妻夫木聡、行定勲『春の雪』単独インタビュー&イ・ビョンホン対談
取材・文・写真:FLiXムービーサイト
三島由紀夫の"豊饒の海"シリーズの第1作「春の雪」を『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲監督が、妻夫木聡と竹内結子主演で描く大正時代を舞台にした切ないラブストーリー『春の雪』。本作が第10回釜山国際映画祭に出品されることになり、釜山に駆けつけた妻夫木聡と行定監督に話を聞くことが出来た。また、日本でも韓流スターとして大人気のイ・ビョンホンが同映画祭にて妻夫木聡と対談した模様もあわせてお伝えする。
男としての親近感
Q:俳優“妻夫木聡”に持っていた印象を教えてください。
行定:ここ韓国でも、妻夫木はルックスがよいと言われているけど彼自身はそんなことは意識していないんですよ。僕もそう(意識していないこと)思う。でも、よく見ると、きれいな顔立ちだけどね(笑)。彼には男としての親近感もあると思うんですよ。それが俳優としては重要なんです。それは彼の育ってきた環境によるメンタリティのようなものからにじみ出ているんですね。映画の主役としての器ではとてもいい素材を持っている俳優さんだと思いますね。いろんな役ができる人です。
Q:行定監督に持っていた印象を教えてください。
妻夫木:『ひまわり』や『GO』など作品は観ていました。『ひまわり』ではスクリーンいっぱいに広がるひまわり畑がすごく印象的でした。初めてお会いしたのは日本アカデミー賞の席だったのですが、すごくいっぱい賞をとっている監督だなぁと。お会いする前の僕の勝手なイメージではもっとカツカツしていて、ストイックで、あまりしゃべらない人だと思っていたんです。でも実際お会いしてみると、いっしょにバカ話に付き合ってくれたりして、思っていた印象と少し違いました。でも、そうかと思えばすごく頭の中はすごく計算しているというか……。いい意味で欲深い人だと思いましたね。
生きる道が見つかった
行定:妻夫木くんは特にここ2、3年ですごく変わったと思いますよ。役者がいまおもしろいんじゃない?(妻夫木に促す)役者の道しかもうないでしょ(笑)?
Q:妻夫木さんは、今から違う職業の道を進みたいとか……あるんですか。
妻夫木:それは、ないですね。
行定:多分、見つかったんですよ。
妻夫木:これからもずっとこの道でやっていこうというのは、いつからだか、分からないけどいつの間にか思っていましたね。本来自分はすごく飽きっぽいので、こんなにひとつのものごとにハマったことはないんです。理由?……説明するのは難しいですね。好きなことが見つかったら好きなことに理由ってはっきりいえないじゃないですか。恋愛といっしょです。相手のどこが好きになったかなんて説明つきませんよね。
リアルな日本の貴族
Q:日本の貴族の世界をこんなに鮮明にリアル見たのは初めてでした。日本の貴族に持っていた印象を教えてください。
行定:僕自身、『北の零年』を撮っていたから表現できた部分があります。ヨーロッパの文化をとりいれた日本の上流階級の人たちっていう印象で、浮いた存在だと思っていたのですが意外と違うというか……。江戸時代からあった階級制度が流れていて、悪い方に進化していたと思います。いまの日本はそういうことがないので浮いて見えるのが心配だったけど、妻夫木と竹内が演じると彼らの日常として普遍性を持って見える。妻夫木の貴族は映画として違和感がなかった。
妻夫木:日本の貴族というものに対して違和感はなかったですよ。そういう時代はあったんだなぁってなんとなく知っていたんで。なんでも興味はもてるほうなんです。日本でもそういう時代はあったんだという事実は素直に受け入れていましたね。実際、違和感より、それを演じてみたいと思っちゃうほうなんで。
感情を抑える
Q:妻夫木さん演じる清顕は好きな人をわざと嫌いと言ってみたりと精神的に幼いのでは?
