『男はソレを我慢できない』鈴木京香 単独インタビュー
取材・文:シネマトゥデイ 写真:田中紀子
下北沢を舞台に、地元の人気者で自称DJのタイガーを演じる竹中直人が、ハイテンションに暴れまわるスーパー・コミカルな作品『男はソレを我慢できない』。『男はつらいよ』シリーズをほうふつとさせるこの作品で、浮世離れしたヒロインを演じたのは、鈴木京香。『陽気なギャングが地球を回す』に続き、個性的な作品に挑戦している彼女だが、本作では初めて歌も披露。色っぽいスタンダードなジャズナンバーを歌い上げた彼女に、撮影中の楽しいエピソードを語ってもらった。
東京・下北沢が舞台
Q:作品への出演が決まった経緯を教えてください。
竹中さんがメールをくれて、「インディーズで小さな、かわいらしい作品を撮る監督がいるんだけど、出ませんか?」って誘ってくれたので出演を決めました。
Q:脚本を読まれた感想はいかがでしたか?
本当に小さなお話だったから、下北沢の“町が主役”の話かな? と思ったりして。いろいろな方がお出になるから楽しみでした。
Q:豪華キャストで、びっくりしたのですが、いろいろな世界のアーティストの方であったり、お笑いの世界の方であったり。現場はどういう感じでしたか?
なんだか、すごく面白かったです。下北沢にある神社の一角を借りて、撮影が始まるまで準備をしたり、待ったりしていたんですけど、夏休みの地区ごとにある子ども会みたいな感じでしたね。畳の部屋にみんなで集まって、思い思いに時間を過ごしているって感じで(笑)。
下北沢でオールロケ
Q:鈴木さんは、下北沢にはよく来られるんですか?
前に、『ざわざわ下北沢』という映画にも出させてもらったんですけど、普段はあまり来ないのに、なぜ縁があるのかなって、不思議な感じがしましたね。
Q:オールロケで、大変なことはなかったですか?
普段の撮影では、ロケ先までロケバスで移動したり、自分たちの車で移動したりするじゃないですか。でも、下北沢って本当に道が細くって、とってもかわいらしい町だから、なかなか車を止めるところがないんですね。一方通行とかも多かったりして。結局、信藤監督の事務所からロケをするところまでみんな徒歩で……(笑)。そのとき、結構「暑いなぁ」と思ったことぐらいでしたね。ほかに大変なことってなかったですよ。
Q:鈴木さん、竹中さん、小池さんなど、キャストの方々が普通に道を歩いていたら、やじ馬もすごかったのでは?
(笑)下北沢の人は「あ、ロケしているのね」っていう感じで温かく見守ってくれて。そんなに……なんて言うのかしら? 撮影を見に来る人がいると、中断せざるを得ない状態になったりするんですが、そういうことがなかったので、協力のしてくれ方とか、見守り方が優しかったので、ありがたかったです。
Q:実際に、下北沢の商店街の方とお話しする機会はありましたか?
ありました。撮影の合間に行ったラーメン屋とか、回転すしとか、カレー屋とか、雑貨屋とかその都度おしゃべりしました。
竹中のアドリブ
Q:竹中さんに以前インタビューをさせていただいたことがあって、そのときに竹中さんは、ほとんど脚本を読まないで撮影に入るとおっしゃっていたんです。今回もアドリブは多かったですか?
ええ、アドリブはすごく多かったです。
Q:それに対応するのは大変でしたか。
おかしいから、笑うのをこらえるのが大変でした(笑)。本当に、「台本いらないですよね」ってくらいの感じで。みんなそろって、大笑いできたから楽しかった。一度笑ったら止まらないのが目に見えているから、笑わないように必死でした。もしくは、万が一笑ったとしても「こっそり」笑っていましたね。
Q:先ほど、鈴木さんに竹中さんからメールが来たとおっしゃいましたが、映画の中での竹中さんと、普段の竹中さんとは違うんですか?
全然違いますね。竹中さんのタイガーっていう役は、テンションをすごく高くしなくてはやれない役でしょうし。でも、竹中さんは、普段は本当に楽しいんだけど、基本的にシャイな方。だから、そのシャイな竹中さんがちょっと照れながら、面白がってやっているっていうのが、ご一緒してみてそれが楽しいんです。本当に映画が好きなんだって感じが伝わってくるんで、竹中さんにこうやってお声をかけていただいたら「あー、やらなきゃ」とか「やりたいな」って思いますね。
特殊なヒロイン?
