『デス・プルーフ in グラインドハウス』クエンティン・タランティーノ 単独インタビュー
セクシーなヒロインの活躍に「イエー」ってなっちゃう!
取材・文・写真:シネマトゥデイ
『キル・ビル』シリーズで世界中をぶっ飛ばしたクエンティン・タランティーノが、今度は親友ロバート・ロドリゲスと2本立て『グラインドハウス』で映画界に殴り込みをかけた。日本では、独立した1本ずつの上映となった『グラインドハウス』。先陣を切るのはタランティーノ監督作品の『デス・プルーフ in グラインドハウス』だ。美女と殺人鬼の対決あり、ド迫力のカーチェイスあり! 今回も存分にタランティーノ・ワールドをさく裂させたタランティーノ監督に話を聞いた。
あこがれのカートや美女との撮影に大感激
Q:『デス・プルーフ in グラインドハウス』を監督していて、一番楽しかったことは何でしたか?
まず1つ目は、あこがれのカート・ラッセルと仕事ができたこと。カートは僕のヒーローだったから、彼と働くことができて楽しかったよ! それから、2つ目は、たくさんの美しい女優たちと仕事ができたこと(笑)! 毎日キュートな格好をした彼女たちと現場で顔を合わせて、「おはよ~」なんてあいさつできてうれしかった! 3つ目は、超ド迫力のカーチェイスシーンを、何日も何日も撮れたこと! 7週間ぐらいの撮影だったんだけど、ほとんどをカーチェイスのシーンに費やしたんだ。毎日100マイルくらいは運転しっぱなしだったね。撮影しているうちに、どんどんアイデアが生まれてきて、シーンを作り上げていくのは楽しくて仕方なかった!
Q:先ほど、美女たち……とおっしゃいましたが、これだけたくさんの女優たちを統率するのは大変だったのでは?
この映画では大丈夫だったよ! 女優たちに、一番大切なこと、それはね……“面倒をみてあげる”ってことなんだよ(笑)。もし、面倒をみることを忘れて放っておいたら……? それは大変なコトになっちゃうだろうけど、僕は大丈夫! ちゃんとお世話をしていたからね! それから一番大変なのは、女優同士のバトルなんだけど、これは女優たちを仲良くさせて“ギャルの軍団”にしちゃえば、仲たがいして大変! なんてこともないんだ(笑)。今回の場合は、アバナシー役のロザリオ・ドーソンとキム役のトレイシー・トムズが『RENT/レント』で共演していた親友同士だったから、そこに気さくなゾーイと、本当にスイートでナイスなメアリー・エリザベス・ウィンステッドが加わって最高のチームが出来上がったんだ。みんなすごく仲良しで、撮影中も一緒に遊んでいたみたいだし、撮影が終わった今でもつるんで遊んでいるみたいだよ。
撮影現場の恋愛事情!?
Q:普通のスラッシャー映画は、大抵がティーンの女の子が主役ですよね。本作の主人公たちは自立した20代後半の女性たち。どういう意図があったんでしょうか?
それは、“スタントマン・マイク”という殺人鬼が好む女性のタイプが重要だったんだ。マイクが獲物にしたい女性というのは、高校生の女の子ではなくて、パーティーガールな大人の女性だった。つまり! 一番大切なのは、“バーに行って、ガンガン飲める年ごろ”だってこと(笑)! バーを何件もハシゴして、マルガリータを飲んで、ウイスキーを飲んで……そういう女性は、女子高生じゃ無理だろ? それから、マイクがなぜそういう女性の狙ったかというと、車でぶっ殺したときに相手のせいになるからなんだよ! 1人は、マリファナ吸って、1人は酒飲んで酔っぱらっている。あいつらが悪い! てことになるだろ!? マイクは、最高にキレる殺人鬼なのさ!
