スペインで『天国と地獄』や三島由紀夫主演映画がソールドアウト!【第56回サン・セバスチャン国際映画祭】
「第56回サン・セバスチャン国際映画祭」で行われている特集上映「日本のフィルム・ノワール」の記者会見が現地時間22日に行われ、現地入りしている映画『蛇の道』の黒沢清、映画『金融腐蝕列島 [呪縛]』の原田眞人、映画『我が人生最悪の時』の林海象、映画『鬼火』の望月六郎の4監督が出席した。
同映画祭では1996年に成瀬巳喜男監督の特集上映を行っている。今回の企画は、プログラム・ディレクターのロベルト・クエト氏の「小津や溝口、成瀬以外の日本映画を紹介したい」という熱い思いから、日本映画ならではのジャンル・ヤクザ映画をもフィルム・ノワールと大胆にひとくくりにし、計43本を特集上映している。林監督も「日本にフィルム・ノワールという確立したジャンルは、確かにヤクザ映画や犯罪映画はたくさんある。僕も20年間、探偵映画を撮り続けてきましたが、その作品がフィルム・ノワールに入るとは初めて知りました」と新たな切り口に感心していた。
会見には日本映画好きな記者たちが集まり、積極的な質疑応答が行われた。スペイン人記者から「フィルム・ノワールを作るときに意識していることは?」の質問が出た。黒沢監督が「僕の勝手な見解ですけど、アメリカ映画のフィルム・ノワールがナゾが解けないまま、不可解なまま終わることが多い。それで自分の作品もナゾが解けないまま終わることがあるんですけど、それをプロデューサーに指摘され『これはフィルム・ノワールだからナゾが解けないままでいいんです』と説明してました」と答えて記者たちの笑いを誘っていた。
また、今回の43本のうちのオススメ作品を問われ、黒沢監督が黒沢明監督の映画『天国と地獄』、原田監督が映画『彼奴を逃がすな』『野獣死すべし』、望月監督が映画『仁義なき戦い』、林監督が映画『忠次旅日記』と、4監督それぞれの個性が表れるような作品を挙げていた。
この特集上映は連日、夕方から夜中まで行われているのだが、23時開始の『天国と地獄』のチケットがソールドアウトになるなど、いずれも好評。特にクエト氏の思惑通り、サイレント映画『忠次旅日記』や、三島由紀夫主演の映画『からっ風野郎』など日本でもなかなかフィルムで観る機会のない作品や、『鬼火』や『我が人生最悪の時』などスペイン初お披露目の作品に国外からも多くのファンが詰め掛けている。
原田監督は「日本でフィルム・ノワールはあまり当たったことがなく、企画として提出すると通らないことが多い。でもこういう風にして欧州から日本映画を見ると『フィルム・ノワールというジャンルがあるんだよ』と紹介してもらえると、新しい流れが始まるような気がします。今回発信していただき、本当に感謝しています」と映画祭関係者にお礼を述べていた。(取材・文:中山治美)