『あなたになら言える秘密のこと』サラ・ポーリー 単独インタビュー
心の傷をきちんと表現することに
責任を感じて恐ろしかった
取材・文・写真:シネマトゥデイ
自分の命が残りわずかだと知った女性が、最期に人生の素晴らしさを知る……世界中に温かい感動を与えた『死ぬまでにしたい10のこと』のイサベル・コイシェ監督と、主演のサラ・ポーリーが、また一つ大切な作品を世に送り出した。誰にも言えない秘密を抱えた孤独な女性が、ある出会いによってあらたに人生の喜びを見出していく物語『あなたになら言える秘密のこと』。本作で、女優としての新たな新境地を切り開いた彼女に話を聞いた。
ハンナの心の傷は、想像できる範囲を超えていた
Q:どのように本作のプロジェクトが始まったか教えてください。
イサベル(監督)と、『死ぬまでにしたい10のこと』のプロモーションをしている最中に、この映画のスクリプトのことを彼女から聞きました。その1か月後に、わたしもスクリプトを読んだのですが、ハンナの秘密に衝撃を受け、とても気に入ったので出演を決めました。
Q:この役は、女優としても演じる上でタフにならなければいけない役柄だと思います。どうして挑戦しようと思ったのでしょうか?
本当は、わたしも自分がこの役柄を演じていいのか、自信が持てなかったです。それでも監督に、「あなたがやるべきよ!」と強く勧められて……。そう言われても自信が持てなかったんですが、イサベルが映画に描きたいテーマの重要性を理解することで、彼女の熱意に共感してハンナ役に挑戦しようと思いました。
Q:実際に、演じた中で一番苦労した点はどこでしたか?
わたしの場合、演じるときは、どこか役柄に共感できるようなことを考えるんです。心を閉ざしたハンナのつらさ、痛み、彼女の孤独感を想像したときに、自分の人生でそれに近い経験がひとつもなかったんです。彼女の心の傷は、自分で想像できる範囲を超えていたから、その心の傷をきちんと表現するという責任を重く感じ、恐ろしくもありましたね。
ジョゼフ役は、ティム・ロビンス以外は考えられない
Q:ティム・ロビンスとの共演はいかがでしたか?
素晴らしかったわ。彼は、わたしが今まで共演した中で、一番の役者でした。映画を観ても、ハンナの心のカギを解くジョゼフ役は、ティム以外の俳優なんて、ほかに思いつくことができないですから。
Q:撮影期間はどのくらいだったんでしょう?
6週間です。その間、一定の緊張感を保つことはとても大変でした。
Q:ハンナにとって、「あなたになら秘密を言おう」と思うまでの過程で一番大切だったことは何だと思いますか?
ジョゼフとの間に、ハンナが秘密を打ち明けるほどの信頼を築くことが一番難しかったと思います。ですから、ジョゼフとの会話や、仲間たちとの関係の中で築き上げた"信頼"の過程を観てもらいたいです。
ハンナのような秘密を抱えた女性たちの現実
Q:どのように役作りをしましたか?
ヨーロッパ特有のアクセントも研究しましたが、その歴史的背景をたくさん勉強しました。映画を観たり、東欧からカナダに来ている女友だちと話したりして、役柄の参考にしました。それから、たくさんの心理学者や、ハンナのような心の傷を抱えた人を専門に扱うカウンセラーと、たくさん話をしました。
Q:ハンナのような秘密を抱えた女性をリサーチする上で、改めて見えた現実はありましたか?
ハンナのような心の傷を抱えた女性たちが、どのようにその過去と向き合いながら、つらさや悲しみ、自分自身の感情をコントロールしているかをリサーチしました。感情をコントロールできるようになるまでは、とても長い時間がかかると知ったときは、つらかったです。
Q:映画の中でハンナが、食事をおいしそうに食べるシーンではなんだか切なくなりました。
実は、映画の中に出てくる食事は本当においしいんです(笑)。一度とても具合が悪くて、何も食べられなかったときがあったんだけど、あの食事のシーンではバクバク食べられました(笑)。だから、おいしそうに食べているハンナの姿は演技じゃないんです(笑)。
ささやかな幸福感、人が生きる上での力強さ、小さな喜びを感じられる作品
Q:あなたがこれまでに演じたキャラクターは、静かさの中に強さを秘めた女性が多かったですね。役選び、作品の選び方はどのようにしているのでしょうか?
わたしはいつも役というよりも作品を選ぶときに大切にしているのは、作品を観終わった後に、ささやかな幸福感と、人が生きる上での力強さ、小さな喜びを感じるような作品を選ぶようにしています。
Q:ハリウッド映画から距離を置いているのは、どうしてですか?
特に意識はしていないんですが、カナダはわたしの生まれたふるさとでもありますし、住んでいる人々、家族、友だちすべて、わたしにとってとても大切な存在なんです。それと……、ハリウッドで作られているプロジェクトのほかにも、視野を広く持てばもっと面白いプロジェクトがたくさんあるんです。ですから、インディペンデント映画やヨーロッパ映画が、わたしにとっては興味深く、魅力的に思えるんです。
Q:それは、子役時代にハリウッド映画に出たことに関係しているんですか?
子役時代にとても感じたことなんですが、ハリウッドは、まるで工場のようで、住んでいる人はほとんど業界の人たち。同じような話題、同じようなパーティーライフ。そんな大人たちの様子を見ていたら、なんだかとても不健康な気がしたんです(笑)。
世界情勢に興味を持ち続けることは、とても大切なこと
Q:あなたは政治的な活動でも広く知られてますが、それだけの行動力はどこから生まれてくるんですか?
世界情勢に興味を持つことはとても大切なことだと思います。だから、政治活動もずっと続けていきたいと思います。デモに参加して、警察と衝突して、歯を折られたこともあったけど、わたしは自分が勇敢だとは思いません。世界中でとてもひどいことが起こっていて、そのひどい状態をなんとか止めるために世界の一部として活動しているだけなんです。
Q:今、現在の世界を見てどう思いますか?
とても悲しく、恐ろしいことがたくさん起こっている時代だと思います。これから10年後、20年後、世界がどうなってしまうかを考えただけでも本当に恐ろしく思うときがあるんです。どうすれば、変化を与えられるか、何から始めればいいかまったく分からなくて、自分でもとても焦燥感を覚えることがあります。
Q:この映画には、そんなあなたからのメッセージも含まれているのでしょうか?
そうですね。彼女の秘密を聞いたときはとてもショックだと思うけど、世界にはわたしたちが知らないことがたくさんあるんです。この映画を観たことで、少しでも何かを感じて、ハンナの持っていた“秘密”、そしてそれを生み出した“人間の行い”について話す機会を持ってもらえればとてもうれしいです。
サラ・ポーリーほど、飾らない女優はいないのではないだろうか? マネージャーやお付きの人が連れず、取材部屋にやってきたサラは、黒いリュックサックを背負って登場。映画の中で、緊迫感のある演技を見せていた姿からは想像できないほど自然体な彼女は、「今日は渋谷にショッピングに行くんだけど、おすすめの場所はないかな? あなたたちが着ているような服が欲しいの」と女性スタッフに話し掛ける気さくさを見せた。それでも、自身が力を入れているという政治活動の話になると、とたんに真剣なまなざしになる。映画の中でハンナが見せる落ち着きと知性を、サラ自身の中にも深く感じたインタビューだった。
『あなたになら言える秘密のこと』は、2月10日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて公開。