『さくらん』土屋アンナ&蜷川実花監督 単独インタビュー
女性は弱さを認めることで、そこから強くなれる
取材・文:シネマトゥデイ 写真:鈴木徹
写真家として世界的にも有名な蜷川実花が、初めてメガホンをとった『さくらん』。原作は、人気漫画家・安野モヨコ。江戸時代の吉原遊郭で、強く生き抜く主人公の“きよ葉”を演じるのは、シンガー、モデル、女優として活躍し、女性から圧倒的な支持を集めている土屋アンナ。赤をベースにしたポップな映像美と、椎名林檎が担当したロック基調の音楽。あらゆる才能が融合して出来上がった『さくらん』は、今までにない“花魁(おいらん)”ムービー。本作を通じて、きずなが深まったという主演の土屋アンナと監督の蜷川実花に話を聞いた。
女の子の恋愛をリアルに描いた作品
Q:『さくらん』は、蜷川監督にとって、初の監督作となりましたが、どんなことに重点をおかれて監督をしましたか?
監督:監督のお話を頂いた時点で、期待されているのは、キレイで、自分がいつも撮っている「絵」が動くってことだと思いました。それから女の子の持つ恋愛感をリアルに描くことと思って撮りました。
Q:特に苦労された点はありましたか?
監督:写真の場合はキレイだなと思えば、自分でシャッターを押すだけですけど、映画のように、たくさんの人数が関わってくるときに、何がかっこいいのか、どういうことがやっていきたいのかという意思の統一をしていくのが一番難しかったですね。
Q:土屋さんは、監督ととても仲良しとうかがいましたが。
土屋:超仲良しよ! ケンカするほど仲良し(笑)!
監督:わたしは、もういい大人なのでケンカはめったにしないんですけど、アンナは何も隠さないでそのままぶつかって来るから(笑)。アンナとはもとからいい関係だと思うけど、やっぱり映画をやって一番変わったのは二人の関係がさらに深くなったことですね。
初めてのラブシーン
Q:それだけ信頼関係が成り立っていたら、初めてのラブシーンもスムーズに撮れたのですか?
土屋:この映画に出て、ラブシーンを撮った女優さんは、みんな「実花ちゃんが撮るなら」言ってたもんね。
監督:みんなそういう風に言ってくれてうれしかったな。
土屋:いやらしくはならなよねって、信頼していました。ただ、相手役の男の人には「わたしなんかですいません」みたいな感じはあったね(笑)。
監督:でも、あれはカツラ重い中で撮るから大変だったんですよ。
土屋:っていうか、それで超キゲン悪くなるのはあったね(笑)。
監督:わたしたちは想像できないけど……。2か月まるまるカツラをかぶっているから、女優さんは本当にしんどかったんだと思う。
Q:土屋さんをはじめ、女優さんがとてもきれいに撮れていましたね。
監督:キレイに撮ることに関して言うと、洋服を着ているのと違って、着物だとそんなに動けないんですよね。だから首のかしげ方一つにも、結構、指示していましたね。
土屋:わたし、首をすぐ揺らしちゃうんだよね。でもわたしに動くなって言ってるのと一緒で、無理なのよー。暴れるのは得意なんだけど(笑)。映画ではゆっくりな動きばっかりだから!
監督:わりと崩して描いているところがある時代劇なんですが、所作(しょさ)がちゃんとしていないと、リアリティーがなくなるんですよね。まず基本の所作(しょさ)があって、それを崩すっていう風にしたかったから、所作(しょさ)は皆さんにきっちりやってもらいました。
子ども……産むんじゃー!
Q:恋をしている“きよ葉”の姿もとてもかわいかったです!
土屋:映画じゃかわいいでしょ! 成宮くんとのラブシーンとかね。実際は成宮くんにホレているわけじゃないけど、ホレているように見えたでしょ? でも、ラブシーンをやるのが恥ずかしくて! 超照れてた!
監督:ちょっとかわいかったの。「もーやだぁ。わたしキモチ悪くない?」ってアンナはずっと言ってた。だから、はにかんでたのは、“かわいこぶってる、わたし”に対して、アンナは、はにかんでたんだよね。
土屋:そうそう。それが、超恋をしてる感じに撮れていたの!