Q:「セックス・アンド・ザ・シティ」顔負けのリアルなガールズトークにも驚かされました。
主人公の4人はみんな、映画の世界で働いている女性たち。映画の世界に住む自分にとっては、映画の現場で働いている女性のおしゃべりに聞き耳を立てるのなんて簡単なんだよ(笑)。そこで僕が発見したのは、映画の現場で働いている女性たちは、男性クルーたちとラブ・ゲームを楽しんでいる割合が高いってこと! 誰が既婚者か、誰がセックス上手か……そんなことをすぐに察知して、現場の男たちをピックアップしているんだよ。ロケが続いていると、撮影隊ってサーカス団みたいになってきて、何だか変な感じになってくるんだ。全世界の映画の世界で働く彼氏や彼女を持つ人に言うよ! 彼らがロケに出たら要注意! 車かっ飛ばしてでも、毎週恋人に会いに行くべきだよ(笑)!
タフなヒロインが活躍する映画が大好き!
Q:監督の作品には、タフなヒロインがたくさん登場します。本作でも、ガールズパワーがさく裂していましたが、タフな女性の魅力って何でしょうか?
(注意:ネタバレを含みます):とにかく楽しいでしょ!? セクシーな女性が強そうな男をボコボコにするのを観るのって、すごくスカッとする。例えば、よくあるセクシー系の女囚映画で、女囚たちが、意地悪な看守を殴り倒したりするシーンって、思わず「イエー!」ってなっちゃう。でもそういう風に本当にタフなヒロインが活躍するのって、大抵B級映画で、アメリカの大作にはなかなかないんだよ。『ダイ・ハード』シリーズの女性版みたいなのってないだろ? 僕が大好きな、サニー・千葉(千葉真一)の映画でも、女のクノイチが出てきてすごい活躍を見せる! ああいうスカッとした感じの映画が大好きなんだよ。
Q:本作でのカート・ラッセルは、これまでのイメージを覆しました。「アメリカのヒーロー」敵存在のカートに、どうやってあそこまでの演技をさせたのですか?
(注意:ネタバレを含みます):確かに! でもあれは、僕がやらせたんじゃないんだよ。カートが、勝手にあの役を100倍くらいに膨らませたんだ! ぼこぼこにされちゃったカートの姿は笑えるよね。情けないね~って。でも、僕が一番ショッキングだったシーンは、彼が腕を撃たれたシーン。あれは、たぶん映画史上最もリアルな“人が、銃で撃たれたときの様子”だったと思うんだ。超リアルだよ! 大抵の映画では、人が腕を撃たれると「うっ……」でしょ? でも、違うんだよ。まさにこの映画のカート状態になるんだ「う、うぎゃあああああああ」って! 痛くて、死にそうで、ただ撃たれたところが痛いだけじゃなくて、錯乱状態になるんだ。完全にワケが分かんなくなっちゃうんだ! ……でもね、あそこのシーンで最高に笑えるのは、「うぎゃああ、わーーん」って泣いちゃうマイクじゃないんだよ! あんなに撃たれて痛がって、死ぬほど泣きつつも、それでも最高のドリフティングを見せちゃうマイクなんだ! 片腕撃たれて重傷なのに、何であんなカーチェイスが繰り広げられるんだよっ! すげーよ、スタントマン・マイク! 彼は泣き虫かもしれない、痛がってダサいかもしれない、でも最高のドライバーなんだよ!
自分の作品について、これほど楽しくしゃべりまくり、これほど自分で自分を突っ込める監督はタランティーノ以外にいないのではないだろうか? カートが演じた殺人鬼のくだりでは、すっかり興奮してしまい、イスから半分立ち上がり、声を枯らしながら熱弁を繰り広げた。「この作品を観るなら、こっちを観た方が断然いいって!」と客にいちゃもんをつけていたというビデオ屋の店員は、今や世界をまたぐ大監督になった。そんな監督が大切に、そして心から楽しんで作り上げた作品だからこそ、彼の映画からは、あふれるような映画愛が伝わってくるのだ。
『デス・プルーフ in グラインドハウス』は9月1日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国公開。