『痛いほどきみが好きなのに』イーサン・ホーク 単独インタビュー
僕の恋愛経験を基に物語を作ることによって、
リアリティを出したかった
取材・文:小林真里 写真:秋山泰彦
イーサン・ホークの監督2作目であり、自身の体験を基にした半自伝的な小説を脚色し映画化した、『痛いほどきみが好きなのに』は、ニューヨークを舞台に繰り広げられる、若手俳優の男子とミュージシャン志望の女子という2人の恋の行方を描いたラブストーリー。恋に翻弄(ほんろう)され、エスカレートした行動に出てしまう主人公ウィリアムの不器用で熱烈な恋模様を男性の目線から繊細(せんさい)に描いている。今まで数々の恋愛映画に出演してきたイーサンに、愛について話を聞いた。
実生活での恋愛や人生経験を基に作った
Q:あなたが書いた小説を監督2作目として映画化しようと思った理由は?
実際には今回は監督2作目なんだけど、あらゆる意味で自分にとってのデビュー作だと思っているんだ。最初にこの作品を作ることができたら良かったのに、という意味も込めてね。僕はこの映画の舞台になったニューヨークを愛しているし、あの街の放つエネルギーがとても好きなんだ。住んでいる人々も、あの街が持つ独自の世界観も、ニューヨークという街を構成しているすべてのものをとてもよく知っているし、うまくそこで映画を撮れるんじゃないかと思ったんだ。製作費がとても高い映画が多いけど、僕はお金を最小限に抑えて自由に映画を作りたかったんだ。そういう作品の作り方を、本作で学ぶことができると思ったんだ。それがとても面白そうに思えたしね。これが僕にとってのベストな解答かな。
Q:原作は自伝に近い話だそうですが、本作のような恋愛体験も実際にあったことなのでしょうか? またどれぐらいあなたの経験がこの映画に生かされていますか?
あの小説は僕が経験したことを基にしているけど、とにかく今回はエモーショナルなアイデアを描きたかった。そして物語を描く上で、とにかくディテールが大切だと思ったんだ。自分の人生の中で実際に体験したさまざまなディテールを盛り込むことによって、作品がよりリアルなものに感じてもらえるはずだとね。また、僕は人の感情についてのストーリーを描くことに興味があったんだ。人は最悪な出来事や困難に直面したときに、いかにその中でちゃんと自分を見つけ出すか。恋愛関係がうまくいかなくなってつらい思いをしたとき、どうやってそこから立ち直り自分を取り戻すか。そういったことが、いかに人の人生を形作っているかを描きたかったんだ。
Q:自分の悲恋話を基に自伝を書くこと、そして映画を作るのはとても勇気がいることだったと思います。この作品をあえて作ったのは、どういう理由からなのでしょうか?
僕は映画の中で、アートと人生というものをランダムにミックスして、その2つの境界線をぼかしたかったんだ。リアルだけど芸術的でもあるという感じの作品を作りたかったんだ。それがこの作品を作らなければいけなかった理由じゃないかな。
サラは実在の人物なのか?
Q:サラのモデルになった女性は存在するのでしょうか? もしいるとしたら、この映画を通じて、彼女に何を伝えたかったのでしょうか?
うーん、そうだね……。主人公のウィリアムには、僕のこれまでに実体験も反映されているし、これまでに経験したさまざまなエモーショナルな思いを基に描いているけど、サラのモデルは誰か具体的に存在するわけではないんだ。これまでに会ってきた女性やいろんな経験、そして自分のイマジネーションを基に創作したキャラクターだね。
Q:ウィリアムの父親役であなたは映画に出演していますね。その父親が息子と再会し、恋愛のアドバイスをするシーンが印象的でした。あのセリフは過去にあなたが言われたことですか? もしくは、今の自分から過去の自分へのアドバイスなのですか?
あそこはずっと疎遠になっていたウィリアムとその父親が再会する、映画の中でも最も重要な場面の一つだよね。僕も好きなシーンだよ。ただ、この映画はサラについてではなくウィリアムについての物語だから、彼とサラの間の恋愛問題やその相談ということよりも、父と息子が長い確執を経て再会するという点を描いているのが、大きな意味を持っているんだ。あれは僕が実際に、誰かに言われたセリフというわけではなく、僕自身の言葉でもあり、ウィリアムのための言葉でもあるんだよ。母親役のローラ・リニーがウィリアムにアドバイスするシーンがあるけど、あれは実際に僕が昔母親に言われたことなんだ。
Q:原題の『The Hottest State』は、劇中で語られるようにウィリアムとあなたの故郷でもあるテキサスの名称なわけですが、このタイトルにしようと思った理由はなんだったのでしょうか?
このタイトルには2つの意味が込められていて、まず1つは今君が言ったようにウィリアムの故郷である州(state)のテキサスを指している。もう1つは、ウィリアムがサラに情熱的に恋に落ちた、その状態(state)を現わしているんだ。彼はサラに夢中になりすぎて、心を何かで突き刺されたかのように身動きが取れなくなる。そして同時に、悩み抜いた揚げ句、彼はテキサスに向かい父親と対面し、子ども時代にできた心のかさぶたを取り去るんだ。
愛の意味するところとは……
Q:あなたにとって愛とはどのような意味を持っていますか?
うーん……一言で言うのは、とても難しいね。愛にはいろんな意味合いがあるから。人に対して心から親切にする気持ちや情熱じゃないかな。
Q:本作の音楽はとても素晴らしかったと思います。そうそうたるミュージシャンが集まったわけですが、どうやってこれだけの顔ぶれを参加させることができたのですか?
この映画ではとにかく音楽にこだわりたくて、どういうミュージシャンに参加してもらおうか、時間をかけてじっくり考えたんだ。できるだけ多くのいろんなミュージシャンにそれぞれの特徴を生かした音楽をプレイしてもらいたかったんだけど、今回は素晴らしいミュージシャンたちが集まってくれてラッキーだったよ。
Q:次に執筆する予定の小説や監督作のプランについて、もしあれば教えてもらえますか?
具体的にまだプランはないけど、いろんな題材で小説を書きたいし、また映画も撮っていきたいと思うよ。今度は誰かが書いた脚本を基に映画を撮ってみたい。とにかく、新しいことにチャレンジしていきたいね。
映画の主人公同様、やはり繊細(せんさい)な表情でどこか緊張している様子が終始うかがえたイーサン。こちらの質問に対し何度も言葉に詰まり、I don’t know(わからないな……)を連発することも。アーティスト肌の繊細(せんさい)な俳優というイメージ通りの人だったが、インタビュー前の写真撮影タイムには気さくに話しかけてくれた。新たにベイビーも誕生するイーサンには、今後も俳優として監督として、さらなるキャリアを積み上げていってほしい。
『痛いほどきみが好きなのに』は5月17日より、新宿武蔵野館ほかにて全国公開