『おいしい殺し方 -A Delicious Way to Kill-』ケラリーノ・サンドロヴィッチ&奥菜恵
突然キレるキャラクターで、自分がイってしまうのが楽しい
取材・文・写真:シネマトゥデイ
演劇界でカリスマ的な人気を誇っている演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と、舞台女優としても着々とキャリアを積み上げている奥菜恵。その2人がタッグを組み、大反響だったインターネットオリジナルの長編ドラマ「おいしい殺し方」。お料理教室を舞台にした本作が、多くのリクエストを受けて、ついに劇場公開される。料理が天才的に下手な主演の消崎ユカを演じた奥菜と、監督のケラリーノ・サンドロヴィッチに話を聞いた。
ビジョンが明確な演出家
Q:奥菜さんとKERAさんの出会いは、いつだったのでしょうか?
KERA:2人が、どうやって結婚に至ったかと言うことですか(笑)?……あれは確か「ドント・トラスト・オーバー30」のお芝居をしたときですね。
奥菜:そのときでしたっけ?
KERA:一緒に仕事をしてもいいか、奥菜さんの事務所で審査を受けました(笑)。その前に僕は奥菜さんの「キレイ」を観ていて、すごくよかったですね、ほんとに。
Q:多くの演出家とお仕事をしている奥菜さん、KERAさんはどういう演出家でしょうか?
奥菜:気持ちというか、感情の流れをすごく丁寧に説明してくれるので、分かりやすかったと思います。あと多分、KERAさんの中でイメージができているんですよね。ここはこうやったほうが面白いっていう……、そういうビジョンがすごく明確にある演出をされると思います。
KERA:融通がきかない演出ってことだ。
奥菜:いやいや、じゃなくって(笑)。もっとここをこういう風にやったほうがいいっていうのを的確に教えてくださるので、そういう意味では、すごくありがたいですよね。
一言の演出で、メーターが振り切れる
Q:今回、奥菜さんを主演に決められたのはどうしてですか?
KERA:いや、なんかスケジュールが空いているし(笑)。というのはうそで、映像でやってみたかったんですよね。奥菜さんは、舞台のときにも感じたことなんですけど、ちょっとした一言の演出で、メーター振り切るとこまでやってくれるというのがすごく気持ちよくて。僕の中の奥菜さんは、世間一般でいう彼女のイメージとは違うのかもしれないっすね。もっとクールなイメージがあるでしょ、きっと。でも、僕の中では、全然クールじゃないんですよ、ふふ(笑)。もし僕が彼女でシリアスなものを撮るとしても、クールなポジションでは、それは見尽くした感じがあるから。ん~、なんだろな、エモーショナルなキャラクターの方が僕は見たいですね。
Q:奥菜さんのキレた感じが楽しかったんですが、エモーショナルな役柄の方が演じていて楽しいっていうのはありますか?
奥菜:はい。KERAさんに会って、自分の未知の部分をすごく引き出してもらっている感覚はあります。実際、すごく楽しいです。
Q:かわいくない役柄に、女優として抵抗はないんですか?
奥菜:全然ないですね、はい。その方が、逆にとても楽しいです。
Q:お料理がすごく下手だという役柄でしたが、奥菜さんご自身、料理は?
奥菜:料理は普通にしますし、下手ではないと思いますが……センスはあると思います!
KERA:それって「わたしきれいでしょ」って言っているのとあんまり変わらないよね(笑)。
テレビにも、映画にもない作品
Q:KERAさんは、なぜ今回料理教室というめずらしい舞台を選んだのでしょう?
KERA:最初に世代も境遇も違う3人の女性を、どこで結びつけるかっていうことを考えてみて、まぁ、会社の上司と部下っていうのもつまらないし、学校だとか、学校の中だけの話とかいろいろ考えたんですけど、殺人劇が起きる場所が料理学校というのは面白いかなと思ったんです。料理が下手でっていうのは悲しいじゃないですか。料理が原因でいつも男にフラれている女と、自分は一生懸命作っているのに、旦那にいつも自分の作った弁当を、こそこそ隠れて捨てられている女が料理教室で出会うっていうのは、悲しくておかしいと思ったんです。
Q:舞台と違って面白かったことはありました?
