『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』監督インタビュー
取材・文/斎賀 美香
大ヒットシリーズの「ハリー・ポッター」第3弾でメガフォンをとることになった『天国の口、終わりの楽園』のアルフォンソ・キュアロン監督とシリーズ第1弾の『ハリー・ポッターと賢者の石』から、製作としてかかわり続けているデイビッド・へイマン。この2人に撮影にまつわるさまざまな話、気になるシリーズのこれからについて話を聞いてみた。
【アルフォンソ・キュアロン監督独占インタビュー】
Q:原作は巻を追うごとに長くなっていますが『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』は前2作よりも上映時間が短くなっていましたね……。
まず、僕自身としてもコンパクトな作りにしたかった。そして『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のテーマについて考えた時、それはハリーのアイデンティティ探しにあると思った。だから脚本家とも話し合って、このテーマから離れたエピソードについては削っていくことにしたんだ。
Q:膨大なボリュームの原作を脚本化することは、どのような意味を持っていたのでしょう。
原作があって脚色していく時、大切なことは物語を伝えることだよね。言葉を追うことじゃない。言葉を追っていると映画ではなくなっちゃうからね。だからノリというか、前へ進んで行くための流れを作るようにしたんだよ。
Q:監督自身の色を映画にどのように反映させましたか?
無理に自分の色を出そうとは思わなかった。まずは、すでに確立されているハリー・ポッターの世界観とその心を伝えようとしたんだ。とはいっても映画作りは監督である僕の目をとおして進められるわけだからね。意図的にそうしたわけではないけど、映画全体のトーンに僕らしさが出ているのではないかと思うよ。
Q:ご自分の色を映画に反映することに成功したと思われますが、これまでにない新登場のキャラを作り出すことは大いなるチャンレンジだったのでは?
黒いフード被った“デイメンター”のようなキャラ(ナズグル)は、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでピーター・ジャクソンが作り上げてしまっていた。そうしたら僕たちはどうしたらいいのだろう? どうやって“デイメンター”を作り上げたら? そこで肉体的な面ではなく、理念や概念の部分からアプローチすることにしたのさ。原作者のJ.K.ローリングによると、“デイメンター”というのは人間が抱えている慢性的な鬱(うつ)の思いであり、内面的な暗い思いだった。
Q:理念や概念からアプローチし、それをどう映像化したのですか?
サンフランシスコのベイジル・ツイストに協力してもらって、“デイメンター”のパペット人形を作ってもらった。そして水中でこのパペット人形を動かし、撮影してみた。いいできばえだった。でも実用的なものではなかったんだ。そこでジョージ・ルーカスのILMに「このイメージで“デイメンター”を作って欲しい」と依頼して、あの“デイメンター”が誕生したんだ。
【デイビッド・へイマンプロデューサー独占インタビュー】
Q:『ハリー・ポッターと賢者の石』の頃から子役3人を見守ってきていますが、あなたは、彼らにとってどんな存在なのでしょう。
ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン。3人とも生意気なことを言ったりしないし、悪ガキでもないし、とてもいい子供たちだ。でもどうやら最近は異性に興味を持ち出したようだよ(笑)。ダニエルはパンクやロックに興味を持っているようだが、その音楽センスはなかなかのものだ。とにかくこんな素晴らしい子供たちが自分の友であり、一緒に仕事をする同僚であることは、僕の誇りだよ。
Q:映画の大成功を受け、子供たちに変化はありましたか?
これだけの変化と成功を受けても、彼らは変わっていないんだ。なぜ彼らは昔と同じでいられるのだろう? それはハリー・ポッターという1つのファミリーの中で映画を撮影しているからではないかな。そして何よりも彼らの家族がスターとしてではなく、自分たちの息子、娘として接していることが最大の理由だと思っているよ。もちろん僕たちもジョークを言い合い、楽しく遊ぶし、大スターだと特別扱いすることはないね。
Q:アルフオンソ・キュアロンを監督を起用したことは成功だったのでしょうか?
子役たちに成長をもたらしたアルフオンソ・キュアロンを監督に選んだことは大正解だった。前々からアルフオンソ監督と仕事をしたいと思っていた。彼の『リトル・プリンセス』、あれは「小公女」という本の映画化だったが、実に素晴らしいできだった。映像もとても美しい。原作ものを見事に映画化できる監督という認識をこの作品で彼に対して持つことになった。そして『天国の口、終わりの楽園』。この作品で描かれていたのは、ティーン・エイジャーという世代の最後の輝きだった。この映画を観て、監督のティーン・エイジャーに対する理解は確かなものだし、ティーン・エイジャーの心を持った監督だと思った。ティーン・エイジャーの心がなければ、ティーン・エイジャーを理解できないというアルフオンソの考え方にも共感できた。
Q:ところで気になるハリーの運命はどうなるのでしょう?
うーん、僕もわからないな。でもラドクリフが言っているような“ハリーの死”ということも可能性としてあるかもしれない。でもそれはあくまでも可能性であって、どうなるかはわからない。ハリーと“あの人”との対決は避けられないことだとは思うけどね。
Q:最後に子役たちは今後のシリーズにも続投するのでしょうか。
現在、4作目の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』を撮影している。この作品には、子役の3人も揃って参加している。でもその後のシリーズについては、まだ何も決まっていないんだ。僕の個人的な意見としては、3人がまた戻ってきてくれればいいと思っている。でも現段階ではどうなるとは言えない状態だね。
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』は丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中。