『監督・ばんざい!』北野武 単独インタビュー
なんかおかしいんじゃねぇか! って自分にツッコミ入れた
取材・文・写真:シネマトゥデイ
世界中から高い評価を受け続けている北野武が、今度は世界がひっくり返る最新作『監督・ばんざい!』を監督した。プロレスラーの蝶野と天山が大暴れし、井手らっきょが宇宙人に、江守徹も、はちゃめちゃなキャラクターに大変身するウルトラ・バラエティ・ムービーだ。 カンヌ国際映画祭では、短編作品『素晴らしき休日』(第60回カンヌ国際映画祭記念映画で『監督・ばんざい!』と同時上映が決定)も上映され、好評を博した北野監督に、『監督・ばんざい!』について語ってもらった。
暴力映画とお笑い映画は似ている
Q:『監督・ばんざい!』はどんな映画なのでしょうか?
最初から最後まで、くだらなくて、最悪で、観ているやつが嫌になっちゃうようなラインでひっぱってきた。人間ってお葬式とか結婚式とか、そういうすごくシリアスな場所で、つい笑っちゃう感じってあるでしょ? 情けなくて笑っちゃうみたいなの、ああいうの好きでね……。
Q:激しいバイオレンスを描く北野作品と、くだらないまでのおかしさを描く北野作品、そのギャップについて聞かせてください。
ヤクザ映画の現場で、誰かがミスしたときにはね、それと正反対のめちゃくちゃおかしいことになるんだよね。こんな顔(思いっきりにらみつけて)しているから余計おかしいの。銃を構えていても、銃の向きが逆さまで「あ、逆だ」ってなると腹抱えて笑っちゃうんだよね。みんなが怖い顔して、緊張してテンション上がっているところって、必ず悪魔のように笑いが忍び込むんだよ。だから、ヤクザ映画や暴力映画が撮れるなら、お笑い映画も撮れるはずなんだよ。ただ、そのポイントを見抜いてないだけで、ほとんど同じテンションなんだよね。
くだらな過ぎてスタッフも爆笑
Q:蝶野と天山というプロレスラーの登場シーンは、とにかく、はちゃめちゃで、それこそ究極の“暴力”から生まれる“笑い”でしたね。
昔、一回プロレスラーの出た映画を観たことあるのね。いすとかも壊れるようになってるんだけど、やたらおかしくてさ。それでプロレスラーぜんぶ集めて映画撮ろうと思ったの。ただ、蝶野さんとか天山さんとかだけで、1時間50分は演技できないからね(笑)。あのシーンは、とにかく殴り合うだけだから、やりたい放題やらせてやろうと思って、古いラーメン屋を借りてきて、つぶれたところを直して、「はい好きにどうぞ」ってやったんだけど、まあ迫力あったねえ(笑)。もう、スタントなんて一切なしでドッカンドッカンやってたよ。
Q:江守徹さんも完全に壊れていましたが、どのように演出されたんですか?
台本を渡すときにちょっと逃げようかと思ったね。セリフを読んで殴りかかってくるんじゃないかと思って。そしたら、ちゃんと役を作ってきてくれたんだよね、朝からテンションがおかしいんだよ(笑)。あれえ? と思ったらもう役になりきってやってくるから、「ああ、やっぱり役者だなあ……」と思って。江守さんの演技があまりに面白くて、カメラマンが笑っちゃってね、カメラが揺れそうになってたよ(笑)。そのぐらいすごかったね。みんな下向いて笑いをこらえて大変だったよ、あんまりくだらないんでね。
Q:監督が一番大笑いしたシーンはどこですか?
江守さんでも大笑いしたんだけど、一番笑ったはずの井手のシーンは、ほとんど全部カットしちゃった(笑)。アイツ、勝手にモノマネしちゃうのよ。モノマネするのはいいんだけど、西城秀樹の昔のCMをマネして「ヒデキ、カンゲキ!」とかやってるわけ。お前はいつの時代をやってるんだ! って感じ。ほかにも、田中邦衛をやるわけよ。「ホタル……」って(笑)。そんでやや知られているのが、アントニオ猪木だけなの。それを30分くらいやってるわけ。あんまりくだらなくて、途中でもう、撮影やめちゃったよ。だから、一番笑ったのは井手のシーンなんだけど、フィルムに撮ってないの。情けなくて(笑)。
監督も混乱した衝撃のストーリー
Q:井手さんの衝撃的な姿もすべて監督のアイデアなんですか?