奥菜:あんまり違いは感じなかったんです。ひとつのシーンをそのまま始めから最後までワンカットで撮影することが多く、細かくカットして……っていう感じではなかったですね。
Q:舞台をそのまま映像にした感じだったのですか?
KERA:時間がなかったということもあるんですけど、今回に関しては、ワンカットでいけるならそれに越したことないかと思いました。芝居のテンションが、グーっと上がっていったのに、そこでカットかけて、またその上がっているところから始めてくれって言われてもなかなかできないでしょ。
Q:舞台を見たことのない人たちに楽しんでもらいたい部分はありますか?
奥菜:そうですね、やっぱりKERAさんの舞台でもそうですけど、舞台を観に来る方ってすごく限られた人たちじゃないですか。それをこういう風に、映像でいろいろな人に観ていただくというのは、うれしいですね。本当にいろいろな人に観ていただきたい作品ですね。テレビでも、映画でも、観たことのないような作品に仕上がっていると思います。
普段のテンション越えちゃってる
Q:KERAさんの舞台の中ではよく消崎ユカというキャラクターが出てきますが、何かこだわりがあるんですか?
KERA:こだわりなんてほどのものではないですけど、消崎ってなんか面白いでしょ、名字が。ネガティブなのか、ポジティブなのか分かんない名前で(笑)。消すっていう文字が名字に入っているってすごいでしょ。ちょっと言いにくそうだったけど(笑)。
Q:奥菜さんが、本作で一番楽しかったシーンはどこでしたか?
奥菜:キレるシーンが結構あったんです。テンションが異常に「ウワーッ!」みたいな(笑)。喜ぶにしても怒るにしても、自分の普段のテンションを越えちゃってる、すごいハイテンションのところに自分がイってしまう。それがすごく気持ちよかったです(笑)。ほんとうに楽しくってユカっていうキャラクターは大好きです!
Q:お仲間の2人はいかがでしたか?
奥菜:3人それぞれの個性というか、3人が集まるとなんかひとつに……なっているのか、どうなのかは、分からないですけど(笑)。それがすごく面白かったです(笑)。
今度は“くっだらない”ホラーを!
Q:今度、奥菜さんと、作品を作るとしたらどういう作品を作りたいですか?
KERA:今回みたいなハイテンションなキャラを演じてもらうのも、もちろんやりたいんですけど、彼女のパブリックイメージを逆手にとって、一人二役をやっていただくのも楽しいと思うんですよ。たとえば双子の姉妹で性格が正反対だとか、分裂症とか、相反するキャラクターを交互に出せるようなのって面白そう。あと、彼女はホラーも出ているし、ホラー顔なので、“くっだらない”ホラーやりたいですね。「そんなところで怖い顔して驚くなよ」っていうような。全然、何でもないシーンで後ろで首が飛んでいたり、血がいらないほど噴き出していたり……そんなの(笑)。
奥菜:KERAさんのそういう観点っていうか、センスが面白くって大好きです(笑)。
本作で奥菜の隠れた魅力を引き出した天才演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ。彼の発言に、大笑いしながら話す奥菜恵。舞台同様、最高のせりふ回しと、空気感を映像で作り出した2人は、「芝居」の楽しさを映像という新しい世界で、新鮮に楽しませてくれる。それは、彼ら自身が「芝居」の魅力を誰よりも一番理解しているからではないだろうか。「演劇界」と「映画界」を突っ走る2人の才能から、まだまだ目が離せない。
『おいしい殺し方-A Delicious Way to Kill-』は8月26日よりシネマGAGA! にて公開。