Q:きよ葉が、子どもを身ごもって「産む!」と決断するシーンがありました。土屋さんも、絶頂期に子どもを産んで……やはり感情移入する部分はありましたか?
土屋:いろんな事情を持つ人がいると思うけど、赤ちゃんができるって、みんなうれしいんじゃないかな! もし、わたしが産んだことなかったとしても、同じ言い方をしてると思う。いつも考えるのは、自分がお腹の中にいたらどう思う? 別にお金がなかろうが、なんだろうが、「殺して欲しい」とは思わないじゃない? だから、自分に赤ちゃんができたときも、当たり前に産もうって思った。わたしも仕事をやっていたし、周りには「産むの!?」って言われたけど、「別にえーわー」って(笑)。だからあのシーンは本気だったよ。「産むんじゃー!」みたいな(笑)。
“きよ葉”から学ぶ、恋のテクニック
Q:この作品を観ると、どんな男もイチコロにしちゃう“きよ葉”から恋のテクニックをたくさん学べますね。お二人が映画を通して学んだ、花魁(おいらん)たちの“手練手管(てれんてくだ)”はなんでしょう?
土屋:わたしが覚えてるのは「酔っちゃった」と肩から行くんじゃなくて、首から行くの! 首筋を見せながら、ナナメに攻める!
監督:こっから(首をかしげて)行くー。
土屋:所作の先生を見ているとキレイなんだけど、自分でやると、できないの(笑)。でも、あれは男の人から見て、超かわいいと思う(笑)。
Q:色彩豊かな『さくらん』でしたが、監督の持つ土屋さんの色のイメージは何色でしたか?
監督:きよ葉のときのアンナはピンクと黄色。花魁(おいらん)になってからは、赤と黒。
女の強さ、それは弱いところを認めることで生まれる
Q:アーティストとして活躍しているお二人が作られた『さくらん』は、現代女性が観て、もとても元気になれる映画だと思います。お二人が『さくらん』を通して感じた“女の強さ”ってなんでしょうか?
監督:作品を撮る前は、強い女の人って、“強い女”そのままのイメージだったんですけど、『さくらん』を撮り終わってから思うのは、女性って強い分、弱い部分も絶対にあって、その弱さを認めることによって、そこからまた強くなれるんじゃないかな。自分で監督をしていて、「自分はこんなに弱かったのか」って思うことが、たくさんあったから。弱さとちゃんと向き合えたときに、また一歩始まるのかなってことを、学んだ気がしますね。
土屋:女の人だって、男の人だって、弱いところはたくさんある。だけど、それで「わたし、弱いな」って言っても何も始まらないじゃない? 『さくらん』の花魁(おいらん)たちも、これ以外の道で生きたかったと思っている人はたくさんいたと思うの。でもね、一生懸命生きてるでしょう? 細く産まれたかった、太く産まれたかった。今は、みんな “ないものねだり”。ただ、それを言っても意味がないじゃない? 女の人って、どんな人もキレイなの。別に太ってようが、やせてようが、性格が強かろうが、弱かろうが。本当に、実花ちゃんが撮るお花みたいなのよ。みんな、キレイな笑顔を咲かせて欲しい。弱くてダメな自分をしっかり見つめて、「好きだな、こんな自分」って思うことで少し楽になるんじゃないかな。少なくても“きよ葉”はそうだったと思うから。花魁の強さを、観て生きて欲しいな。
マリリン・モンローのような金髪姿に変身していた土屋アンナは、仲良しの蜷川監督とのおしゃべりに上機嫌! 二人でつっつきあいながらゲラゲラ笑い、あくびをした土屋を「こら~!」としかる蜷川の姿は、まるで“アンナのお姉さん”。「ちょっとー! スカート短いからって、パンツ見ないでよね(笑)!」と周囲を爆笑させる土屋アンナは、まさに本作のムードメーカーだったに違いない。“女性の強さ”に対してしっかりと意見を言う彼女からは、主人公・きよ葉と同じ芯の強さを感じた。二人のカッコイイ女性が作った『さくらん』は、現代を生き抜く女性たち必見の映画だ。
『さくらん』は2月24日より渋谷シネクイントほかにて公開。