庵野秀明、エヴァからゴジラへ創造の裏側3~シン・ゴジラの世界を追求した美術の裏側
『シン・ゴジラ』レア資料公開!
東宝製作による約12年ぶりの日本版『ゴジラ』シリーズ最新作にして、大ヒットアニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明が脚本・総監督を務めた『シン・ゴジラ』。特撮ファンはもちろん、多くの「エヴァ」ファンからも注目を浴びる話題作に、庵野総監督はどう立ち向かったのか。映画本編では描写されることのなかった参考用イメージ図(作画:林田裕至)の数々や資料写真、庵野総監督を支えた盟友たちの証言を追いながら、『シン・ゴジラ』の裏側を探っていきます。(取材・文:神武団四郎)
■林田裕至(『シン・ゴジラ』美術担当)
■“映画的アレンジ”を排除した美術
美術監督として、『シン・ゴジラ』の世界をデザインしたのが林田裕至だ。日本アカデミー賞・最優秀美術賞を受賞した『十三人の刺客』『TOKYO TRIBE』や『寄生獣』など数多くの大ヒット作を支えてきた林田は、庵野秀明総監督の実写映画『式日-SHIKI- JITSU-』でも美術監督を担当。今作が2度目のコンビ作となる。政府や自衛隊の施設から荒廃した市街地まで、美術面における要望は徹底したリアリズムだという。
「最初の打合せの時に、庵野さんから『実際にゴジラが東京に現れたら政府はどんな対応をとるか、それを現実に基づいて描きたい』というお話をいただきました。その時すでに庵野さんは政府の災害対策施設をご覧になっていたんですが、一見すると何の変哲もない建物だそうで、そういう部分もリアルに再現してほしい。美術のデザイン的な要素は省き、現状に則したものということですね。僕としては、映画が面白くなればそれで十分ですとお答えしました」(林田)
ロケハン先も、政府や自衛隊の施設がメイン。通常の見学コースのほか、普段は立ち入ることができない施設やスペースも含まれていたが、デザインする上で想像力に頼らざるを得ない場所も少なからずあったという。
「場所が場所だけに、許可が出た時にロケハンに行く感じでした。首相官邸に行った時には、案内してくださった方から『そのまま再現するのは控えてほしい』とクギを刺されたり(笑)。自衛隊関連ではあちこちの基地を見させていただきましたが、立ち入りできない場所も多く、特に作戦本部はNGでした。完全再現ではありませんが、映画的アレンジは加えていません。あとはゴジラが移動するルートを自転車で回ったんです。車で行くよりも、そっちのほうがよくわかると」(林田)
■徹底した、空間へのこだわり
庵野総監督がもっともこだわっていたのが、空間をどう切り取るか。カメラアングルは事前に画コンテやプレビズ(映像の完成状態をシュミレーションするテスト映像)を作成。細部まで組み立てられており、セットも多彩なカメラアングルに応じてデザインされた。
「レイアウトには、そうとうこだわりを持たれていました。ただし、厳密に画コンテどおりに撮るわけではなく、コンテはあくまで目安。そのカットでどんな要素が欲しいかは庵野さんの中にあり、狙いどおりに撮れていれば問題ないんです。それを把握するのは難しいんですが(笑)。通常のカメラが3台あり、その他にも小型キャメラやiPhoneでも撮影するなど、7カメ同時に撮ることもありました。どうすれば庵野さんに満足していただけるか、つねに考えていましたね」(林田)