『樹の海』萩原聖人 独占インタビュー
取材・文:平野敦子 写真: FLiXムービーサイト
『CURE』や『カオス』『この世の外へ クラブ進駐軍』など話題作に次々と出演してきた萩原聖人。そんな彼の最新作は、やむにやまれず富士の樹海に深く踏み込んで行く人々を見つめた『樹の海』だ。暴力団関係者と組み公金を横領するものの、途中で怖くなり半殺しの目に遭う死に損ないの男を演じた。韓流ブームを巻き起こしたTVドラマ「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンの声としても有名な彼に、樹海での撮影などについて話を聞いた。
■相手役が死体
Q:実際の樹海の中での撮影はどうでしたか?
僕の役は相手が“田中さん"という死体だけだったので、相手がいないという点に関しては大変でしたが、撮影に入ってからは楽しかったんですよ。自分の中でどうやってこの役を成立させたらいいんだろうかという前段階のときのほうが苦労しましたね。いろいろなパターンを自分でシミュレーションしてみたりとかして。舞台をやるような感覚でした。
Q:死体に向かって一生懸命話しかけているところとか笑えたのですが。
僕が演じた朝倉という役は人物像がそんなに細かく書かれているわけではないので、性格的なこととかもまったく分からなかったんですよ。だからブツブツとひとりごとをしゃべる中から「じつはこんなヤツなのかも……」という匂いを出せたらと思っていました。
■客観的な自分がいる
Q:萩原さんは役に入り込むタイプですか?
僕はそんなに役に入り込むほうではないんです。客観的に自分のパフォーマンスをもう一人の自分が見ているという感覚ですかね。それで「これは違うんじゃないか?」とか思ったりして。あとは毎回その2人の自分と悩みながら役を作っていく感じですね。
■人の生き死になんて決められない
Q:もし自殺をしようとしている人にばったり会ったらどうしますか。
あんまり人の決めたことに干渉するのは好きじゃないんで……。人の生き死になんて僕が決められないですよね!? 富士の樹海まで来て死のうとしている人は相当悩んで覚悟を決めて来ていると思うんですよ。突発的に飛び下り自殺をするとか、そういうのとはまた違うはずなんです。まぁ、話ぐらい聞いてもいいかもしれないですけど、とめたりはきっとしないですね。その人の気持ちというのはその人にしかわからないですから。生きていたほうが辛いっていう感覚ってなんとなくわかる気がするし……。
Q:樹海に対してはどんなイメージを持たれましたか?
樹海という場所は確かに人がたくさん死ぬにはいい環境って言うとヘンですけどそういう気持ちになった人には気持ちが落ち着く場所なんじゃないかと思います。生きるエネルギーにあふれた人はちょっと気持ち悪いって思うかもしれませんが。ロケーションとしては異様な感じがしますよね。あんなに緑にあふれて生命力に満ちている感じがするのに、生き物の気配がまったくしないんですから。
■樹海で迷う心配
Q:樹海で迷う心配はなかったんですか。
あぁ、さすがにね、そんなリスクを冒してまではね(笑)! 僕が撮影したあたりはハイキングコースをちょっと入ったところと、それよりもう少し奥に行ったところでしたから、撮影中に「こんにちは」とか人が通ったりしてね。自殺の名所という先入観なしで行けば、マイナスイオンも充満していてとてもいいところですから。でも太陽の光がなかなかささないんですよね。薄暗くてひんやりしていてジメジメしている。6月ぐらいの時期でも昼間でも寒いんですよね。僕は鈍いから大丈夫だったんですが、もしかしたら霊感の強い人には向かない場所かもしれないですね。
Q:4つのエピソードがありますが、やはり自分の演じた役に一番共感しますか?
うん、そうですね。そうしとこう! まぁ、あのずるくて情けないあたりは僕によく似ているのかなって気はしますね。
■人としてのずるさを出したほうが共感される
Q:萩原さんはずるいんですか?
ずるくない人なんていないじゃないですか(笑)。
Q:ずいぶん正直ですよね。そういう部分って普通は隠したがるものだと思うのですが。
あぁ、はい。隠しても意味ないなと思って(笑)。さらけ出すつもりもないんですけど、聞かれたから正直に答えたまでです。自分からは普通「僕ずるいです」なんて言わないですよ(笑)。でもずるかったり隠したがる部分が見える役のほうが、妙に人間っぽさが出るというか。観ている人に共感されやすい気がするんですよね。
■ヨン様の声の主
Q:どういう人にこの作品をオススメしますか?
万人に観てもらいたいというのは普通の意見ですが、観れば何か感じてもらえる映画だと思うんで、本当にいろいろな人に観てもらいたいですね。生きる希望をなくした人に観てほしいとか。うーん、たとえばそういう人が観て、何かのきっかけになったりしてくれるような作品ではあるかもしれないですが、世の中そんなに甘くないんで(笑)。
Q:では最後にヨン様の声の吹き替えをされてから変わったことがあれば教えてください。
吹き替えの声を聞くと自分の声とは全然違うんで気持ち悪いんですよね(笑)。でもオバさまとかに「ヨン様!」とか呼ばれるようになりました。「オレはヨン様じゃないんだけど……」とか思うんですけどね(笑)。
彼が演じた役柄からもっと口数が少ない人を想像していたのだが、実際の彼はシャイには違いないけれど、よくしゃべり、よく笑う人だった。その笑顔がまた素晴らしくすてきなのだ。正直に自分を表現し、仕事以外のことに関しては自分は怠け者だと言い切ってしまえる幸せな役者はそう多くはないはずだ。そんな役者中毒の彼が演じていて楽しかったと断言する作品がつまらないはずがない。表から見える美しい富士山とはまた違う魅力をとらえた富士山の裏側に広がる『樹の海』を観て、「人生まだそんなに捨てたもんじゃない」と思えたら幸せだ。
『樹の海』は6月25日よりCINE AMUSE EAST&WESにて公開。