行定:それは違います。根底に時代背景があるんです。今の時代だと想像できないかも知れないけど、この映画の舞台である大正では相手に「好き」なんて告白はとても出来なかった時代。そんな中で好きな人に思いをストレートに伝えるのはとても難しいことだったんです。劇中、彼が夢を見ます。それは、彼のかなわぬ思いや、いろいろな感情が表現されている。言葉では説明されていないけど、ここで彼の胸の内を理解することが、できるはずなんです。
Q:清顕という役は、いままで妻夫木さんが演じてきた天真爛漫な役とは違いますけど。
妻夫木:僕はもともと、すぐ感情を押し出してしまうクセがあるんで、そこは抑えようと思いましたね。抑えて、冷静でなきゃいけないと思いました。その点は気をつけました。
Q:ご自身の中で純愛の定義を教えください。
行定:純愛って結果的に純愛だったってことですからね。どんな愛にも根底はみな純愛を持っていて、描かれ方や表面は違う。「本質が根強いもの」が純愛です。気づいてない愛が認識されないまま、あぶりだされていくものだと思います。
妻夫木:純愛は純愛です。この映画を観てもらえれば分かってもらえるかも。
Q:『春の雪』に純愛が描かれていると……。
妻夫木:いや、それはあんまり決めたくないです。いろいろな形の純愛があると思うし、お客さんによって純愛の感じ方も違うと思うし、それは僕が決めてしまいたくないです。純愛の定義は人それぞれでいいんじゃないですか。
【妻夫木聡&イ・ビョンホン対談】
前からすばらしい俳優だと思っていた
Q:イ・ビョンホンさんは『春の雪』、妻夫木さんは『甘い人生』を観たそうですが……。
イ:以前から妻夫木さんは本当にすばらしい俳優さんだと思っておりまして、彼の作品はいままでに4本観ています。見るたびに彼の飾らない、純粋で自然な演技に感銘を受けています。
妻夫木:男らしくてクールなイ・ビョンホンさんの一面を見せていただきました。すごくかっこよかったです。特に体を張った演技にすごくパワーを感じました。これは自分には出来ないと思うシーンだらけでしたね。僕はアクションをやったことがないので勉強になりました。これからもイ・ビョンホンさんの作品をいろいろ観ていきたいと思いました。
イ:『春の雪』は時代考証もよく生かされ完成度の高い作品だと思いました。重々しい時代の中にうまく妻夫木さんの演技がとけこんでいて彼の新しい魅力を発見できた気がします。この作品はとても好きなのですが彼の作品で一番好きな作品は『ジョゼと虎と魚たち』です。あの映画を観たときは完全に妻夫木さんに惚れ込んでしまいました。
Q:日韓合作の話があったらどうしますか。また、韓国のどんな俳優と共演したいですか。
妻夫木:日韓合作はとてもやりたいと思います。共演してみたい俳優さんはイ・ビョンホンさんはもちろんですが、監督さんでしたらキム・ユジン監督やキム・キドク監督など、本当にたくさんいます。
俳優として生きる
Q:俳優として生きるというのはどういうことですか。
イ:いままでは、自分の仕事をしているという感覚で、挫折や苦しみもありましたがやりがいを感じ、以前はそれで終わっていました。でも、最近は自分の仕事がほかの人に大きな影響を与えているということに気づきました。わたしの作品を観て希望が湧いたとか、力を与えた、わたしという人物を通じていろいろなことに興味を持ってくれた、という話を聞くたびに1人の俳優がこれほどまでにほかの人に影響を与えるのだということ実感しています。
妻夫木:僕はもともと俳優になろうと思ってはいなかった人間で、たまたまうけたオーデションに受かってしまったというだけだったんです。8年やっていますが4年目に『ウォーターボーイズ』という作品をやって、1つの作品にこんなにも多くの人がかかわっているんだということを実感して、楽しさを感じました。僕がこの作品を一般客として観にいったときに「今日3回目です」とおっしゃるお客さんがいて涙が出てくるほどうれしかったんです。イ・ビョンホンさんがおっしゃったように、自分も感動できてお客さんも感動してくれるって、俳優って本当にすばらしい仕事だと思いました。いまはこの仕事をやれるだけで幸せで、ほかに何もいりません。生きがいを見つけたと思っています。
『春の雪』は全国東宝系にて10月29日より公開。