365日、眠っていない男『マシニスト』ブラッド・アンダーソン監督独占インタビュー
取材・文:今 祥枝 写真:FLiXムービーサイト
1年間365日、眠っていないという極限状態に陥った機械工のトレバー。『マシニスト』は、トレバーを演じるクリスチャン・ベールが約30キロの減量を行い役に臨んだことでも話題のスリラーだ。監督は、インディーズの雄としてその名を知られるブラッド・アンダーソン。ラブロマンス『ワンダーランド駅で』からサイコホラー『セッション9』まで、幅広いジャンルを手がける異色の才能だ。インタビューでは、映画にまつわるエピソードや映画に対する考えなどを率直に語ってくれた。
Q:クリスチャン・ベールの減量が話題先行していますが、トレバーの実存をめぐる物語はカフカ的な不条理な世界を構築していて、深読みしたくなる要素が多く興味深い作品です。この物語の何が、最もあなたを惹きつけたのでしょう?
最初に脚本を読んだ時は、まさにカフカやドフトエフスキーが生きていて脚本家だったら、こんな物語を書いただろうと思ったよ! 映画のオープニングのセリフで、トレバーに対して「Who Are You?」という問いかけがあるが、彼はそれに答えようと必死になる。つまりこれは、「自分の存在がなんであるか」を求めていくという物語で、僕はその実存主義を扱ったテーマに惹かれたんだ。脚本自体が、非常に文学的な要素を持った作品だった点にも魅せられた。
Q:これまでの作品では脚本はあなた自身が手がけてきましたが、今回は脚本にはどの程度関わったのですか?
スコット・コーサーが常に脚本家として仕事はしていたけれど、僕の意見やアイディアも多少は取り入れてもらったよ。それから映画をスペインのバルセロナで撮ることになったので、物理的に変更せざるを得ない点もあったね。脚本を仕上げていくのはなかなか大変な作業だから、ほかの人がそれをやってくれるっていうのは本当に楽で助かったよ(笑)
Q:あなたのこれまでの作品は、どれもヨーロッパ的なテイストが強いと思うのですが、本作もいかにもスペイン映画らしい、ドライなタッチの映像がシュールな世界観を構築するのに一役買っていますね。スペイン資本で映画を撮った理由はなんですか?
実はね、アメリカで製作費を工面することができなかったんだ(笑)。それでどうしようかなと思っていた時に、前作『セッション9』がスペインで好成績を挙げたということで、スペインの製作会社が僕のことを知った上でぜひやりたいと言ってくれたんだ。アメリカを舞台にした作品だけど、スペインで撮影することになったためにとてもヨーロッパ的なものに仕上がり、結果としてよかったと思っている。
ただ、僕はどこで撮影するかということにあまりこだわりはないんだ。唯一、作家として僕に必要なのは、クリエイティブな面でのコントロールを自分が持つということ。そういう意味では、アメリカのプロデューサーは作品に口を出したがり、反対にヨーロッパのプロデューサーは距離をとる傾向があるね。
まあでも、そういうことには関係なく、僕の作品はすべてどこかヨーロッパ的な資質というのを持っているかもしれないな。なぜかは自分でもわからないけれど、もしかしたら僕の中にあるアートっぽい感覚がそんな風にスクリーンに現れているのかなぁ。
Q:本作を作る上で、ロマン・ポランスキーやアルフレッド・ヒッチコックなどの作品にインスパイアされたそうですが、あなたはかなりのシネ・フィルだと思われます(笑)。この映画に限らず、どんな映像作家が好きですか? そういえばゴダールと、あともう1人誰か特別に好きな監督がいると聞いたことが……。
ゴダールよりは、僕はトリュフォー派だよ(笑)。
Q:思い出した、タルコフスキーですね!
タルコフスキーはもう、大好きな監督だよ!『惑星ソラリス』が特に大好きな映画なんだけど、確か東京でも少し撮影してたよね? スタンリー・キューブリック、ポランスキー、ヒッチコックなど、どちらかというと今まではアメリカ映画よりもヨーロッパ映画に影響を受けているね。でも、アメリカ人でもウディ・アレンやキャメロン・クロウ、オーストラリア人のピーター・ウィアーとか、いろんな監督が好きだよ。
ただ、映画監督としてはやはり作品ごとに自分なりのビジョン、スタイル、ビジュアルを見つけてオリジナリティを持ちたいと思っている。ほかの映画監督では、自分の好きな監督へのオマージュで映画を作る人もいるけど、それは僕にとっては少し奇妙な映画の作り方に思えるんだ。僕はやっぱり自分の映画を作りたい。とはいえ、自分の好きな映画作家の影響を受けてしまうのは、まあ仕方のないことだけどね(笑)。
Q:ラブロマンス『ワンダーランド駅で』の次回作を楽しみにしていたら、全くテイストの違うホラー『セッション9』で驚いたんですが、あえていろんなジャンルにチャレンジしているのですか?
僕はコメディもやればミュージカルもやればスリラーもやる。ジャンルホッパーなのさ(笑)。『セッション9』と『マシニスト』に関して言えば、観客に恐怖やパラノイアと……いった、ある雰囲気を感じてもらうことが大事だった。つまり、ビジュアルという形で物語を伝える自分の力を試す、いい機会だったんだ。それに対して、以前の『ワンダーランド駅で』や“Happy Accidents”は、コメディなので会話がキモになる。作品のタイプが違うというのは、作っていてなかなか楽しいものだよ。
現在、企画の中にはミュージカルもあるんだよ! ブラジル音楽のボサノバが満載で、脚本はすでに書き終えていて、いまは製作費を集めているところなんだ。もしかしたら、次はこの作品で皆さんにお目にかかることができるかもしれないな。スリラーから今度はミュージカルなんて、かなり面白い展開になると思うよ(笑)
Q:最後に、クリスチャン・ベールについて一言お願いします。
そんなにたくさんの映画を撮ってきたわけじゃないけど、今まで会った中で最高の役者だよ! 彼はすごく熱心で、役に成り切るためには何だってやる。それに才能にもあふれているけれど、人間的にも、とてもいいヤツなんだ。貴重な人材だよ。両方持ってる人は、この業界にはそんなに多くないからね(笑)。