Q:さつきというキャラクターは、寅さんでいうところのヒロイン役だと思いますが、ちょっと特殊なヒロイン役を演じられていかがでしたか?
そうですね。ヒロインといってもいわゆる正統派な感じではないので、ただただ、楽しくしていればいいかな? という感じでとっても気楽でした。だから、のびのびできたような気がします。緊張したり、悩んだりということとは無縁の映画でした。
Q:“さつき”というキャラクターを竹中さんはどういう風に見ているのでしょうか?
いやいや、さつきも相当変ですからね(笑)。なんか一番自分だけがまともなフリをしていますけれども、実は、一番危ないような気がしますから(笑)。だから、後半は本気で「タイガーさんってすてきだわ」って思っていたと思うんです。本気で。
自由にのびのびと演じた
Q:信藤監督はミュージックビデオなどで、すごく活躍されている監督ですが、監督の現場というのはどういう感じでしたか?
本当に自由にやらせてくださるし、「こういうことしちゃ駄目」とか、「あー、そういうのはいらない」とは決しておっしゃらないんですね。「どうぞ、どんどん、やってみてください。」って感じで、すごく懐が大きい感じがしますね。きっと、監督の中では、自分がその後の編集の段階でいろんなものをこういう形で足していこうとか、ここはこういう技法を使って映像にしようとか、いろいろ考えていて、わたしたちが、いくらふざけても「ドンと来い!」っていう感じでしたね。
Q:出来上がった作品をご覧になって感想はいかがでしたか。
すごく驚きました。こんなふうになっているとは思わなかった。
下北沢の有名バー「レディージェーン」での撮影
Q:松田優作さんが常連だった「レディージェーン」という、下北沢では有名なお店が使われていましたが、あそこでの撮影について聞かせてください。
わたしは、お芝居を観に行った後に何度か行ったことがあります。下北沢にあるほかのお店は行ったことがなかったんですが、優作さんがいらしてたということのほかにも、ご主人が演劇のこととか、映画のことに造詣が深くて、俳優たちの理解者ってイメージがあるんですよね。そういう方がオーナーだから、撮影にもこうやって貸してくださったのだと思い、ありがたかったです。撮影中はオーナーがいらっしゃらなかったので、ごあいさつができなかったんですが。
皆さん、申し訳ありませんでした
Q:映画の中で鈴木さんは、歌を披露されていましたが、いかがでしたか?
歌は難しいです。 今までも歌については、「出しませんか?」と言われても丁重に断っていましたし、これからもお断りすると思いますが、まさか、映画の中でソレを披露することになろうとは。まさかソレがイヤだからと言って、この映画を断ることもできないので、皆さんには申し訳なかったんですが……。 本当に申し訳ありませんでした(笑)。
Q:すごく、すてきでした。
あれに関してはもう謝るしかない(笑)! もう少しうまく歌えると思ったんですが……。下手だけど、練習すれば、少しはうまく歌えると思ったんですけどね……。
Q:実際、歌われて気持ちよかったですか。ステージの上で、きれいな衣装を着て歌って。
いいえ、気持ちよくはないですよ(笑)。緊張しただけです。
作品選びについて
Q:最近たて続けに『陽気なギャングが地球を回す』から『男はソレを我慢できない』と鈴木さんはいろいろな役に挑戦されましたが、これからどんな作品に挑戦していかれたいですか?
どうしてもやりたい役でも、やれないタイミングのときがあるから、体さえ空いていれば何でもやりたいと思います。目の前に来て、自分がやれるスケジュールが作れるときは、それはやるべきことかなと。そんなに選ばないで、これからも楽しんで、タイミング最優先でやりたいと思います。
世の中にこれほど完璧に美しくて、魅力的な女性がいるのだろうか。鈴木京香の表情は、笑っていても、考えていても、真剣な表情のときも、どれも「凛とした」女性らしさがある。「歌は本当に苦手なんです」と話す彼女だが、「映画のなかで歌わなくてはいけないシーンがあるならやるのみです」ときっぱり言った表情からは、女優の仕事に対しての真剣さを感じさせられた。多くの俳優や、監督から引く手あまたの鈴木京香が、これからどんな顔を見せてくれるのか。わたしたちの期待はまだまだふくらむばかりだ。
『男はソレを我慢できない』は7月29日より渋谷シネ・アミューズほかにて公開。