『愛の流刑地』豊川悦司&寺島しのぶ 単独インタビュー
服を着ている時の方が恥ずかしかった
取材・文:シネマトゥデイ 写真:秋山泰彦
2004年から約2年に渡って日本経済新聞に掲載され、大反響を呼んだベストセラー「愛の流刑地」。究極の愛を描いた本作を豊川悦司、そして寺島しのぶという最高のキャスティングで映画化した『愛の流刑地』が1月13日より公開される。二人の強烈なベッドシーンが早くも話題だが、お互いの信頼関係のもとに作り上げられていったというラブシーンの撮影時のことなど “愛ルケ”と呼ばれる話題の本作の主演、豊川悦司と寺島しのぶに話を聞いた。
難役への挑戦
Q:大変難しい役柄でしたが、出演の決め手になった一番の理由を聞かせてください。
豊川:ご一緒させていただくのが素晴らしい監督、そして寺島しのぶさんだったからですね。鶴橋監督とは初めて会ったんですけど、以前からすごく興味があって一緒にやりたいと思っていました。それが一番の理由ですね。
寺島:わたしは、鶴橋監督が書かれた脚本を読ませていただいて、読み終わったらすぐやらせていただきたいと思いました。そして、相手が豊川さんと聞いていたので「これだったらもう何の心配もいらない」と思って引き受けました。
Q:『やわらかい生活』での“いとこ同士”の関係から、今回まったく違った関係になりましたが、役柄にはすぐに入れましたか?
豊川:『やわらかい生活』でも寺島さんと一緒でしたが、今回は設定もキャラクターも全然違うので、役に対してはゼロからスッと入っていけましたね。
寺島:あのとき、豊川さんストパーでしたね(笑)。
豊川:ストパーって?……あぁ、ストレートパーマ(笑)。そうそう、そうでした。
4回目の共演
Q:お互いの信頼がないとできない役だったと思いますが、信頼関係は撮影前からできていましたか?
豊川:そうですね。寺島さんとの共演は4回目になるんですけど、今回は絡みのシーンがすごく多いし、ハードルが高いシーンがたくさんあったから、お互いぶっちゃけていかないと作品の仕上がりに、ものすごく関係しちゃうんじゃないかと思いました。彼女だったからできたというところはいっぱいあります。
寺島:同感ですね(笑)。豊川さんとの共演は本当に心地いいです(笑)。
Q:映画を観ていると本当に恋人同士では? と錯覚してしまうこともありましたが、濃厚なラブシーンを何度も重ねるうちに、「好き」になってしまうことはありませんでしたか?
豊川:それはありますね、でも、今付き合ってないですよ(笑)。
寺島:本当に恋人同士だったら嫌だったねって、言ってたんですよね。
豊川:そうだね。夫婦で共演する人もいるけど、僕はそういう経験がないから分からない。僕自身を、菊治って役にある程度持ち込んでいかないと「ちょっとしんどいな」っていうシーンもあったので、今回はただ、役になりきるだけではなく、自分を菊治にかぶせてしまうことがありました。ラブシーンの中では、菊治と冬香なんだけど、結構“豊川”っていう人間が出ているところがあると思います。
寺島:わたしもそうですよ。ひとつでも嫌なところがあったらできなかったと思います。あとは豊川さんが全部、体でカバーしてくださって、周りに体があまり見えないように背中からシーツをかぶせてくださり、いろいろなケアをしてくださったので、すごいなって思いました。でも、本当に好き合っているように見えるってことは、褒め言葉だと思いますね。
“冬香”の生き方
Q:冬香という女性の生き方について、どう思われますか?
豊川:難しいなぁ……。冬香という女性に100%感情移入できるかどうかっていったら……すごく謎が多い女性だから難しい。ただ、寺島さんが演じた冬香というキャラクターを、自分が実際現場で体験して、「ああ、女の人ってすごいな」と、改めて尊敬し直しました。
寺島:わたしは結構幸せだったと思います。女性としてのやることを全部やっちゃったんじゃないかなと思うし、結婚生活だって決して悪いものではなかったですしね。原作では前の旦那さんがすごく暴力的だったらしいですけど、映画ではそういうこともないし。ただ、菊治とのセックスは今まで味わったことがないもので、"女"としてまた目覚めてしまった……っていう。結局、最後を考えると「んー」って思っちゃいますけど……。でも、女性の人生をまっとうしたし、女性としての幅の広さというか、やりたいことやり尽くしたってくらい疾走したと思います。全力投球で! だからわたしは冬香を演じて、何の疑問も感じなかったですね。菊治との出会いが進むにつれて、冬香がだんだんとつやつやになってきた気がしました。
豊川:つやつやになってきたんですか(笑)。でも撮影は順撮りじゃなかったんですよ。どんどん、さかのぼっていった感じかな。撮影も出会いのシーンまで服を着ていなかった時間の方が多かったから、服を着ている時間の方が恥ずかしかったかも(笑)。ちょっと語弊があるかな。服を着て見つめ合うシーンの方がすごくドキドキしましたね。
男と女の関係は無限!
Q:ウキウキしながらメールを打っているシーンなど、菊治が恋をしている様子がとてもかわいらしかったですね。あれは、ご自身とダブる部分がありますか?
豊川:あれは、おれじゃないですよ! 菊治です(笑)。何を言わせる気ですか(笑)。台本に書いてあったんで……。でも楽しいじゃないですか、恋愛が始まったばかりのときって。そういう経験は僕にもあるし、そういうころはウキウキしますよね。だから菊治をかわいらしい男に見えるように演じました。というのも、はたから見ていて「あぁ、いいな」って思えないと、後半に向かって救いようがなくなっていくので、せめて最初のほうだけはもっともっと菊治を励ましてあげたいなと思ったんです。
Q:ベッドシーンが話題を呼んでいる本作ですが、官能シーン以外でどんな部分を楽しんで欲しいと思いますか?
豊川:確かにね。物語には殺人や不倫という「モラル的にどうなんだ」みたいなものがあるんだけど、この映画を観て、単純に恋をしていない人は「恋をしたいな」って思ってくれればいいし、今誰かに恋をしている人は「すぐ会いたいな」でもいいし、一緒に住んでる夫婦だったら「今日は旦那さんの頭をシャンプーしてあげようかな」とか(笑)。そういう、幸せな気分になってもらえればいいなと思いますね。
寺島:いきなり「死ねますか」って言われたら引きますけどね(笑)。
豊川:引きますね(笑)。本当に堅苦しくなく恋愛映画として観て欲しいし、人を愛する気持ちを味わってもらいたいです。
寺島:これを多くの人に観てもらって、男性の価値観や女性の価値観について語り合ってもらいたいですね。年齢や恋愛の経験値はみんな違うわけだから、男と女の関係は無限なんじゃないですかね。だからこの映画を観て恋について語り合ってもらいたいです。
映画の中で、息が詰まるほどの官能的な愛を演じていた豊川と寺島は、こちらが圧倒されてしまうほど明るく、サバサバと質問に答えてくれた。「本当に好き合ってるのかと思った……」というインタビュアーの言葉に「ほんと~!? うれしいね!」と二人で笑い合う姿からは、まるで戦いを終えた“戦友”のような固い絆(きずな)を感じた。撮影中は、裸でいる時間の方が多かったという寺島しのぶ。まさに体当たりの演技を見せた彼女の男らしいほどの女優魂と、豊川悦司の芯(しん)の通った役者魂が見事にぶつかり合った“愛のかたち”を、ぜひその目で確かめてもらいたい。
『愛の流刑地』は1月13日より日劇PLEXほかにて公開。