『シャイン・ア・ライト』ニューヨークプレミア ローリング・ストーンズ、マーティン・スコセッシ監督
コンサート全体が、彼らが作曲した一つの曲みたいなもの
取材・文:細木信宏
世界最高峰のロックバンドであり、約40年間第一線を突っ走ってきたローリング・ストーンズがニューヨークを訪れた。今から2年前の秋、ニューヨークのビーコン・シアターで彼らが行った2回のライブを、マーティン・スコセッシ監督が見事に映像化した映画『シャイン・ア・ライト』のプロモーションのために、彼らは再びこの地に足を踏み入れたのである。現地時間の30日、パレス・ホテルで行われた記者会見は、世界中の記者がもみくちゃになるくらいのすし詰め状態で始まった。
彼らが密着感を持つような小さなステージで撮りたかった
Q:マーティン監督、ニューヨーク出身のあなたが、小さなシアターで製作したこの映画にどれほど重要な意味がありますか? それとミック。あなたにとって、あのとき(2年前の秋、ビーコン・シアター)の観客は特別だったのでしょうか?
マーティン・スコセッシ監督:わたしたちは、初めにコンサートを大きなアリーナで行う話をしていて、それを調べていた際に、彼らが密着感を持つような、いつも彼らが歌っているやり方で、そしていつもより小さなステージで彼らに演奏させて撮影をした方が、より面白いと思ったからさ。まるで一つの映像から映像へとカットするような動きでね。あとは、グループの親密さを描きたかったんだ。
ミック・ジャガー:今、あなたは何て質問した(笑)? ああそうそう、あのときの観客は素晴らしかったよ! 彼らは、バンドの演奏を楽しんでいる観客として、映画に魂を吹き込んでくれた。われわれバンドだけじゃなく、映画にとっても素晴らしい観客だった。
キース・リチャーズ:あそこにいた観客は、皆カメラマンじゃなかったのかい(笑)?
Q:キース、あなたにとって、あの夜は特別だったのでしょうか?
キース・リチャーズ:ビーコン・シアターは、いずれにしろ何らかの理由で特別なんだ。それは、演奏をしたときに、劇場がまるで腕のように包み込んでくれる感覚になって、それはとっても温かく、大きなスタジアムでは味わえない素晴らしい雰囲気だったね。
ジムにも通っていないし、ビタミン剤も飲んでいない
Q:この映画は、通常の映画館とIMAXの映画館でも公開されるらしいのですが、ファンにとってどれだけ普通とは違うのでしょうか?
ミック・ジャガー:そりゃ~、もっと大きく見えるんじゃない(笑)!
ロン・ウッド:われわれの不完全な姿も明らかになるっていうことだね(笑)。
ミック・ジャガー:マーティンが、小さな劇場で親密な映画を撮ると決めたときに、「それでも結局は、IMAXの映像で大きく膨れ上がってしまうんだろ。親密な瞬間なのにIMAXで観られるわけだ」と皮肉ったんだ。だけどIMAXの映像は素晴らしかった。2つの形式で上映できて満足しているよ。
Q:バンドの皆さんに質問です。今回の作品はわれわれ皆が驚いていますし、ツアーをやるのにどれだけの計り知れぬエネルギーが必要かを、改めて知らされました。そしてミック、あなたは一体どんなビタミンをとって、どのようなワーク・アウトをしているんですか?
キース・リチャーズ:もし教えたら、皆それを飲むね(笑)!
ミック・ジャガー:ジムも通っていないし、ビタミン剤も飲んでいないよ。ただやるだけなんだよ。あのような状況下では、体が高圧的な状態になるんだ。特に映画の撮影をするときは、野球でいえばまともに打席に立って打たなきゃならないんだ。でも今回の撮影は幸運なことにわれわれには2日間あった。さっきキースが言っていたように、1日以上演奏できたことは良かったよ。ある意味、初日のコンサートはわれわれにとって、リハーサルのようなもので、2日目がやってきたときには、小さな劇場で演奏することで、しっかりと調整できた。なぜなら、過去に数多くの演奏を小さな劇場でこなしてきたからなんだ。とにかくおれたちは、毎回ステージに立って、ただやるだけなんだ。
コンサート全体が、一つの曲みたいなもの
Q:彼らの曲の中で、どの曲があなたにとって重要であり、感情移入させてくれたり、楽しませてくれたのでしょうか?
