『ベルナのしっぽ』白石美帆 単独インタビュー
子どもを産みたいと思ったら産んでもいい?と聞きます
取材・文:平野敦子 写真:シネマトゥデイ
『スウィングガールズ』への出演や、長寿テレビ番組「スーパーサッカー」で顔を広く知られるようになった白石美帆。そんな彼女が、ある家族とアイメイト(盲導犬)の心の交流を描いた『ベルナのしっぽ』で映画初主演を果たす。原作は70万部を超えるベストセラーとなった、郡司ななえの同名の著書。その難役に挑戦した彼女に映画初主演の感想や、アイメイトとの共演について語ってもらった。
アイメイトとの共演は最高!
Q:映画初主演ということでプレッシャーはなかったのでしょうか。
主演ということのプレッシャーはありませんでした。原作を読ませていただいたときに著者である郡司さんの実際の物語が反映されているので、初主演というよりも自分がその世界を壊したくないと強く思いました。
Q:とてもチャレンジングな役だったと思いますが、苦労したことはありますか?
そうですね……、苦労した点というよりも、まずは何が苦労か分からないところから始まったんですよ。わたしは健常者として生きてきたので実際に目も見えているわけですし。24歳で視力を失った女性がどこまで強く生きていられるんだろうと考えたり、あとは目が見えていなくても逆に見えているものってたくさんあるんだなと感じながら演技をしました。わたしが本当に衝撃を受けたのは、目が不自由でも普通に揚げ物もするし、料理も何でも普通に作るんだという事実なんです。やはり自分もすごく偏見を持っていたんだな、と思いました。
Q:白石さんも犬を飼われているということですが、アイメイトとの共演で苦労はなかったのでしょうか。
全然ありませんでした! かわいくてしょうがなかったですね(笑)。撮影の合間は一緒に連れて移動もしましたし、お散歩にも行きました。毎朝、毎晩のご飯はわたしがあげていたので、わたしを見ると本当にすごい勢いで走って来るんですよ。それを見るとわたし自身すごく癒されて「今日もがんばろう!」と思っちゃうんです。
愛犬ショコラが嫉妬(しっと)!?
Q:ベルナ役のポーシャちゃんとの相性はバッチリでしたか?
向こうはどう思っているかは分からないですが、わたしはバッチリだと思っています(笑)。
Q:お別れは寂しくなかったのでしょうか?
すごく寂しかったですね。撮影中は家に帰っても飼い犬のショコラに愛情を注げなかったりしましたから。ショコラはわたしにポーシャの匂いが付いているので「どこに行って来たの?」というような顔をして、すねていました(笑)。
Q:主人公のしずくは普通の生活を望んでいました。それはとても難しいことだと思うのですが、白石さんはどう思いますか?
人を匂いで識別したり、言葉のうそを感じとったりとか、本当に心のこもった言葉を聞き分けたりとか、今まで見えていなかったものや、感じられなかったものをすごく意識させられました。街を歩いていて、風が吹いたときに肌に触れる感触とか、木の匂いとか、太陽の光も熱で感じられて、すごくいい経験をさせてもらいました。しずくを演じているんですけれど、彼女と一緒に人生を歩んでいるような、凝縮された撮影期間でした。
Q:ひとりの女性の12年間を演じるというのは大変でしたか?
わたしは出産をしたことがないし、ましてや結婚もしたことがないので(笑)。家族作りって結婚がゴールではなくて、子どもが生まれて、成長していくにつれて自分も成長して家族が出来上がっていくものだと思うんですね。そこにベルナが加わって……。一般家庭とは少し違った幸せを表現できたらいいなと思ったし、逆に普通の家庭と変わらないんだよというところもメッセージとして伝えたかったです。
しずくを演じて自分も成長
Q:主人公のしずくはとても芯の強い女性ですが、ご自分と重なる部分や、ここは違うなと思う部分があれば教えてください。
しずくが社会に対して強く生きる姿というのは見習いたいけれど、なかなかできないですよね。自分が悪くなくても人とぶつかったりするとつい「すみません」と言ってしまったり(笑)。しずくは常に堂々としていて、凛とした強さを持っていて、すごくすてきだなと思いました。彼女にはわたしのあこがれの女性という一面もあります。
Q:お気に入りのシーンはありますか?
父親と息子が「心の目で見るんだよ」と話しているシーンと、小学校の入学式で息子が「お母さんは目が見えません。でも心の目で僕を育ててくれました」と作文を読むシーンですね。あのセリフがすごく好きで、ぐっときてしまいました! わたしは子どもを産んだことはないけれど、こんなこと言われたらもうメロメロっていうか(笑)。家族でももちろん観ていただきたいのですが、女性が共感できる部分がすごく多いし、わたしもとても励まされたので、ぜひたくさんの方に観ていただけたらと思います。
Q:この映画を通してご自分も成長されたということでしょうか。
すごくたくましくなったし、物事に対する認識というのも変わっていったと思います。やはり自分は偏見を持っていないつもりでも、どこかで持っていたと思います。それはセリフを言っていて痛感させられました。冷たい目で見ているつもりはなくても、自分に何ができるんだろうと思うとつい遠慮してしまって……。実際そのときにできるかはどうかは別として、困っている人を助ける心の準備はできたと思います。
しずくはあこがれの女性
Q:昭和の時代は“バリアフリー”という言葉自体も世間に浸透していなくて、今よりずっと困難な時代だったと思うのですが。
人のペースってそれぞれなので、たとえば自分が車を運転していて、横断歩道を若い女性がゆっくりと歩いていたとしますよね。そうすると「あぁ、きっと彼女は何かすごくつらいことがあるんだろうな」と想像できるような心の余裕がちょっとだけできましたね(笑)。機嫌の悪い人がいても「何かイヤなことがあったんだろうから今日はそっとしておこう」とか。最近はそこまで考えてしまうんです(笑)。
Q:もし自分がしずくと同じように目が見えなくなったとしたら、やはり同じように子どもを産んで育てて……という道を歩むと思いますか?
たとえば子どもを産みたいと思ったら、自分なら誰かにまず「産んでもいい?」って確認すると思います。そこがわたしとしずくとの違いかな。でも、ああやって学校に掛け合ったりする情熱にはすごく強いものがあるし。やはり結果的に人を動かしていくのは結局は一人の“熱”だったりするから……。そういう強さというのは見習いたいと思います。
Q:最後にこの映画の魅力について一言お願いします。
魅力はたくさんあるのですが、一言で言うなら“熱”だと思います。情熱というか、熱が人を動かしているというか。この映画の“熱”が広がればいいと思うし、活動的に行動していらっしゃる著者の郡司さんに負けないようにわたしもがんばりたいですね!
映画初主演とは思えない堂々とした演技で、目の不自由なヒロイン熱演した白石美帆。何事にも一生懸命でチャレンジ精神の旺盛な彼女の心根の優しさ、そして素直さがその受け応えに表れていた。本作への出演をきっかけに女優として、そして人間として大きく成長した彼女の、天使のようにチャーミングなほほ笑みに心癒される。テレビ、映画、そしてCMとマルチな才能を発揮する彼女の今後の動向から目が離せない。
ヘアメイク:NICO
スタイリング:中村静香
衣裳クレジット:SUJET / イトキン(イトキンカスタマーサービス 03-3478-8088)
『ベルナのしっぽ』は9月30日より渋谷シネ・アミューズほかにて公開。