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『ノーカントリー』ハビエル・バルデム 単独インタビュー

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『ノーカントリー』ハビエル・バルデム 単独インタビュー

幸運が僕を探してくれた。それは運命なんだ

取材・文:渡邊ひかる

本年度アカデミー賞で作品賞、監督賞などの主要部門を制した『ノーカントリー』は、1980年代のテキサスを舞台にしたサスペンス・スリラー。大金を偶然手にした男、その男の命を狙う殺し屋、そして殺し屋から男を守ろうとする保安官のバトルと、彼らがたどる壮絶な運命が描かれていく。『ファーゴ』の鬼才監督、ジョエル、イーサンのコーエン兄弟最高傑作との呼び声も高い本作で不気味な殺し屋アントン・シガーを怪演し、アカデミー賞助演男優賞に輝いたハビエル・バルデムに、作品についてや自身のキャリアについて話を聞いた。

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おかっぱ頭の誕生秘話

ハビエル・バルデム

Q:アントン・シガー(ハビエルの役名)の髪型について、アカデミー賞授賞式のスピーチでは「史上最悪の髪型」と言っていましたが、本当は意外と気に入っていらっしゃるのでは?

もちろん、実はとても気に入っているよ(笑)。アントンの髪型はコーエン兄弟が考え出したものなんだ。トミー・リー・ジョーンズがアメリカとメキシコの国境付近を撮影した1980年代の写真を現場に持ってきたんだけど、それに写っていた人々の髪型がアントンのようなおかっぱヘアだったんだ。それがコーエン兄弟にインスピレーションを与えたんだね。映画の中の立派なおかっぱヘアは、ヘアデザイナーのポールがスタイリングしてくれたもの。出来上がった髪型を見たときは、「いいね」と思ったよ。

Q:アントンはハードな役ですが、演じていて気分が滅入ったことは?

ときどきヘンな気分になったり、頭がボーッとなったりした。というのも、たとえ自分では望まなくても、撮影に入っている期間は役の一部を家に持ち帰ってしまうことがあるんだ。いつも周りに暗い空気が漂っている感覚があったよ。撮影現場を離れるときにその感覚を置き去り、普通の日常生活を送ろうと努めたけどね。

Q:アントンはいつの世にも存在する普遍的で自然的な脅威だと感じたのですが、あなた自身は彼という存在をどうとらえましたか?

そうだね。アントンは自然の大きな力に導かれているのだと思う。神話的な存在であり、大きな力に導かれて暴力を体現しているんだ。僕は彼を単なるサイコキラーにはしたくなかった。映画の中で語られている死、運命、暴力を結集したものがアントンだといえるんじゃないかな。

Q:アントンの武器は撮影後にもらいましたか?

ああ、今もわが家のトイレにあるよ……冗談さ(笑)。あの武器は誰も欲しがらないよ。あれは家畜を殺すための道具なんだ。しかも本物だよ。

ぼくはセクシーなんかじゃない!

ハビエル・バルデム

Q:以前、アレハンドロ・アメナーバル監督があなたのことを「どうしようもなくセクシーだ」と言っていました。

彼が本当にそう思って言っているのかは疑問だね。5、60歳の男が若い男をベッドに引きずり込むために言う言葉みたいだ(笑)。本気ではないと思うよ。少なくとも、コーエン兄弟は僕のことをセクシーだとは思っていないはず。それに、僕は自分のことをセクシーだと思っていないしね。

Q:そういったイメージをアントンのような恐ろしい役でぬぐい去る意図も少しはあったのでしょうか?

どうかな。まず、どうして皆が僕のことをセクシーだと言ってくれるのかがわからない。『ハモンハモン』などのイメージで言ってくれているのだと思うけど、あのときはまだ20歳だった。若さ自体が魅力的なこともあるし、それが皆の意見につながったのだと思う。もちろん、役によっては、人を惹(ひ)きつけなくてはならないこともある。知的なものや感情的なもの、肉体的なもので、場合に応じてね。僕自身は自分をセクシーだとは思わないから、そのイメージから逃げる必要もないんだよ。

Q:セクシーと言われるのは居心地が悪いですか?

「誰がセクシーなんだい?」って感じ。本当にそう思ってもらえているのなら、心の底からうれしいけれどね。セラピストに「どうやったらセクシーになれるかな?」と相談したこともないし。映画の奇跡だよ。とにかく……ね(笑)。

幸運に恵まれた男ハビエル

ハビエル・バルデム

Q:これまでも個性的な名匠たちの作品に多く出演されていますが、コーエン兄弟もその一員ですね。

彼らはとても寡黙で、そしてノーマル。絶対にけんかをしないし、意見の相違もなく、2人で1人のようなんだ。恐ろしいことにね(笑)。僕は彼らを質問攻めにしたけれど、常に嫌がることなく丁寧に答えてくれたよ。

Q:本当は暴力的な映画が苦手なのだそうですね。どんな映画がお好きですか?

退屈だと思われるかもしれないけれど、2人の人間がただ会話を交わしているような静かな映画が好きだ。2人の関係がどう発展するのか、観ている間に考えられるような映画がいいね。テンポの速いミュージックビデオのような映画は好きじゃない。

Q:今後も名匠たちとの仕事が続きますが、次々と素晴らしいプロジェクトにめぐり合えているのは、あなたが素晴らしい俳優である以外に何か秘訣(ひけつ)が?

僕はとてもラッキーなんだ。若いころから才能のある人たちに囲まれていたのも幸運のひとつ。しかも、僕が幸運を探していたわけではなく、幸運が僕を探してくれた。それは運命であり、天からの授かり物。それに応えるように、一生懸命仕事をする責任が僕にはあると思う。


照れた笑顔を見せながら、作品や俳優業について、ユーモラスかつ熱く語ってくれたハビエル。おかっぱヘアのアントンとはかけ離れた、ダンディーでスマート、そして大人の男の色気を漂わせた正真正銘のセクシーガイだった。オスカーを手にしても「何も変わらない」と断言する彼には、今後もフランシス・フォード・コッポラ監督作など気になるプロジェクトがめじろ押しで、ウディ・アレンやミロシュ・フォアマン、マイク・ニューウェルらとの作品も日本公開待機中。幸運に恵まれた男、ハビエルから目が離せない。

(C) 2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.

映画『ノーカントリー』は3月15日日比谷シャンテ シネほかにて全国公開

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