マーティン・スコセッシ監督:それは、難しいなぁ~、なぜならあのときのコンサート全体が、彼らが作曲した一つの曲みたいなものだからね。だから、申し訳ないけど一つにはしぼれないよ。
Q:ミックとキースは、マーティン監督のどの映画が好きですか?
ミック・ジャガー:おい、キース! どれが好きなんだい?
キース・リチャーズ:えっ、おれ!?
ミック・ジャガー:そう、マーティンの作品でだ。
キース・リチャーズ:マーティンの作品……。
ミック・ジャガー:おれが好きなのは『クンドゥン』なんだ(マーティン監督が鼻で笑う)。いや、冗談じゃなくって(笑)。マーティンが撮ったんだよね、あれは。
マーティン・スコセッシ監督:ああ、そうだよ。
ミック・ジャガー:彼の映画は全部好きなんだ。一つ好きな映画を選択することは難しいよ。全部好きだから、次回作も待ち遠しいんだ。
Q:あなた方は、どれくらい(この年になっても)楽しんでいるのでしょうか? そしてその楽しんでいる瞬間を、映像に収めることができたのでしょうか?
ミック・ジャガー:この映画は、ある意味おれたちの神経を高ぶらせてくれたし、別の意味では楽しめることもできた。もちろん、マーティンにとって、たくさんのことが起きていて、それをカバーしなければならないし、彼にとっては挑戦だった。だが、すごく楽しかったよ。いつも楽しいことを探しているけど、それと同様にいつも普段やっていることと違うことに挑戦しなければだめなんだよね。
マーティン・スコセッシ監督:わたしにとっては、その瞬間は文字通り、バンドが共に演奏しているときで、すべての曲が、構成や物語になり、その音が全部、一つのキャラクターになったときだね。キャラクターの一つがそれぞれの曲にあるんだ。それと撮影監督による素晴らしい映像美だ。彼らは、どの瞬間に動いたらいいか理解していて、それはまるで詩人のようだった。
あと5年で70歳……まだまだ現役
Q:誰がこのドキュメンタリーの映像を編集したのですか? また皆さんは、70歳まで現役でいることができると思いますか?
キース・リチャーズ:わずか5年先じゃないか(笑)!
マーティン・スコセッシ監督:わたしと編集のデイヴ(デヴィッド・テデスキ)が9から10か月かけて編集したよ。音楽に関しては比較的早く編集できたね。楽しかったが、一番難しかったのはそれを全部集めること。デイヴは恐らく400時間ものアーカイブ映像を持っていたんじゃないかなぁ。そして彼が約40時間くらいをその中から選択してわたしに見せてくれた。それからは、全体のバランスの問題になったんだよ。肝心なのは、音楽との均整を損ねないことだった。もし仮にアーカイブ映像だけでこの映画を作ったら、4から5時間のドキュメンタリーになっただろうね。
ミック・ジャガー:ある瞬間は、そのアーカイブの映像が長くなりすぎて、コンサートではない、違う映画に向かってしまうように見えたんだ。確かにそれらの映像は惹(ひ)き付けられるものがあったが、長過ぎてしまうとコンサートのステージに戻りたくなってしまうからね。デイヴはやや長くアーカイブ映像を使っていたが、完成したものは良かったよ。
映画の中には、ローリング・ストーンズのファンにはたまらない曲の数々が詰まっている。メンバー全員が60歳を超えた今でもエネルギッシュに輝き続けるのは、今までの人生の中でやりたいことをしてきたからであろう。実際彼らを生で見て、そんな素晴らしい人生の生き方にあこがれを抱かずにはいられなかった。
写真:細木信宏&(C) 2008 by WPC Piecemeal, Inc. All Rights Reserved.
映画『シャイン・ア・ライト』は2008年冬、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国にて公開