『ボルベール 帰郷』ペネロペ・クルス 単独インタビュー
わたし、すごく母性本能が発達しているの。
まだ、子どもはいないけどね
取材・文:内田涼
スペイン映画界の巨匠、ペドロ・アルモドバルの最新作『ボルベール 帰郷』は、女性への賛歌にあふれた傑作ドラマだ。世代を越えた6人の女優たちのアンサンブルも見どころで、特に主演を務めるペネロペ・クルスの存在感は圧巻。本作で、カンヌ国際映画祭女優賞を受賞し、初のオスカー候補にもなった彼女に話を聞いた。
今までで一番特別な作品
Q:ライムンダという母親を演じる上で、どんな心構えだったのか教えてください。
母親を演じるということで、特に意識する部分はなかったわ。わたし、すごく母性本能が発達しているの。まだ、子どもはいないけどね。それに、これまでペドロ(・アルモドバル監督)の作品には3回出演しているけど、すべて母親役だったから、難しさを感じることもなく、すんなり役作りができたと思うわ。
Q:ライムンダという女性のどんな部分に一番共感しましたか?
あるときは強く、あるときは弱い存在だという点かしら。わたし自身もそうなのよ。女優として、役を演じるとき、その役柄が自分と似ているということは、さほど重要なことではないの。でも、今回に関しては、ライムンダとわたしは、とても似ていたわね。ペドロもそう言ってくれたわ。
Q:完成した作品の感想を教えてください。
たくさん泣いたわ。観終わった後は、ペドロと抱き合って、思わず「ありがとう」って伝えたの。その日は、本当に幸せな気分だった。今振り返っても、いい思い出だけが残っているわね。この作品とは、撮影から公開、そして、プロモーションと長い時間付き合っているけど、そのすべてが人生における最良の瞬間といえるわ。仕事以上のものなの。わたしにとって一番特別な作品だから、ぜひ楽しんでほしいわ。
アルモドバルは最高の映画監督
Q:アルモドバル監督とは、『オール・アバウト・マイ・マザー』以来のお仕事でしたね。
彼との再会は、まさに“帰郷”ね。本当に素晴らしい体験だったわ。若いころから、彼の作品に出演するのが夢だったの。特に今回は、わたしのために脚本を書いてくれたことが、信じられないくらいうれしくて! とても光栄だったわ。彼は映画界で最高の存在、天才なの。それと同時に、とても優しい人よ。そこが彼の人間的な魅力ね。
Q:今回も素晴らしいコラボレーションだったと思います。
ペドロは、俳優に多くを要求する監督なの。でも、何を求めているのかが、とてもはっきりしているから、演じる側は苦にならないわ。それに、要求する以上に、わたしたちの意見を聞き入れてくれる。俳優たちをとても尊重してくれるの。すべては、映画をより良いものにするためなのね。ペドロにとっては、映画は人生そのもの。何もかもを映画に捧げる姿を見ていると、わたしも同じ姿勢で撮影に挑みたいと思えてくるのよ。
Q:あなたを含めた6人の出演女優が全員カンヌ国際映画祭の最優秀女優賞を獲得する快挙を成し遂げました。
彼女たちとは、撮影に入る約3か月前から、リハーサルを兼ねて一緒に過ごしていたの。だから、撮影が始まるころには、みんなお互いのことをよく知っていたし、とてもいい関係が出来上がっていたわ。それが、演技のアンサンブルを生み出した理由ね。撮影中は、まるで家族のように仲が良かったし、とても幸福で幸運な現場だったわ。
“付け尻”に抵抗感はなし!
Q:今回は、役作りのために“付け尻”を付けて演技をしましたね。正直、どんなお気持ちでしたか?
わたしとペドロの目指す役作りが、同じ方向性だったから、むしろ、喜んで付けたくらいよ。ライムンダは、若くして子どもを生んだ女性だから、大きなお尻なのは当然だと思ったし。イメージはそうね……スペインやイタリア南部に暮らす女性かしら。役作りの上で、絶対に必要なことだったし、わたしにとって、“付け尻”を付けることは、ぴったりな靴を見つけたようなものなの。それから、この作品のために数キロ太ったの。それも役作りのためよ。
Q:あなたの目から見て、ハリウッドとスペイン映画界の違いはどんな点ですか?
スケールの違いはあるにせよ、わたし自身はあまり意識していないの。一言でハリウッドって言っても、大作からインディペンデントなものまで幅広いし、低予算のアメリカ作品って、スペイン映画の現場にとてもよく似ていると思うわ。だから、作品を選ぶときも、どの国の映画かっていう点はほとんど気にしない。今後も、スペインで仕事を続けたいのはもちろん、どんどんアメリカ映画にも挑戦したいし、ヨーロッパの映画界にも興味があるわ。そこに女優としてのやりがいを感じられるならね。
Q:ペドロ・アルモドバル監督は、あなたのことを「今、ペネロペは美の絶頂にある」と絶賛しています。最後に、あなたにとって「美しくあること」とはどんな意味なのか教えてください。
人間誰しも、その人だけが持っている美しい部分があると思うの。わたしは、そんな人間本来の美しさを愛するわ。逆に、わたしが嫌うのは、社会が押し付ける美の基準を追いかけること。ありふれた言い方かもしれないけど、心の状態というものが、その人の美しさを決めるのだと思うわ。だから、わたしにとって、美しさの定義って、ファッション誌やコスメ雑誌に書かれている記事なんかより、もっと広いものなのよ。
「Hola!」(スペイン語でこんにちはという意味)の一言で、取材現場の雰囲気をあっという間に、華やいだものに変えてしまったペネロペ・クルス。その美しさは、彼女の言葉どおり、外見からだけでなく、内面の豊かさや充実感がもたらすものだった。最新作『ボルベール 帰郷』が、そんな彼女をさらに磨き上げたのは言うまでもない。大胆さと繊細(せんさい)さを兼ね備えたヒロイン像には、ペネロペ・クルスという女優の類いまれな“底力”が感じられる。発言の1つ1つに自信が満ちあふれたペネロペ・クルスは、まさに「美の頂点にある」という賞賛がもっともふさわしい女性だ。
『ボルベール 帰郷』はTOHOシネマズ 六本木ヒルズ ほかで公開中。