ハリウッドの生きる伝説、クリント・イーストウッドの魅力を再検証!
映画『ダーティハリー』など数々の名作に主演し、監督業としても手腕を振るうハリウッドの生きる伝説、クリント・イーストウッドだが、その円熟の極みともいえる演技、そして巨匠という言葉にふさわしい演出力の両面で、いかんなく才能を発揮する彼の魅力を再検証したい。
テレビ西部劇「ローハイド」に出演後、マカロニウエスタンの世界で活躍したイーストウッドは、映画『ダーティハリー』で型破りな刑事を体当たりで演じ、一躍スターダムにのし上がった。1970年代には俳優業と並行し、映画監督デビューも果たすなど、精力的に作品を発表。映画『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』で2度のアカデミー賞作品賞、監督賞ダブル受賞を果たしている。
俳優としては、やはり『ダーティハリー』で演じたハリー・キャラハン刑事役が強烈な印象を残している。単なる正義のヒーローにとどまらず、時に内なる衝動を暴走させる姿に、「真の正義とは何なのか?」と当時の観客は深く考えさせられたものだ。また、現時点で最後の出演作である映画『グラン・トリノ』では、年輪を刻んだいぶし銀の演技を披露(ひろう)。まさに全身全霊、「これが最後」と言わんばかりの気迫は、圧巻の一言である。
一方、監督業でも幅広いジャンルを手掛け、特に映画『目撃』『ブラッド・ワーク』など多くの傑作サスペンスを世に送り出している。最近では、実話をスリリングな推理劇に昇華させた映画『チェンジリング』での名人芸ともいえる演出が高い評価を獲得。アンジェリーナ・ジョリーというスター女優を起用しつつも、派手な演出は避け、ち密な構成で観客を引き付けた。音楽への造詣が深く、『チェンジリング』をはじめ多くの作品で音楽も担当している。
そんなイーストウッドがキャリアを通して、観客に問い掛けていることは、「正義とは何か?」という永遠の命題だ。先ほど述べた『ダーティハリー』をはじめ、大統領の犯罪を目撃してしまった主人公の大泥棒が追いつめられる『目撃』、一人の女性が警察の腐敗と戦う『チェンジリング』、そして自らの身をささげて、一人の青年の未来を切り開こうとする『グラン・トリノ』など、時代の変化を敏感に感じ取りながら、決して変わることのない思いを作品にぶつける攻めの姿勢は、安全な道を選びがちな現在の映画界にとって、非常に貴重な存在だ。
すでにマット・デイモンを主演に迎えた最新作『ヒアアフター』(原題)の撮影を終え、元FBI長官、ジョン・エドガー・フーヴァーの伝記映画にも着手するなど精力的に監督業をこなすイーストウッド。俳優業に関しても、引退宣言から一転し、「演じた役柄があれば……」と意欲も隠さない。生涯現役を貫くイーストウッドの動向に今後も注目したい。
『グラン・トリノ』は5月16日よる8:00よりWOWOWにて放送。