『毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』ニコール・キッドマン 単独インタビュー
この映画は自分の中にあるアートと創造力を発見することがテーマ
文・構成:シネマトゥデイ 写真:クリストファー・ジャクソン
アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した『めぐりあう時間たち』で、実在した作家のヴァージニア・ウルフに引き続き、またしても実在した人物である写真家のダイアン・アーバスを演じたニコール・キッドマン。幻想的でアーティスティックな作品の魅力や、個性的な共演者と監督について話しを聞いた。
いままで読んだことがないユニークな物語
Q:本作に出演を決めた理由は?
わたしは歴史に名を残した女性の物語が好きなの。たとえ彼女たちがこの現代にいなくても、彼女たちの素晴らしさを世界に対して、もう一度発信することができるからよ。最初に脚本を読んだとき、とてもユニークな物語だと感じたの。そのユニークな物語とステーヴン・シャインバーグ監督とのコンビネーションこそ、わたしがこの作品を選んだ理由よ。それから、ダイアン・アーバスについてリサーチを始めたわ。そして、この役を選んだことが正しかったと確信したの。
Q:脚本のどんなところに魅力を感じたのですか?
この物語は、1人の女性が自分の芸術的才能に気付き、未知の世界に惹(ひ)き付けられるという点で、多くのことを比ゆ的に表現しているの。それに、素晴らしいラブストーリーであり、悲劇的なラブストーリーでもあるのよ。ライオネルはダイアンの心を解き放ち、ダイアンは彼に出会ったお陰で、本当の自分になることができたの。そういう物語に魅力を感じたわ。
Q:ご自身が演じられたダイアン・アーバスについてはどう思いますか?
わたしは白黒写真を集めているのよ。ダイアン・アーバスの写真展にも足を運んだわ。プロデューサーのパトリシア・ボズワースが書いたダイアンについての伝記「炎のごとく」も読んだわ。でも、この映画では、ほんの少ししかアーバスの伝記については触れていないの。あくまでも“幻想のポートレイト”であって伝記ではないからよ。この映画のテーマは、自分の中にあるアートと創造力を発見するということなの。
Q:女性写真家の役を演じてみて、いかがでしたか?
素晴らしい体験だったわ。写真家だけでなく、演劇やほかのアートも同じだと思うけど、生まれながらに持っている才能を発見できるということは素晴らしいことね。写真家を演じるにあたって、写真家が心の内で考えていることを理解しようと心がけたわ。ダイアン・アーバスという写真家は本当に驚嘆に値する人物なの。写真だけでなく、自身の思考を紙の上に表現していたことも素晴らしいと思うわ。写真も撮れて、文章も書く才能がある人なんて、そういないわよね。
Q:歴史的に実在した人物を演じたことについてはいかがでしたか?
この質問に答えるのは難しいわね。現実に生きた人物を演じるためには、自分の心の中で解釈しなければいけないの。その人物と精神的な深い関係になる必要があるのよ。それはとても神秘的で美しいことだわ。女優としてこのような深い関係を経験できることは、特別な経験だと思思うわ。
ロバートの誘惑的な瞳と監督の思いやりあふれる人柄
Q:ロバート・ダウニー・Jrとの共演はいかがでしたか?
ロバートの誘惑的で不思議な魅力はこの映画にはぴったりね。それに、とても美しい目をしているの! ロバートの目は口ほどに物を言うから、セリフなんかいらないわ。あと、彼は、頭がものすごくいいから、舌がもつれるようなセリフでも見事にこなせる。でも、この映画では、彼は心と存在感で演じるからセリフは少ないの。撮影の間は、わたしに対して率直に意見を言ってくれた。この作品ではそういったコミュニケーションが必要だったので、とても感謝しているわ。彼のような個性的な俳優と共演できて光栄よ。
Q:シャインバーグ監督についてお聞かせください。
シャインバーグ監督と一緒に仕事ができたことは、本当に幸せな経験だったわ。まず最初に、電話で打ち合わせを重ねることから始まったの。まるで打ち明け話をするみたいに自分たちのことを話し合ったのよ。だから、撮影に入る前にはすっかり打ち解けた感じがしたわ。彼は思いやりがあって親切で、ワクワクするような刺激的な人よ。彼は、自分にはっきりしたイメージがあっても、こちらにもイメージを描かせてくれたわ。
Q:本作の見どころを教えてください。
最終的に、ライオネルが15年間連れ添ったダイアンの夫に会いたいと主張したことで、ダイアンの世界は崩れ去ってしまうの。ダイアンが夫とライオネルに挟まれて座っているシーンは見どころよ。監督のこのシーンの演出は見事ね。だって、2人の間で揺れ動く彼女の心だけでなく、ユーモアとウィットまで表現しているんですもの!
アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、ハリウッドで確固たる地位を築いたニコールは、“すべての脚本が彼女を通ってくる”とまで言われる存在だ。そんな彼女が選んだ『毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』は、まるでニコール自身のように美しく幻想的で、それでいてユーモアにあふれた作品。「この映画は伝記ではなく“幻想のポートレイト”なの」と言い切ったニコールが表現する、一風変わった不思議な世界を存分に堪能してほしい。
『毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』は5月26日よりシネマGAGA! ほかにて公開。