリーズファンも興奮するに違いない、超絶アクションがめじろ押しだ。しかもスタントに進んで取り組んだようで、巨大な戦闘車の下に潜り込み、車輪の間に体を挟んで車体からぶら下がるという危険なスタントを、自分でやってのけたというのだからスゴい。
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は全国公開中
英国紳士:タック『Black & White/ブラック & ホワイト』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<5>
真面目な英国紳士。CIAに所属し、格闘技に優れている。有能な部下たちに思いを寄せる女性(リース・ウィザースプーン)の好きなものから最近寝た男まで、あらゆる情報を極秘に収集させる。しかし「優しいけど真面目過ぎて退屈」という自分の評価を知ると、ワイルドでたくましい意外な部分を強調するべくサバイバルゲームに連れていくという、キュートな一面も。
本人が「最も苦労した作品の一つ」と語る一作
悪役の印象から一変、コメディータッチなトムを見ることができる貴重な一作。本人にとってもチャレンジな役柄だったそうで「アクションロマンスというのは、簡単にできるものじゃない。今までやった中で一番苦労した作品の一つだった。こんな経験ができたことをとても感謝しているよ」とコメントしている。
タフガイ:フォレスト『欲望のバージニア』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<6>
アメリカで禁酒法が敷かれていた1930年代、大恐慌によって貧困に苦しむバージニア州で酒の密造で生計を立てていた3兄弟の次男。普段は冷静で、どんな脅しにも屈しないが、家族や仲間に危害を加えようものなら、別人のようにひょう変して反撃に出る。女性には奥手でナイーブ。
タフガイ=トム・ハーディ
キレると恐ろしいほど暴力的になり、首をかっ切られても立ち上がるフォレスト役で、タフガイ=トム・ハーディという印象を強めた一本。その気迫に満ちた演技で、2012年のカンヌ国際映画祭をはじめ「トム・ハーディの魅力全開」(Toulcan Times)など高い評価を受け、共演のゲイリー・オールドマンやガイ・ピアースに劣らぬ存在感を示している。
サラリーマン:アイヴァン・ロック『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』より
トム・ハーディが見せる七つの顔<7>
愛する妻と2人の息子を持つ、大手建設会社の社員。しかしたった1度の過ちによって、その幸せな生活が崩れようとしていく。家庭を顧みなかった父親を恨んでおり、自分はそうならないと葛藤する。
ワンシチュエーションで見せる演技にブラピも絶賛!
本作は、高速道路を走る主人公ただ一人がスクリーン映し出され、会話は車内で交わされる電話だけというワンシチュエーション・サスペンス。回想シーンはおろか場面転換すらなく、映画の中の出来事がリアルタイムで展開していく。トムは甘いルックスを封印してモサモサのヒゲをたくわえ、怒りや葛藤、悲哀、孤独といった心情をリアルに表現。映画を観たブラッド・ピットは「完璧すぎる演技」とまで称賛していたという。
『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』は6月27日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開