『図鑑に載ってない虫』伊勢谷友介 単独インタビュー
セオリーを無視した、いい意味でくだらない映画
取材・文・写真:シネマトゥデイ
『雪に願うこと』『嫌われ松子の一生』と話題作に立て続けに出演している伊勢谷友介が、新たな主演作に選んだのは、「時効警察」などで人気を博している“小ネタの鬼才”三木聡監督の最新作『図鑑に載ってない虫』。松尾スズキ、菊地凛子という個性派メンバーを従えて、奇想天外、ありえないストーリー展開に、1人“大マジメ”に対応していく主人公の“俺”を好演した伊勢谷が、“脱力系”ムービーの魅力を語った。
ツッコミどころ満載の映画
Q:脚本を読んだ感想を聞かせてください。
ここまで“セオリーを無視した、いい意味でくだらない映画”ってそうそうないなと思いましたね(笑)。それは僕にとって新しいことだったので、とても興味深かったです。
Q:観客のリアクションがまったく分からない中でコントのような芝居をするのは、難しくなかったですか?
あえて分かろうとしないで、そこは監督にお任せしました。たくさんカットを重ねているので、編集の段階で間をつないでいただいて……。それでなんとか助かっています(笑)。
Q:現場の雰囲気はいかがでしたか?
みんな相当リラックスして演じていましたね。撮影期間が長かったんですが、ちょうど暑い季節に撮影していたときは結構しんどかったんです。
Q:夏の間の撮影だったんですか?
夏の間の撮影もありました。撮影が2回に分けられたことで、後半の現場はすごくリラックスして入れたんですよね。前半のときは、常に追われている感じだったんですけど、ひと呼吸置いてから入ることで、“俺”というキャラクターを自分の中で消化できて、すっきり演じることができました。
Q:映画を観て、ノスタルジックな思いに駆られてしまいました。
この映画は「昭和だな」と思いました(笑)。昔風もなにも、そもそも演じていること自体に真実味がないので(笑)。虫に対してのリアクションも、とにかく「あちょちょちょちょ~~!」みたいなことで成立しているから、ここまでぶっ飛ばしてくれたら、本当におめでたいと思います(笑)。
Q:伊勢谷さんの心に響いた小ネタは何でしたか?
松任谷由美さんの歌と、黒マル(秘部を隠すボカシのような丸)。それから、一番シュール過ぎて笑えなかったのが、カニのシーン。あと、松尾さんの子どものころを演じた子役がかわいかったんですよね。片桐はいりさんのシーンもかなり面白かったです。片桐さん自身もとってもいい方で、こんな人と一緒にいたら幸せになるんだろうなって思っちゃいました。
オスカー候補になった菊地凛子との共演
Q:共演者の菊地凛子さんは、撮影期間中にオスカー候補になられましたね。
彼女の中で何が起こっているのか察することはできませんけど、僕自身の中で彼女の印象は、まったく変わらなかったです。とてもざっくばらんに付き合える女優さんです。
Q:菊地さんと共演されていかがでしたか?
彼女がもともと持っているキャラクター自体、声の質も、顔もそうですけど、今回の役ではぴったりだったと思うし、とても気遣いのできる人なので、仕事もしやすかったですね。
Q:松尾スズキさんとはいかがでしたか?
人間的に“ぶっちゃけ系”の方なので、ボソボソッとご自分のことを話してくださいました。どちらかというと僕もそういうタイプだから、すごくリラックスできました。気を遣ってどうのこうのというよりも、今回の現場は、映画のなにがしかっていうのを、すっ飛ばして作っているっていうことも含めて、ノリがくだけていました。
Q:今後、“伊勢谷友介”はどこへ向かって行くのでしょうか?
何かを壊して次の世界を構築していきたいなと思っています。今いただいている仕事も楽しみなものばかりで、自分にも、仕事相手にも正直に、精いっぱい頑張りたいです。
「何かを壊して、次の世界を構築していきたい」そんな言葉で自らの将来を語ってくれた伊勢谷だったが、この作品が“伊勢谷友介の何かをぶっ壊した”ということは、スクリーンで生き生きと暴れまわる伊勢谷の姿を観れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だろう。文字通り、いろんな意味でのはじけ方を覚えつつ、自分の中の“何かを壊した”彼が、これからどんな次なる“伊勢谷友介”の世界を構築していくのか、ますます目が離せない。
『図鑑に載ってない虫』は6月23日よりテアトル新宿ほかにて公開。