『リディック』ヴィン・ディーゼル独占インタビュー
文・取材:前田かおり
宇宙の無法者リディックがエイリアン相手に大暴れする。カルト的な人気を集めたSF映画『ピッチブラック』でブレイクしたヴィン・ディーゼル。初主演作だっただけに、演じたキャラクターへの思い入れも人一倍だったようだ。その後、『トリプルX』の大ヒットで、見事スターの座を射止めたディーゼルは『ピッチブラック』で監督・脚本を手がけたデヴィッド・トゥーヒーと組んで、続編の『リディック』を作り上げた。CG全盛時代に、制作費1億500万ドルもかけて、北米最大のスタジオに巨大で豪華なセットを作ってまで撮影に臨んだだけでなく、プロデューサーまで兼ねた。とことん奮闘したディーゼルに、作品への熱い思いをたっぷりと語ってもらった。
Q:『ピッチブラック』から5年、またリディックを演じるのは楽しかった?
もちろん! すごく、すごくね(笑)。
Q:『ワイルド・スピード』や『トリプルX』などのヒット作があるのに、なぜあえて『ピッチブラック』の続編を作ったの?
それはね、リディックが典型的なアンチ・ヒーローで、僕にとっていとおしいキャラクターだからなんだ。というのも、僕は彼がとても反抗的な性格だということが大好きでね(笑)。それに、独立心があって、自信に満ちあふれているのも魅力だ。そんなキャラクターであれば、今の観客は共鳴できると思うんだ。だって、今はもう完璧で優等生タイプなヒーローなんて面白いとは思わないだろう。その点、リディックは完璧ではないアンチ・ヒーローだからね。
Q:『リディック』の脚本にはあなたのアイデアも生かされているんですよね。
そうだよ。僕は「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」というゲームで遊びながら育ったし、ファンタジーアートのフランク・フラゼッタの大ファンなんだ。それで、まず『ピッチブラック』でリディックをイメージするとき、フラゼッタが描くイラストのように筋骨隆々として、たくましくセクシーな体型がいいんじゃないかと考えた。
それをデビッド・トゥーヒー監督に話したら、取り入れてくれた。たとえば、リディックが人々の上を飛ぶところを見ると、彼の胸が一番前に出て、体の他の部分は後からついていくように見える。あれはフランク・フラゼッタ的なボディランゲージなんだよ。ともかく、初主演作の『ピッチブラック』で自分のアイデアを出来るだけ入れてもらえたんだ。
それから僕はコツコツ働いている間に5年が経って、ユニバーサルスタジオに言ったんだよ。「お願いだから、『クロニクル・オブ・リディック』を作ってよ」って。そしたら、彼らは「『ワイルド・スピード2』はどうだ」というわけだよ。「ノー、お願いだから、『クロニクル・オブ・リディック』を作ってよ。僕はリディックを主人公にして、神話を組み込んだ映画を作りたいんだ」って。そしたら、彼らは「オッケー、『ピッチブラック2』を作ろう」って言うわけだよ。でね、僕は言ってやった。「違う、違う! ジュディ・デンチのような役者が出演する機会があるような神話をやりたい」とね。
すると、彼らが「『ピッチブラック』みたいな小さな作品からどうやって神話を作るんだい?」って聞くから、「ディム・ジュディ・デンチのような役者に出てもらって、神話を説明することによってそれは神話になる。なぜなら、彼女のような名優が物語を語れば、僕たちは信じるからだよ」って答えたよ。
Q:その英国の大女優ジュディ・デンチに出演を依頼するために、ロンドンに会いに行ったそうですが、ホント? 抱えきれないほどの花束を持っていったとか。
そうだよ。ロンドンに行って、ジュディ・デンチが『ハリー・ポッター』にも出ているマギー・スミス(マクゴナガル先生役)と一緒に出ている芝居を見たんだ。
そして、芝居が終わった後で、ものすごくたくさんの花を贈って、「プリーズ、プリーズ、プリーズ! お願いだから、この映画に出て下さい」って頼んだよ(笑)。
彼女は脚本を読んで、「オッケー」って言ってくれた。ユニバーサル・スタジオはジュディ・デンチのギャラに関して、少しナーバスになっていた。それで僕は言ったんだ。「彼女が欲しいだけ払ってくれ。彼女はこの神話をリアルなものにしてくれる」って。僕たちには、『ロード・オブ・ザ・リング』のように偉大な作家トールキンが50年も前に書いた原作があるわけじゃないし、『スパイダーマン』のようなコミックブックのキャラクターが出るわけでもない。これは全くのオリジナルなんだ。だから、彼女のような信頼ある役者をつかまえることは重要だった。
Q:ジュディ・デンチが素晴らしい女優だというのは誰もが知っていることだけど、あなたがそんなに彼女にこだわるのは「お母さんがデンチのファンだから」と聞いたんだけど……。
ハハハッ! 実はそうなんだ、僕の母はデンチのファンでね(笑)。ちょうどデンチが演じたエアリオンというキャラクターを考えているときに母のことが浮かんだ。知っていると思うけど、母は占星術師でね。彼女自身は天秤座で、星座のサインで言うと空気なんだ。だから、エアリオンは空気のような軽やかな感じで、どこにでも入っていける。それに、唯一リディックに対して、何の偏見も持たない母親的な存在。確かに、母をモデルにしていると言えるね。
Q:ゲーム好きが高じて、2年前にタイゴン・スタジオという会社を作って、『リディック』のゲームソフトも作りましたね。
僕は自他共に認めるワーカホリック人間(笑)。とにかく、いつも映画のことばかり考えている。今なら次回作の『HANNIBAL CONQUEROR(征服者ハンハニバル)』かな。そんなふうに僕が考えていることを阻止できる唯一のことは、ゲームだけ。ゲームをしているときはプレーに夢中だからね。でも、ゲーマーとしてプレーをするだけじゃなくて、ストーリーにも惹きつけられるようになった。それで、映画の中には入れられなかった情報をゲームには入れてみたんだ。あるレベルにまで達すると、リディックの目がどうしてああなったのかを知ることが出来るとか。
Q:大スターになって、映画界でパワーを得たことで一番良かったことは?
そりゃあ、『リディック』のようなクレイジーな映画を作れたことだよ(笑)。僕が初めて、この作品のことを口にしたとき、みんなは「何、それ?」って感じで僕のことを見たからね。だけど、みんなにあきれられるような夢をかなえることが僕にはできた。次は『HANNIBAL CONQUEROR』という作品を作ることだ。これは紀元前3世紀のカルタゴの将軍、ハンニバルがローマ帝国を攻撃した話なんだけどね。この役づくりのために、僕はもう2年前から象に乗る訓練をしている。そしてね、僕はこの作品を英語ではなくて、当時使われていたギリシャ語やスペイン語、ラテン語、カルタゴ語で映画化したいと思ってる。まあ、これは今の僕が持つパワー、ギリギリで実現できることかもしれないね(笑)。
マッチョでクールなタフガイ。そんなイメージとは違って、心の中にはいつまでも少年のような夢を持ち続けているヴィン・ディーゼル。これからも一つ一つ、スクリーンで夢を実現させていく彼を見守っていきたい。