『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』木村カエラ 単独インタビュー
殻に閉じこもっていてはもったいない! いろんな人と触れ合って
取材・文:鴇田崇 写真:田中紀子
奇想天外なおもちゃ屋を舞台にしたファンタジックな映画『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』。その日本版テーマ・ソングに、若者を中心に絶大な人気を誇っている木村カエラがチャレンジした。楽曲提供とプロデュースを手掛けた電気グルーヴの石野卓球との初のコラボレーションも話題で、彼女自身もテクノは初。映画のテーマにぴったりフィットした新曲「Jasper」にまつわる制作エピソードなど、さまざまな話を聞いた。
初挑戦したテクノは難しいけど面白い!
Q:完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
ファンタジーが大好きなので、色使いだとか世界観がとてもかわいいと思いました。わかりやすい内容ではあるんですけど、普通の映画とは感動するポイントが違うような気もしましたね。ナタリー・ポートマン演じるモリーが長い時間笑うシーンがあるんですけど、そこにグッときちゃいまして(笑)。わたしが今まで観てきた映画では、登場人物が笑顔になっているときに感動した体験がなかったので(笑)。そういう意味でもそのシーンは、この映画のすてきなポイント。笑顔っていいな! って単純に思えるような、そんな感想を持ちましたね。
Q:音楽の世界で活躍している歌手として、作曲家を目指すモリーに共感する部分はありましたか?
そうですね。わたし自身もモリーに共感する部分がありましたし、同じ女性じゃなくて男性でも「自分はこの先どうすればいいの?」とか、自分自身がわからなくなって迷ってしまうことってすごくたくさんあると思うので、皆さんも共感するんじゃないでしょうか。
Q:テーマ・ソングになっている「Jasper」は、初のテクノですね。トライした感想はいかがですか?
意外と歌うのが難しいと思いました(笑)。言葉が繰り返しになっているテクノは、テンションが合ってさえいれば歌えると思っていたんですけど、曲に合うテンションを探すのが難しかったんです(笑)。低すぎても声が合わないし、高すぎても合わない。「Jasper」の雰囲気だったり石野卓球さんのテンションだったりを探すのが、とても重要なんだと思いました。そういう意味でも初挑戦は面白かったですね。
Q:映画のテーマ・ソングに向けての曲作りは、普段の作業とは違うものなのでしょうか?
はい。映画のテーマに沿ったものを書くものだと思うので、1から詞を書こうとすると、まずテーマを決めてどんな内容を書くかを考えるという、違う労力が必要だと思うんです。詞を書くときにテーマさえ決まってしまえば、後はそれに合う言葉を探していけばいいので、映画のテーマ・ソングの場合は、映画を観れば明確にわかるので、全然違いますね。
聴いたら元気になれる曲
Q:「Jasper」はどんな方に聴いてもらいたいですか?
子どもたちが訳もわからず口ずさんでくれたらいいなって、まず思うんですよ(笑)。“脱げないストリッパー”のあたりとか(笑)。もちろんたくさんの人たちにいっぱい聴いてほしいって思います。聴いたら元気になれる曲がいいなって卓球さんと一緒に作ったので、やっぱり元気になりたい人に聞いてもらえればうれしいです。
Q:映画のイメージにもピッタリな楽曲ですが、タイトルには何か意味が込められているそうですね?
「Just like this!」や「Just like that!」がたくさん出てくるので、“Just”に掛かった言葉がないかなって探していたときに、たまたま“Jasper”という言葉を見つけて、これが宝石の名前だったんです。鉱石なんですけど、磨かないと宝石にならない石らしくて、なんだかこの映画にピッタリだなって思ったのが、最初のきっかけですね。人それぞれ、すてきな部分もダメな部分もある中で、自分のことって人のことよりもわからないものなんじゃないかと思うんです。自分はどんな人間であるべきか、自分はどうするべきかっていうのは、生活していく中で内面を磨いていって、すてきなものに変わったりダメなものに変わったり、そういう風に人は生活しているものなんじゃないかって思っているんです。もしそうであるなら、この磨かないと光らない宝石の名前が、人の内面に関してはピッタリな感じに思えて、それでタイトルに決定しました。
Q:歌詞も独特な語感が心地良いですが、どんな思いを込められたのでしょうか?