プロレスのシーンの後はどうでもよくなっちゃって、どこ行っちゃうんだか分からなくなっちゃってさ。最初はまじめにやってたんだけど、おれも途中からよくストーリーが分からなくなった(笑)。
Q:藤田弓子さんと監督とのラブシーンは、見ちゃいけないものを見てしまったような気分でした。
あれはやっぱり、子ども時代のあれだよなあ。うちの母ちゃんと父ちゃんの殴り合いから変なことになったっていうような……、今だに気持ち悪いよね(笑)。うちは2間(ふたま)しかなくて狭いから、バカヤロウ、コノヤロウ言って、ワーワーから、変な「あーあー」になっていったっていう……。貧乏人の家には、多分、ああいう子どもがいっぱいいたんだと思うよ。もうトラウマだね(笑)。
タケシ人形の制作秘話
Q:あのタケシ人形には思い入れがあるのですか?
結構使えたんだよね(笑)。都合が悪いところは人形になっちゃえ! と(笑)。面倒くさいのと、船に乗るのが気持ち悪いから人形を使った(笑)。外国の取材のときに、背負って持って歩こうかと思ったんだけど、そういうわけにもいかないもんで(笑)。
Q:タケシ人形はどういう経緯で生まれたのですか?
自殺しているシーンを撮ろうかなと思ったんだけど、それもちょっとリアルで気持ち悪いなあと思って、「じゃあ人形にしよう、その人形を持ってりゃいいんだ」と思ったの。だけど、人形を作ろうと思ったとき、四谷シモンさんに頼んじゃったりするとリアルすぎて生々しいだろ(笑)? それはマズイつって、ハリボテで作るコトにしたんだよ。まあ今になれば、辻村寿三郎さんに作ってもらったらどうなんだろうなとか思っちゃうけど、それを壊したら怒られるだろうしね(笑)。やっぱり、あれでいいんじゃないかな。
ツッコミどころ満載! 観客参加型の漫才映画
Q:この映画を観た海外の観客からは、どんなリアクションがあると思いますか?
ヨーロッパでも、今「風雲!たけし城」の人気がすごいんだけどね、“たけし城”と“キタノ・タケシ”とがつながらないところがあるらしいんだよ。でもここではっきりつなげて、しょうがないやつだっていうのを、分からせてやりたいね。
Q:面白いエピソードが満載ですが、アイデアはどういうときに生まれるのですか?
発想的には漫才ネタみたいなところがあるね。自分で撮った作品にツッコミ入れている感じ。なんかおかしいじゃねえか! って(笑)。自分で撮って自分でツッコミ入れるなんて、珍しい映画だよ。観客にもスクリーン観てツッコミ入れて欲しいね。
Q:『監督・ばんざい!』というタイトルですが、監督の醍醐味(だいごみ)とは?
監督って仕事は、サポートしてくれる人はたくさんいるんだけど、始まっちゃったら自分のもんだってとこかな(笑)。何をやっても自分のもの。ひどいことやり過ぎると二度と使ってもらえないけど(笑)。でも、「なんでこんなことしたのかな!?」って言わせてしまうのが監督の楽しさなんだよ。
大暴走をしてしまった井手らっきょのことを話しながら、おかしくて仕方がないといった様子の北野監督を見ていると、「撮っていることが楽しい」という気持ちがよく伝わってきた。「お客さんには、映画を観ながらどんどん突っ込んで欲しいね!」というのが、北野監督の願いだ。つい「くっだらな~い!」とスクリーンに向かって大笑いしてしまうであろう、ギャグ満載の『監督・ばんざい!』は、家族で、友人同士で、みんなで楽しめる極上のバラエティー映画だ。
※第60回カンヌ国際映画祭記念・短編作品『素晴らしき休日』、同時上映決定!
『監督・ばんざい!』は6月2日よりキタノ・タイムズスクエアほかにて全国公開。