『俺は、君のためにこそ死ににいく』徳重聡&窪塚洋介 単独インタビュー
石原慎太郎さんには「いい男がいねえな」って言われちゃいました(笑)
取材・文:小林陽子 写真:秋山泰彦
『俺は、君のためにこそ死ににいく』は、製作総指揮を務めた石原慎太郎が“特攻の母”として知られる鳥濱トメから聞いた実話を基に、第2次世界大戦で活躍した特攻隊員の姿を描いた真実の物語。若き特攻隊員を演じたのは、“21世紀の石原裕次郎”こと徳重聡と、本作で完全復活を果たした窪塚洋介。現代に生きる若者という立場から見た戦争に対する思いや、特攻隊員を演じた“戦友”としてもお互いの印象を語ってくれた。
芯(しん)が通った男と革ジャンが似合う男
Q:徳重さんから見た窪塚さんは?
徳重:一見、器用そうなんですが、そうでもない(笑)。
窪塚:あはは(笑)。
徳重:そうでもないんです(笑)。1本まっすぐ芯(しん)が通っているんです。それしか見えていないというのではなく、広い視野を持った上で、きちんと自分の方向性を決めているという印象を受けました。
Q:窪塚さんから見た徳重さんの印象は?
窪塚:ロングの革ジャンが似合う人だなって(笑)。それでカバンの中には長いライフルが入っているのかと思いました(笑)。いや、変な意味じゃなくて、“石原プロ”という大きな存在を感じました。僕には分からない世界なのか、よく分からないんですが、普段の徳重くんのたたずまいが、この映画にすごく、よく生きていたと思うんですよね。おれなんか撮影していて「おれ、浮いてんじゃないの?」って思うところもあったんですけど、徳重くんは時代にもマッチしているし、質感がすごく合っている気がしたんですよね。
Q:完成品をご覧になっていかがでしたか?
窪塚:一言では言えない感じですよね……。ただ、生まれて初めて自分が出た作品に涙を流しました。ぶっちゃけ、最初は入り込めない感じがあったんです。ストーリーもたくさんあるし、いろんな人たちの日常が描かれているから気が散るというか。でも、気がついたらストーリーに入り込んで、終盤になったら涙が出てきていたんです……。それが一番びっくりしました。
徳重:僕の場合は、作品を観て涙を流すというよりは、流さないように我慢していました。僕が演じた中西という人間の立場もありましたから、涙をこらえるつらさというものはありました。
特攻隊員を演じてみて
Q:3か月という撮影期間中、気持ちがめいったりしませんでしたか?
窪塚:撮影現場はとても明るかったんです。監督はひょうひょうとしていて、よく冗談を言う明るい人なので、戦争映画を撮っているというのを忘れるくらいでした。なので、現場で押しつぶされそうになるということはなかったんですけど、最近よく聞かれるのが「明日、特攻隊として戦争に行くことになったらどうしますか?」って質問がつらいです。そんなこと想像もしたくないし、誰かのために死ぬとか考えたくないじゃないですか。でも、考えざるを得なかったですね。
Q:隊員生活を実際に体験されたそうですが。
徳重:訓練はやらなければいけないことですし、実際に彼らを表現するためには当たり前のことなので、何でもないことだと思います。やらなければ実際あったこともうまく伝えられないし。訓練中は上官からいろいろ言われたんですよ。人間対人間、大人対大人で接しているんですけど、完全に上からモノを言われて……。そんなとき、疑問に思う部分もあったんですよね。でも、ちょっとずつ変わっていって、疑問に思うことがあったとしても上官の言うことは絶対だし、従って当然なんだって思うようになっていましたね。
Q:実際に、隼(はやぶさ)に乗った当時の彼らはどんな気持ちだったと思いますか?