パッと聴いたら「この歌詞は何?」って思われるかもしれないけど、言葉遊びも含めて、子どもには何もまだ意味がわからず口ずさめるような歌詞で、大人が聴いたらどういう意味なんだろうって思われる歌詞にしたくて、こんな歌詞を書いたんです。夢見ることをまず忘れちゃいけない。でも、寝ているときに見る夢は違う意味での夢だから、ベットで寝てばかりいないでってメッセージがあります。あとは映画でもありましたけど、モリーが自信を失くしたり、マゴリアムおじさんが引退することを知ったり、おもちゃたちが色を失って動かなくなるとか、わたしの中に印象に残っているシーンを、 “脱げないストリッパー”だったり“不機嫌なピエロ”だったり、あり得ないおもちゃのような存在に例えて、行き詰まった人々の心境を重ねてみたんです。
思い出させてくれるものがたくさんある映画!
Q:おもちゃに関する思い出などはありますか?
もう、めちゃめちゃ大好きです! 小さなころから持っているおもちゃを今も持っているんです。それにわたし、収集癖があるんですよ(笑)。やたらとおもちゃを集めてしまうのが、つい最近まで続いていたんです。食玩とか集めて全種類そろえるものってあるじゃないですか。フィギュアとか大好きで、今も好きなんですけど(笑)、この歳になって集め続けていると、家がおもちゃだらけになってしまうのでこりゃダメだと思って、最近はスノードームだけを集めているんですけど(笑)。スノードームなら飾ってもおしゃれだし、だから今はそれだけにしているんです(笑)。
Q:もし、本当に魔法を使えたらどんなことをしてみたいですか?
まず男の子になってみたいですね。男の子になって女の子ではできないことをしてみたいかな(笑)。何ができるのかはわからないですけど考え方なども違うし、今の年齢になって思いますけどやっぱり女性とは違う気分のときもあるんじゃないかって、そう思ったりすることもあるんですよね。だから男の子になってみたいです。
Q:今回、映画を観て、歌手として学んだことなどはありますか?
この映画は自分が大好きであこがれていた世界観と似ているので、再確認をすることがいっぱいあったような気がするんですよね。歌い始めて3年近くたっていて、今まで歌詞を何曲も書いてきた中で、もっと面白い歌詞にしようという技術面を気にするようになってくるんですけど、伝えるべきことは伝えていかないとダメだなって、この映画を観て改めて思い直しました。自分らしさを持っているということもすごく大切なことなんだと思いました。先ほどナタリー・ポートマンが長い時間笑うシーンにグッときたって言いましたけど、笑っていれば大丈夫っていうこともあるってことが再確認できましたし。思い出させてくれるものがたくさんある、そんな映画だと思いました。
Q:最後に木村さんから一言メッセージをお願いします!
それぞれ人には、輝けるものだったりすてきなものだったり、自分ではわからないかも知れないけど、絶対にあると思います。自分ではわからないからって人のことばっかり気にせずに、自分のすてきなところを探してみるのも大切なことなんじゃないかな。殻に閉じこもっていてはもったいない! いろんな人と触れ合って自分の良さだったりダメなところだったりするところに、この映画を観て、「Jasper」を聴いて、気付いてほしいと思います。
『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』が完成する前から、作品のあらすじや資料映像などを観て日本版テーマ・ソングの製作をカエラ自身は快諾していたという。それだけに取材に対して強い意欲で挑み、23歳とは思えないしっかりした物の考え方や口調で回答する彼女の姿に、「Jasper」に込められた並々ならぬ熱意を感じた。「人は磨けば光る宝石を誰もが持っている」。彼女のメッセージが日本中を魅了するのは間違いない。
New Single「Jasper」は2月6日にリリース
映画『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』は2月16日より全国公開