『Sweet Rain 死神の精度』小西真奈美 単独インタビュー
こんな死神だったらいてもいいかもと思いました
取材・文: 平野敦子 写真:田中紀子
『UDON』や『叫』などさまざまなジャンルの作品に出演し、着実にそのキャリアを築いている小西真奈美。本作では一世を風靡(ふうび)した歌手を演じ、主題歌を歌い、ついにCDデビューも果たすという役柄。一見不幸のどん底にいるようにも見えるヒロインを見事に演じ、彼女の運命の鍵を握る死神と、かけ合い漫才のようなやり取りでコメディエンヌとしての部分も垣間見せた。初挑戦した歌や、共演の金城武との撮影中のエピソードなどについて、楽しそうに語ってくれた。
死神と人間のギャップ
Q:死神役の金城武さんと共演された感想を聞かせてください。
彼は待ち時間もスタッフやキャストの方々とコミュニケーションを取る方でした。その場で思いついたアイデアをすぐに話してくださるので、わたしもアイデアを出しやすかったです。「2人でやってみるので監督見ていてください」と言って提案することもできたので、一緒にもの作りをしていくというスタイルを持っている方だと思いました。
Q:小西さんのお気に入りのシーンはありますか?
作品全体を通してというのはたくさんあるんですが、わたしが演じた女性の言葉でとても好きなのが「生きているとたまにはこんな日もあるんですね……」というせりふです。そのシーンも言葉も好きで、彼女のことがすごく愛おしく思える瞬間でした。
Q:レストランで2人が話しているシーンも漫才のようで楽しかったです。
微妙に死神と人間の会話がズレているんですよね(笑)。そこがちょっとクスッと笑えるシーンなんです。ある人にとっては深い悩みも、ほかの人からみればそうでもないというような、いろいろな意味を持っているシーンだと思いました。
Q:本作で歌手を演じ、主題歌も歌われていますが、歌手になった気分はどうですか?
歌うということは、こんなにも難しいものなんだと感じました。何も役を背負っていない状態で何かをするという機会がなかなかないので、そういう意味では自分自身と向き合うことでもありました。これがきっと、今自分にできる精いっぱいの表現方法なんだと思いました(笑)。
ポジティブに生きたい!
Q:今回はとても薄幸な女性を演じていらっしゃいますが、ご自分で「わたしって薄幸だな」と感じることはありますか?
うーん、どうでしょう……。わたしは割と物事をポジティブに考えられるタイプなので、あまりないかもしれないですね(笑)。わたしが演じた女性は自分の愛した人たちが次々と亡くなってしまうという不幸な状況で育ってきていて、わたしが想像もつかないぐらいの困難や不幸やつらいことに出会ってきているにもかかわらず、決して絶望しながら生きているわけではないんです。どこかで希望を持って生きているというところはとても共感できるところでもあり、彼女の好きな面でもあります。
Q:彼女にとって一瞬だけですが死神の存在が救いになっている部分がありますが、小西さんにとって救いとなっている存在とはなんでしょうか?
やはりどういう状況にあっても、年齢を重ねていっても、変わらず一緒にいてくれる家族や友だちであったり、仕事の仲間であったり……そういった人たちの存在が一番大きな支えですね。
Q:小西さんが演じられた20代の藤木一恵さんと、富司純子さんが演じられた70代の一恵さんは、性格にかなりギャップがあると思いますがどう思われますか?
そこについての話し合いはなかったので、わたしは目の前にある自分の年代の設定というものを大事に演じました。出来上がったものを観たときに「あぁ、彼女はこういう女性になっていたんだ」という驚きと同時に、そこに至るまでのスクリーンでは描かれていない彼女が過ごしてきた時間という重みを感じました。いろいろな困難や苦労、いいことやうれしいことをすべて乗り越えたからこそ、ああいう性格になったのだと思いました。そういう意味では客観的というか、観客のような目線で彼女の人生のバックボーンを感じられたのが面白かったですね。
人生雨のち晴れ!
Q:撮影中に苦労したことや、壁にぶち当たったことはありましたか?
撮影中の苦労で一番大きかったのは“雨待ち”の時間ですね。この作品では全編を通して雨が降っているので、待って、待って、全部スタンバイもしているのになかなか撮影できないこともあるんですが、逆にもう今日はないかもしれないと言われていて突然雨が降り出して、急に「ハイ、いきます!」ということもありました。そのときの気持ちの持っていき方とか、瞬発力も必要だし、持久力も必要というところが苦労したところですね。
Q:『CHiLDREN チルドレン』にひき続き、今回また伊坂幸太郎さん原作の作品に出演された感想を聞かせてください。
わたしも「チルドレン」と今回の「死神の精度」と新作の「ゴールデンスランバー」は読ませていただきました。伊坂ワールドの中にある独特の疾走感とか、軽快な感じもあるんだけれど、その中でちゃんと深いことも描いているので、読み終わった後にもう一度あの部分を振り返りたいと思わせるところがいいですね。
Q:最後にこの映画を楽しみにされているファンの方々に一言お願いします。
死神という設定は非現実的でファンタジーのような感じではあるんですが、金城さんが演じる死神はとても人間くさい姿で、わたしが演じている藤木一恵という女性の前に現れるので、「あぁ、こんな死神だったらいてもいいかも」と思います。あとは人生にはいろいろなことがあるけれど、捨てたもんじゃないな……とか、生きていれば何かいいことがあるかもしれないと感じてもらえる作品だと思うので、観た後に少しでも何かが残ればいいと思います。
物語の中ではとても不幸な女性を演じていた小西だが、本人は至って楽天的で明るい性格のようだ。彼女がたとえ不幸な星の下に生まれた女性を演じたとしても、その天性の強さとしなやかさでその不運さえも取り込み、良い方向に転じさせてしまうような何かを内に秘めているような人に感じてしまう。ひたすら雨を待ち、金城を含むキャストやスタッフたちと彼女が苦労して作り上げたステキな死神との物語を、ぜひスクリーンで堪能してもらいたい。
映画『Sweet Rain 死神の精度』は3月22日より全国公開