徳重:結局あの狭さに追い込まれているんだと思います。例えば、戦闘機も不足してきたり、みんな同じ陸軍なのに特攻服の色や形までが違ってきたり、物が不足する状況に追い込まれてくる。そして、気持ちも追い込まれてきて、最後は身動きができないコックピットに入らなければならなくて……、というようなことですね。
窪塚:言ったらあれが棺おけですからね。
明日、戦争に行けと言われたら……
Q:もしお2人が当時に生きていたら?
徳重:その状況を想像するのは、ちょっと難しいですね。
窪塚:もし、「明日行けますか?」って聞かれたら、おれは「絶対に行かない」って言いますね。行け……ないと思う……。
徳重:そもそも、そんなのはおかしいと思います。
窪塚:そう、状況が違い過ぎます。今、僕らが持っている価値観と当時の価値観っていうのは「時代劇か?」っていうくらい時代が違うと思うんですよ。モハメド・アリが「ベトコンはおれに何もしてない」ってベトナム戦争への徴兵を拒否したけど、それは答えっていうか……本当に正しいなって思う。自分の世界のことではなく、自分とは関係のない誰かと誰かのトバッチリで、「なんでオマエのために死ななきゃいけねんだよ」って思う……。だから、今の価値観からじゃとても判断できない時代ですよね。最初監督に会ったとき、今この時代から振り返って「あの戦争は間違ってなかったんだとか、清算するような内容になるんだったら出たくないです」ってはっきり言ったんですよ。そしたら監督は「いや、そういうんじゃなくて、特攻隊員っていう人たちがいて、それをそのまま描きたい」って言ってくれたんです。それであれば喜んで出させてくださいって言いました。
Q:製作総指揮と脚本を担当された石原慎太郎さんの印象は?
徳重:内容に関しては、ただ単に悲しいですし、重たいし、完全な事実ではないですけど、ほぼ事実なんです。文章や写真にも残っていないんだろうけど、実際あったことですし、それをうまく伝えることが自分の役目なんだなって脚本を読んで思いました。石原さんの印象は……、石原さんだなって(笑)。みんなで都庁までごあいさつにうかがったんですけど、そのときは軽く「いい男がいねえな(笑)」って言われてしまいました(笑)。
窪塚:僕は、昔から石原さんの書いた本に共鳴して結構読んでいたんです。石原さんの製作総指揮で、しかも脚本まで書いてくれた映画に出られるなんてうれしかったですね。
過去を知ることで生きていることの価値を知る
Q:では最後に、日本の未来を担う若者へメッセージをお願いします。
徳重:自分も含めてですけど、この映画を通じて思ったことが、とにかく遊びも仕事も勉強も一生懸命頑張って欲しいです。昔、そんな当たり前のことを自由にできなかった若者たちがいるので、彼らのためにもぜひ一生懸命に生きて欲しいなと思います。
窪塚:僕も同じですね。彼らがいなかったら今僕たちもこうしてないし、彼らがしてきたことを知るだけでも、今、自分たちが生きていることの価値って上がると思うんですよね。ご飯食べてもおいしいと思うし、タバコ一本吸うだけでもこの一本がおいしく感じるというか。そういうふうに今を生きていることに対して、感謝の気持ちを持ってもらえるとうれしいですね。
「これは、ただの戦争映画ではない、そして、ただ作品を宣伝するだけではなく、彼らの生き様を多くの人に知ってもらうためにやってきた」と語る徳重と窪塚。撮影エピソードを語っている最中、一言では言い表せないと、言葉を詰まらせてしまう場面も見られた。真剣なまなざしで語る徳重と窪塚は、まるで特攻隊員の魂が宿っているかのように熱く燃えていたが、重い話しになり過ぎないよう、冗談を交えながら和やかな雰囲気を作る気遣いも見せてくれた。本作品で精神力を鍛えたという2人、今後はどのような活躍を見せてくれるのだろうか、2人の活躍に注目したい。
『俺は、君のためにこそ死ににいく』は5月12日より全国公開。