まほの[子連れ]ハリウッドへの道29
ルームメイトのすすめ(男一人に女二人同じ屋根の下) |
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私は、日本のスーパーでエビアンを見る度にハリウッドで一緒に住んでいた二人のルームメイトを思い出します。 ニュージーランド出身のジェシカちゃんと、オーストリアから来たフィリップ兄さん。女が二人で、男が一人。しかもフィリップは金髪のハンサムボーイ、私は例によってほれやすい症候群な女。ジェシカと二人で、同居男の取り合い壮絶バトルってか。 うーん危険な三角関係のにおいがプンプンでしょう。そう、人はそんな幻想を抱くのよね、この組み合わせを聞くと。でもねノウノウ! 現実はそうそう楽しいもんじゃあねえ! だって彼らは実は元恋人同士。 ルームメイトって家族のような他人のようなただでさえ不思議な関係なのに、元恋人同士ってややこしーい関係までからみ合ってくると最低最悪。 まあちょっと考えておくんなせえ。昔ねんごろだった二人が同じ屋根の下で別々のベッドルームで暮らすのってのがどんなに難しいか。 そんなもん生理学上無理ってもんだ。 二人と暮らすにあたって私はそれをかなり憂慮していて、何度も何度も確認をとった。 「きみらほんとーに大丈夫? 血い見ることになんないかい?」 「ヘーキヘーキ私ら、親友になったからさ」 ところがどっこい! 暮らし始めてみりゃあなた。ああ確かに親友さ、ふだんはね。ところが一度、二人のあいだに、ピキッと裂け目が入るとソッコウで「ローズ家の戦争」状態に突入。 そうして憎しみの炎と化した二人に挟まれた私は、サンドウィッチにされた哀れな小心者のピクルスちゃんとなるのです。 この真実を改めて思い知ることになったのが、お水事件であります。三人でフィリップの車に乗ってスーパーにお買い物に行った時のこと。 飲料水売り場で、ジェシカは「スプリングウォーター」なるもの、フィリップは「エビアン」を欲しがった。いやあ水なんてどれも味が一緒でしょう。って思ったのだけれどそれはどうやら私だけだったらしく、お水をめぐる大ゲンカが勃発。 「スプリングウォーターは、雪解け水だからおいしいのよ!」 「アホかい! 水といえばエビアンだろーが!」 「スプリング!」 「エビアン!」 「スプリング!」 「エビアン!」 「ファックユー!」 「ファックユー!」 まあまあ。みんな見てるし。止めに入ろうとしたにも関わらず、シカトされ、しまいには 「分かった、ここは第三者であるまほに決めてもらおうじゃねーか」 ここまでで一番可哀想なのはまぎれもないこの私だ。そんなもん、どっちの水とっても確実にどっちかから恨まれるに決まってるし。 そら、二人とも、顔が「エビアン」「スプリング」って私に訴えてきてる。きゃあああ。 「じ、じゃあまあ味比べってことで両方買ったらいかがでしょ」 気弱なピクルスはこんな意見しか出せません。にもかかわらず、二人は同時に5リッター入りのくそでかい水を抱え、冷蔵庫に入る入らないとまたもやもめだしたのであります。頑固もんなんだよな、二人とも。とほほ。 結局、二人は完全に決別し、ジェシカはフィリップの車への乗車を断固拒否。こんな時女って大変でよお。 私だけフィリップの車で帰るわけにはいかねえんだなこれが。そんなことしようもんなら、女同士の友情破壊行為にみなされるわけさ。 こうして私は怒り狂って頭から蒸気を出しているジェシカと二人で重たい水を抱えて20分も徒歩で家に帰ることになったのであります。 なんかよく分からんが、やたら損した気分になった夜だったのでした。 来週に続く… |