~第ニ回 そして、クラクイン!~
約3年間に渡る脚本化の作業を経て、実作業が始まったのは2000年の春を迎えた頃。そしてヒロインのオーディションが3月から開始された。プロ・アマ問わずの募集は、中学生に限る、東京近郊に在住という厳しい制限にもかかわらず応募が1000通
を超える。約2ヶ月の選考の末、6月11日にヒロインとして選ばれたのは当時14歳の派谷恵美。演技部は演技経験の全くない派谷に、呼吸法・発声法から教え込むことになる。憎まれ役を買って出た助監督たちによる綿密なリハーサルは、時には厳しい口調も交えながらクランクインまでの1ヶ月半続けられた。千葉県在住の派谷は、この間、往復5時間かけて東京に通
うことになる。 |
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7月15日
この前、だまっていたのは、やめたいって言っても、結局がんばれって言われるのがわかってたから。でも、嫌だ。でも、ムカつく。でもいいから言ってみろって言われて、言ったら、やっぱり、がんばってやれって。だから、言わないっていったのにと思って、ムカつきました。人にちゃんとしゃべれないといけないと言われたけれど、もう、ほっといてほしい。しゃべりたくないのとしゃべることがないのは同じことだと思います。だって結局しゃべらないんだから。だから、色々言われるたびに、夏休みなのに来てんのに、チャコフィル(チャコールフィルター;インディーズ系バンド)のライブもピエロのレストランも、がまんして来てんのにうっさいなと思ってムカつく。 |
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ヒロインの決定と相前後して撮影準備は本格化する。撮影の期間は3週間強と短期集中型となるが、「ヒロインの顔の変わる瞬間を撮りたい。東京での撮影では毎日家との往復となるので、テンションが落ちてしまう。合宿撮影でヒロインの緊張感を保ちたい。そして橋や川といった風景に重きを置いて撮影したいので、地方でのロケを行いたい」という監督のたっての希望で撮影は合宿スタイルの地方ロケとなる。
そして撮影場所に選ばれたのは仙台。山形出身の監督が何回も訪れたことのある土地であった。実は監督の弟さんが仙台在住というこもあり、病院や学校といった難しいロケ交渉もスムーズに決まり、さらに現地のボランティアも募ることが出来た。こうしてオールロケでの仙台ロケが近郊の温泉地・熊野堂温泉をベースに7月29日より始まることになった。
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7月28日
ロケのため仙台に移動。朝8時に新宿を出てバスで仙台に。バスの中は、さすがに4人もいるとだまってらんなくて大さわぎ! 到着したのは熊野堂温泉で、その名の通
り入り口には大きな熊がどかっと座っております。鯉もたくさんいて、鯉のポスターからトロフィーまでなんでもあります。虫もたくさん! 午後からは、小学校のシーンのリハーサルのために、仙台アクターズスクールに行きました。小学生の子たちはかわゆい。でも、あんまり私と年変わんないんだ、実は。私、若い。夜は撮影の無事を祈願するために、お祓いに行きました。あの雰囲気は緊張します。撮影が上手く行きますように。眠い、眠い。寝ます。 |
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そして迎えたクランクイン、仙台市内の尚 女学院でのロケから撮影はスタートした。地元の協力を得て集められたエキストラに演出部が細かく指示を出す。初めてカメラの前に立つ派谷だが、余分な緊張は見られない。「何でも“練習”が苦手。だからリハーサルは苦手でした。早く撮影が始まらないかなと思ってました」とは初日を迎えた派谷の弁。
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7月29日
クランクイン。学校のシーンから。初日なんだけど、ずっとリハーサルとかしてたせいか、初日って感じがしない。でも、撮影本番ではまばたきがダメだから、みょうに目が疲れる……。AM6:30からやってるけど、私はたった一言「忘れ物」しかしゃべってない。らくちん。みんなの方が大変そう。でも、鼻歌を歌うシーンがあってそれはとても恥ずかしい。みんなが見てるし、ホテルに帰ってから、みずえ役のはたのゆうちゃんに鼻歌まちがってるよ、と言われてしまった。シャンプーの仕方もおかしいって。お弁当はおいしい。お腹がすくからいっぱい食べる。みんなで話してて口笛の話になった。私、口笛がふけない……。だけど、もし大好きな浅野忠信がいたらふけるかもしれない。っていうか、絶対にふいてみせる! 空にはタカが飛んでいます。 |
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7月30日
2日目。また学校のシーンで、昨日と同じメンバーだから楽しい。今日はゆうちゃんの誕生日。ケーキもらってみんなで歌ってお祝いした。なんかエキストラの子たちの間で助監督のハシモトさんが大人気らしい。「ちょーかっこよくない?」と言われてしまった。共演の夕紀ちゃんとあやのちゃんは今日で撮影おしまい。さみしい。みんな帰ってから、一人で登校してくるシーンを撮った。深呼吸をやるシーンが全然できなくて、泣きそうだった。やればやるほどできない。3時間もかかってやっとOKになった。帰ったら、みんな寝ちゃってた……。一人でさみしかった。 |
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7月31日
今日は一人だから、朝は自分で起きて、一人でしたくして現場に行った。ビデオ屋さんのシーンで、共演の水上竜土さんが登場。まだ撮影3日目だけど、もうここにずっといるような感じがする。坂のところで、チャリで走りながら“ホラーラビット”を歌わなきゃいけないシーンがめちゃめちゃ恥ずかしかった。夜は、チアキの部屋のシーンの撮影。とにかく眠い。夜はダメ。なんとか起きてるけど、だまってると目が半開きになってくる。しかも寝てるシーンだから、本当にそのまま寝ちゃいそう。と思っていたら、本当に意識がなくなった。いつ終わったのか、全然覚えてない……。気が付いたら朝で、メグさんが運んでくれたらしい。ありがとうございます。
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つづく …
『非・バランス』
物語の主人公は、中学2年生の少女。身の回りに友だちはおろか、話す相手さえ作ろうとしないヒロインは、ふとしたきっかけで知り合った年上の友人と、友情ともとえる不思議な関係を築く。それまで孤立状態という深い穴に入り込んでいた彼女は、新たなる出会いをきっかけに希望ある未来へと飛躍するきっかけを得るのだ。
他人との関係を敢えて断ち切っていたヒロインは、人と人との繋がりの大切さに気づく。孤独であることでしか自らの存在確認をなしえなかったヒロインが、生き方の根幹とも言えるコミュニケーションの大切さに気づき、しなやかさ、たくましさを合わせ持って鮮やかに成長する様を描く。
STAFF/CAST
製作=長谷川憲、岸田卓郎、藤峰貞利/企画=サンダンス・カンパニー/原作=魚住直子「非・バランス」(講談社刊)/監督=冨樫森/脚本=風間志織/撮影=柴崎幸三/照明=尾下栄治/美術=三浦伸一/編集=川島章正/衣裳=宮本茉莉/音楽=川崎真弘
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