『ボーン・アルティメイタム』マット・デイモン 単独インタビュー
結婚して、すっかりセクシーじゃなくなったよ(笑)
取材・文:シネマトゥデイ 写真:鈴木徹
記憶を失った元CIAの暗殺者ジェイソン・ボーンが、“自分が何者なのか”を知るためにスリリングな旅を続ける人気シリーズの最終作『ボーン・アルティメイタム』。アメリカで8月に公開され、9月に入ってもトップ10入りし続けるという、大ヒットを記録している。シリーズを通して主人公の“ボーン”を演じているマット・デイモンが、役作りの意外な秘密、そして、ニューヨークでのカーチェイスロケの苦労を語ってくれた。
ジェイソン・ボーン=現在のアメリカ
Q:2002年から演じ続けている主人公“ボーン”について、あなたの思いを聞かせてください。
僕が演じているボーンは、まさにアメリカの現在を投影しているようなキャラクターだと思う。この作品の最後で、ボーンが語るセリフがあるんだ。詳しくは言えないんだけど、自分はそのセリフを話しているときに、今、アメリカ国民が強く感じていることを代弁しているような気持ちになったんだ。
Q:ボーンにはセリフがあまりなく、無口なキャラクターでしたが、セリフを話さずに表情で演技する難しさはありましたか?
役への準備とか、役作りっていうのは、役者それぞれだと思う。僕の場合、ボーンのようなあまりセリフを話さずに、表情で演じる役柄は、自分が大変というよりも、むしろ監督にとってとても難しいものだと思うんだ。表情だけの演技だったら、ある意味、役者の方は、何を考えていても構わないからね(笑)。ただ表情だけで演技をすることはできないから、“ボーン”と同じ経験を現場で体験し、そこから生まれた表情を監督に、ナチュラルに撮ってもらっているんだよ。
Q:『ボーン』シリーズ、そして『オーシャンズ13』と、立て続けにシリーズ作品に出演されています。シリーズものの楽しさはどこにありますか?
それは、懐かしい人たちに再会できることだね。素晴らしい役者たちと、また集まって演じられるのは、もちろんうれしいけど、それだけじゃなくて、毎日、昼夜問わずにひとつひとつのシーンの裏で働いてくれている何百人ものスタッフたちに会えるのもうれしいんだ。ひとつの現場ごとに別れを告げるのが、この業界なんだけど、続編だと、また同じメンバーに再会できるから、まるで家族のようなきずなが生まれるんだよ。
結婚して知った“人生”の意味
Q:最初の『ボーン・アイデンティティー』から考えると、結婚して、お子さんも生まれて、あなたの人生も3作品の間にずいぶん変わりましたね。
そうだね。前作の現場では、僕はまだ独身だったから(笑)。当時の生活と言えば、現場に行って、撮影が終わるとジムに行って、家に帰って寝るっていう生活だった。今じゃ、家族とずっと一緒にいたくて、ジムでトレーニングせずに、急いで家に帰ってるんだ。もうすっかり、セクシーじゃなくなったよ(笑)。でもね、今になって気付いたんだけど、家族を持つ前の自分は“人生”の意味なんて全然分かっていなかった。ただ、仕事をひたすらこなしていただけ。でも今は、家族のために、僕は生きてるんだ。こんな素晴らしい気持ちは初めてだよ。
Q:撮影中は、赤ちゃんが生後3か月だったと聞きましたが、よき父親、よき夫、そしてボーンの3役は大変ではなかったですか?
この映画の中で、全編を通してボーンがめちゃくちゃストレスフルな顔をしているのは、本当に疲れ切っていからなんだよ(笑)。朝の6時に現場で監督とシーンの打ち合わせしていたときにね、「マット、本当にひどい顔をしているね……。かなり疲れているだろ?」って監督に言われたんだ。それで、「そうなんだよ。実は赤ん坊がずっと泣いていて、一晩中起きていたから……」って話したら、「いやいや、いいんだ! これぞボーンだよ! 素晴らしい!」って(笑)。ひどいよね(笑)? うちの娘は、自然な役作りの秘密兵器なんだよ。
シリーズがヒットしている理由を分析
Q:3作すべてが大ヒットしているこのシリーズですが、人気の秘密はどこにあると思いますか?
それはこの作品がいかにも大味なハリウッドの娯楽作品! という感じじゃないところに魅力があるからだと思うよ。最初の作品を監督したダグ・リーマンも、ポール・グリーングラスも、もともとはインディペンデント映画の監督なんだ。確かに大作ではあるんだけど、たくさんの予算をかけて撮る映画の大胆さや、華やかさに加えて、インディペンデンス映画っぽいテイストも含まれているから、それがミックスされてとっても面白い作品になっているんじゃないかな。
Q:今回もかなり激しいカーチェイスシーンが繰り広げられていましたね。
そうだね。前回もすごかったけど、今回はさらに迫力のあるカーチェイスだったと思うよ。カーチェイスの演出をするアクション監督がいるんだけど、何といっても彼が最高なんだよ。彼のおかげでニューヨークのど真ん中で撮影したそれらのシーンは、とてもエキサイティングだった。
Q:ニューヨークでの撮影は、いかがでしたか?
大変だった。本当に、とても大変だったよ。ニューヨークでカーアクションの撮影なんて、とても神経を使うシーンだった。とにかくけが人が出ないように、すごくピリピリしていたよ。何せ撮影しているところのすぐそばで、自転車に乗ったメッセンジャーが走っているんだからね。
映画の話をしていると、とても真剣なマットだったが、娘の話になったとたんに顔をほころばせてしまう……そんなデレデレの親バカぶりが見ていてとてもほほ笑ましかった。「ブラッド・ピットも、マット・デイモンもパパになっちゃって……」と『オーシャンズ13』の共演者で、独身のジョージ・クルーニーはすっかりふてくされていたが、「家族ができて初めて“生きている”実感した」と言うマットはとても幸せそうだっだ。ともあれ夜泣きに憔悴(しょうすい)しながら臨んだという本作の、“子育て疲れ”なマットにぜひ注目してもらいたい。
『ボーン・アルティメイタム』は11月10日より日劇1ほかにて全国公開