『SAYURI』チャン・ツィイー単独インタビュー
取材・文:小林陽子、写真:FLiXムービーサイト
アジアンビューティーからグローバルビューティーと旅立った中国のトップ女優チャン・ツィイー。『初恋のきた道』以来、快進撃を続け、ついに世界の大舞台ハリウッドへ主役で進出した。そのハリウッド主役デビュー作となるのは、日本の芸者を描いた華麗なる美の晩餐『SAYURI』である。なぜ中国人である彼女が日本人を演じたのか、多くの人が「なぜ?」と思ったに違いない。しかし、映画での彼女を見たとたん、そんな疑問が吹っ飛んだ。プレッシャーを抱えながらの撮影秘話と心境をわたしたちだけに語ってくれた。
厚底の特訓!
Q:『SAYURI』は素晴らしい作品でした。
オー(笑)サンキュー!
Q:演技力はもちろん! はかなげな思いを抱く女性として完璧に演技されていたと思います。
シェイシェイ(笑)。
Q:ところで、撮影中は厚底を履いていましたが、スネのあたりが筋肉痛になりませんでしたか?
実は、撮影中何度も転んじゃって(笑)。でも、厚底を履いてダンスするとは思っていなかったんです。ところが振付師の方が「いやいや、コレを履いて踊らなくてはダメですよ」っと言ってきたのでとにかく全力で取り組みました。また、踊りで芸者の世界を表現する場面があるんですが、内面から表現しなくては伝わらないので4、5週間、1日に何時間も特訓を積みました。難しかったのですが、こうして振り返ってみるといいものができたので練習したかいがあったと思います。やらせていただけたことに感謝しています。
アジアからハリウッドへ
Q:一流の監督、俳優、スタッフに囲まれてついにハリウッド主役デビューを果たした訳ですが、今の心境はいかがですか?
そうですね、今は撮影も終わって気楽な気持で取材を受けているんですけど、撮影中は結構大変でした。どういうことかというと、わたしは中国人なのに日本人を演じなければならないということ。芸者を演じなければならないということ。また、英語でセリフを喋らなければならないということ。しかも日本のお所作をお稽古しなければならないということでした。すべてがプレッシャーと感じていたかもしれません。また、『SAYURI』のキャスティングにはとても時間がかかったと聞きましたし、わたしが選ばれたことで皆さんを失望させてはいけないとも思っていました。ですが、このプレッシャーを受けたことによって、かえって役作りのエネルギーが湧いてきたと思います。
負けず嫌いが似ている
Q:チャン・ツィイーさんが演じられた主役のさゆりは、たたかれても、たたかれても這い上がる根性の持ち主でした。実際に演じてみて彼女のことをどう思いましたか? また、ご自分と似ている部分はありましたか?
そうですね、自分と似ている部分はあるかもしれません。さゆりはとても負けず嫌いで気が強い女性だと思います。どんなに苦しいことでも我慢できて、そして忍耐強いですよね。多分、彼女が育った環境から強い精神力が出来上がったのではないでしょうか。また、彼女の内面をもっとストレートに表現するために、どんな人物なのかを必死に考えました。
例えば、豆葉(お姉さん)の旦那さんがわたしを襲うシーンがあります。そこでさゆりは着物を脱がされてしまうのですが、女性としてはこんな恐ろしいことはありませんよね。大抵の女性はきっと泣きわめくと思います。ですが、子供のように泣きわめいたりする行為はさゆりには合わないと思いました。彼女だったら感情を抑えて耐えるのではないかと考え、そう演じるように務めたのです。おそらく、全身から震えが湧き上がって血も硬直するほど怖かったと思います……ですが、その怖さを彼女は内に秘めると思ったんです。実際はわたしも震えが止まらなくて、顔の筋肉さえも固まってしまい、体の中の流れも止まったかのようでした。つらくても怖くても敢えて涙を流さない、彼女は本当に強い女性ですよ。そのシーンを取り終えたあと、現場にいた女性スタッフが涙を流していました。彼女を演じる自分の演技が、周りに伝わったと思うとなんだかうれしかったですね。
美人は罪?
Q:さゆりは生まれながらの美人。チャン・ツィイーさんも生まれながらの美人だと思います。美人は男性から愛され、そして女性から羨ましがられることもあります。「美しい」ことは罪だと思いますか?
う~ん(悩む)。ははは。確かに美しいがゆえに大変なこともあると思いますが、美しさは……偉大な力を持っていると思います。「美しさ」はその人に自信を持たせるもの。どんどん美しくなるためには自信が必要で、自信があれば誰でも美しくなれると思っています。
「ナイス・トゥ・ミーチュー(Nice to meet you)」と気品あふれるあいさつにうっとり。"ピュアな少女"という印象を持っていたが、すっかり淑女へと変身していたチャン・ツィイー。黄色のトップスにフワッとしたスカートからほっそりとした脚がのぞき、斜めに足を流す姿が美しい。通訳をはさんでのトライアングル方式のインタビューに飽きることもなく、終始真剣な眼差しですばやく質問に答えてくれるなど、頭の良さも実感した。ときどき英語と北京語が混ざるなど、素顔を見せてくれることも……。本編では、芯の強い不思議な目を持つ女性「SAYURI」を演じているのでいままでとは違った彼女を感じることができるだろう。
『SAYURI』は12月10日より全国にて公開。